イトイの読んだ本、買った本。
 
イトイの読んだ本
『ウォーター・ビジネス』
著者:中村 靖彦
発行:岩波書店(岩波新書)
価格:¥ 819(税込)
ISBN-13:978-4004308782


Amazonで購入する
 
イトイはこう言っている。
日本に暮らしていると、
水のありがたみがわかりにくいのですが、
海外に出たとき飛行機の窓から陸地を見ると、
地球って、「海と砂漠と、少々のそれ以外」だなぁと、
よく思います。
この先、石油よりも、水で争うようになるのではないか。
そんなSF的なことを考えていたら、
どうも、そういうジャンルの本がたくさんあるみたいで。
まずは、一冊、買ってみたのです。
 
現在、水は、石油や食料のように
大企業の占有が始まっているわけではない。
世界における水の偏在は深刻であり、
大企業の参入も始まっているが、
水の「所有」に関する争いは
まだ地域の中の問題にとどまっている、
というのが、この本の内容です。

とりあげられているのは、
・ボトルウォータービジネス
・農業の灌漑用水
・水道事業
の3点です。

水をわざわざ買って飲んでいる人が
本当にいるのかしらん? というのが
わたしの生活観なのですが、
4人に1人が飲用に主に
ボトルウォーターを飲んでいるという
統計(2008年)が。驚き!
同じく4人に1人が水道水を飲んでいる
ということなのですが、
むしろそちらに、
「えー!」と驚く方もいるかもしれない。
同じ日本の中でも、生活スタイルの違いを感じます。
自分の感覚を信じすぎてはだめだなあ。
統計、データというものの力です。
この本は、手ばやく信頼できる
元データを探すのに便利でした。
出版が古いので載っているデータ自体は前のものでも、
文献や出典をたどって、
最新の統計に速くたどり着けたりします。
水関連書籍、1冊だけでなく、
何冊か読みたくなってきました。

水や食料などについての今後の予想は
いろいろな可能性が考えられるのではないかと
思います。
学説にもブームがありますし、
統計や分析の手法は年々変化していきます。
特に、自然科学や経済の分野などにおいて、
将来を予測するという行為は、
正解を出すということではなく、
一定の可能性を表しているに過ぎません。

出典を意識しながら複数の意見に触れて、
最終的には自分の判断で
自分の信じるところを行う‥‥
これって、当たり前のことなのですが、
データをもとに、極端な仮説や断定をさけて、
ていねいに現状を解説するこの本を読んで、
あらためて大事なことだなあと感じたことです。
(ゆき)

 
乗組員も読んでみた。
この間、東北で弁護士をしている友だちが、
「○○山のふもとにおいしい水が出るんだけど、
 その土地でも売って、
 市の財政を立て直そうかねえ‥‥って
 計画を立てたときに、
 国内からは問い合わせがなかったのに
 どこで聞きつけたか、
 アラブの人たちから数件問い合わせが入ったんだ」
 と言っていて、
「へえ、アラブは暑いところだから、
 水不足なのかなあ」
なんて、そのときは思ったのです。
ところが、この本を読んでみたら、
「あ! 石油の次は水で儲けるってこと?」
と気がつきました。
世の中を知らなすぎでした。

この本には、日本、アメリカ、ヨーロッパ、中国などの
各国の水事情や、人の水に対する意識、
水のビジネスとその問題点などがまんべんなく
取材やデータをもとに書かれていました。
参考文献もきちんと紹介されています。
ですから、水について考える
はじめの一歩としてよかったです。

たとえば、身近なところでは、
国によって異なるのですが販売されている飲用水に
「ナチュラル・ウォーター」、
「ナチュラル・ミネラル・ウォーター」、
「ミネラル・ウォーター」「ボトルド・ウォーター」
といった種別があることや、
種別ごとに作り方や成分、味もみんな違うのだ、
ということを知ったり、
自分が買っている水が、別のメーカーの水と
同じ水源を使っているのに値段が違うと知ったり。
読んでいくうちに、自分の中で、
飲用水の選び方の基準がかたまりました。
せっかく水にお金出すのだから、
納得できるものを買いたいです。
いままでいろいろな商品を試してきましたが、
これで、すっきりしました。

また、いままで考えたこともなかったことを
考えるきっかけになりました。
水の値段ってなに?と思いましたし、
水はだれのものか?というのも、気になりました。
水にまつわる法律や条例などのルールは、
国によってまちまちですし、
これから改訂したり、
新しく作られることが多くなりそうです。
これから大きな変化が起きそうなところって、
なんだかわくわくします。

**************

『ウォーター・ビジネス』への感想メールを
たくさんお送りくださり、
ありがとうございました!
また次回の「イトイの読んだ本、買った本」を
どうぞお楽しみに。

2009-05-23-SAT
ほぼ日ホームへ