機関車を見つめる少年。
友だちと迷い込んだ妙な森。
ポニーと名付けられた犬。
そして、特別な存在である母親。
こういった、いくつも並ぶ
「わたし」の断片的な記憶は、
どれもが、どこかぼんやりとしています。
エピソード自体の時間も、
過去の「わたし」のことが書かれているのか、
いまの「わたし」が過去のことを振り返っているのか
境目がありません。
だいたい、これらのエピソードは、
「ほんとう」に起こった(あった)ことなのか、
思い込みの夢幻なのか。
「つまり俺は、誰のものでもある、
不特定多数の人生を生きているということだな」
(本文より)
誰かの夢を読んでいるのか、
誰かの過去を読んでいるのか、
よくわからなくなる、夢をみているような小説でした。
そして、読み終わったあと、
いま、自分が「ほんとう」だと思っている自分の記憶も、
同じくらいあいまいなものなのではないか、
とちょっと不安になりました。
**************
『世紀の発見』への感想メールを
ありがとうございました!
また次回の「イトイの読んだ本、買った本」を
どうぞお楽しみに。 |