この本は、現在テレビドラマや映画、舞台で
大活躍されている俳優・堺雅人さんが、
2004年から2009年にわたって
テレビ情報雑誌に連載していた
エッセイ全50回に書き下ろしを加えたものです。
まず、これが、ほとんど初めて文章を発表される経験とは
思えないほど、読みごたえがあり、おもしろいことに
驚きます。
たとえば子供の頃のエピソードとして
幼稚園で「カベムシ」を演じた時のこだわりや、
少年野球のチームにいたとき、打てないと思いながら
バッターボックスに立った時の気分を
客観的にかつ再現力豊かに描写されていますが、
一抹のおかしさがかならずあって、笑ってしまいます。
この一連のエッセイでとくにわたしがおもしろいな、
と思ったのは、そういった客観的な目で、
あちこちにちょこちょこと書かれている
「俳優」についての職業観です。
俳優さん、役者さんは多くのひとの前に出て
表現をする仕事であり、
ひとによっては、そこから収入が得られない場合でも、
別の仕事を持ってまでされているひともいるという、
ちょっととくべつな感じのする仕事ですが、
堺さんは、たとえばこういった感じで解説されます。
俳優は、基本的には「受身」の職業だ。約束した時間に、指定された場所にいき、あらかじめやれといわれたことをやる――。せんじつめれば俳優とはそうした職業だと、僕はおもっている。
(中略)
もちろんこの仕事にはヨロコビもあって、(説得力はあまりないかもしれないけど)僕はけっこう気にいっている。
(「鈍」より)
まえの現場でうまくいった方法はその現場だからうまくいったのであって、いつでも有効とは限らない。うまくいく場合もないではないが、まずは通用しないとあきらめて、いちから方法をかんがえたほうが、いい結果につながることがおおい。
(「教」より 原文には一部傍点あり)
それぞれの仕事にはそれぞれ別のたいへんさがあり、
ここから先が堺さんたち俳優さんのすごいところなのだと
頭ではわかるのですが、
気負いやてらいなくこう書かれると、
ふだん自分がなんとかかんとか悩みつつも
仕事をしていることと、近い部分があるのかも?
なんて、すこしうれしくなってしまいます。
もちろんこれも、もしかしたら堺さんの慎み深さや
人を楽しませる力、お人柄のなせる技かもしれませんね。
このほか、
詩人へのあこがれや「品」についての考察など、
エッセイとして楽しめるところもたくさんあります。
またぜひ、どこかでエッセイを書いてほしいな、
と思います。 |