イトイの読んだ本、買った本。
 
イトイの読んだ本
『「痴呆老人」は何を見ているか』
著者:大井 玄
発行:新潮社(新潮新書)
価格:¥ 735(税込)
ISBN-13:978-4106102486

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イトイはこう言っている。
(2009年10月22日「今日のダーリン」より)

飛行機のなか持ってきた本を読んだのですが、
これがみごとな大当たりでした。
先日、松山に向かう飛行機のなかで、
松家さんが「大井玄」という方の本を読んでいたので、
それを憶えていて、一冊買ってきたのです。
『「痴呆老人」は何を見ているか』という新潮新書で、
気持ちよくこころに吸い込まれていきました。

 
乗組員も読んでみた。
「うちの親も歳だし、読んでおこうかな」と
いう気持ちで読みはじめたところ、
想像していた内容とは
かけ離れた話題の広がりと深さがあり、
1行1行、だいじに読みました。

おどろくほど、すっと入ってくる言葉で読みやすく、
新書なので、読む分量も
ハードカバーに比べれば、だんぜん少ないですが、
1章ごとに考えたいことがわいてきて、
吉本隆明さんの「沈黙」の話を読み返したり、
知ったことや、わかったことを人に話したくなって、
とにかく、毎日1章読んでは「なるほど!」と思い、
友達や家族に話しまくる‥‥
ということを繰り返しているうちに、
全8章を読み終えるまでに、1週間がたってました。

著者は、終末期医療とよばれる、
人生の終わりが近いおじいちゃんや
おばあちゃんをみているお医者さんです。

本書には、たとえば‥‥

・沖縄には「ぼけ老人」がいない。
・人間関係がうまくいかなかったり、
 生きていくことに不安を感じるストレスがなければ、
 被害妄想や徘徊などの症状はあらわれない。
・欧米型の個人の「自立」をたいせつにする文化と
 日本の「つながり」をたいせつにする文化では
 「老い」や「生きる」ということの価値や意味が違い、
 「私」のあり方が違う。
 この文化の差が認知症人口の割合に大きく関係する。
・認知症になった人は、不安や恐怖によって
 今までよりも生きにくくなることを防ぐために、
 自分が一番しあわせと感じる仮想世界を
 あたらしく構築して、その中で生きている。

といったことや、
「老い」とはなにか、「私」とはなにか、
日本はどういう文化なのか、
いま、社会はどういう状態にあるのか、
文化や社会を作った歴史はどういうものだったか、
ひきこもりはなぜ起きるのか
‥‥などが書かれています。

むずかしそうに見えるテーマですが、
本を読んでいると、それらのテーマの素は、
実は、自分自身や身近なところにあると気づかされ、
日々なんとなく感じていることや、知識の断片が、
「点」が「網の目」になっていくように、
すーっとつながって、よくわかるのです。
すっきりしました。

この本に出てくる沖縄の話や、
やすらかな老後の話を、
「ぼけたくない。迷惑をかける」と
うだうだ言っていた70歳近い母にしたところ、
「そういうことだったとしたら、
 死ぬのはこわくなくなるねえ」とニッコリ。
聞いた瞬間は、「あれ?」と思う感想でした。
「ぼけたくない」じゃなくて、
ほんとは「死にたくない」だったのか。
でも、本を読んだ後だと、
「そうだよなあ」と、ふに落ちるのです。
この本は最後のほうでは、
「生存戦略」の話になります。

よく生きながらえるために
だいじなことを
気づかせてくれる本です。

※「痴呆」「ぼけ老人」という言葉は本書にそろえました。
著者はこれらの言葉をお使いになっている理由を
本書中で、ていねいに説明されています。
よろしかったら、本書をお読みください。

2009-11-14-SAT
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