イトイの読んだ本、買った本。
 
イトイの読んだ本
『善人は、なぜまわりの人を不幸にするのか』
著者:曽野 綾子
発行:祥伝社(祥伝社黄金文庫)
価格:¥ 630(税込)
ISBN-13:978-4396314941

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イトイはこう言っている。
このところよく見られるかたちの
「抜き書き」を集めた本です。
だからといって、なめちゃいけない。
実は、このところの「抜き書き」の本は、
相当に力のあるものが多いんですよね。
『人生の鍛練 小林秀雄の言葉』だとか、
『ダザイズム 太宰治不滅の至言451』だとか、
抜き書きされる作家の力があると、
ほんとにおもしろいものができるんですよね。

曾野綾子さんという作家については、
新潮社の雑誌とかで、厳しく本質的なことを言う人だと、
少々怖がりつつぽつりぽつり読んでいましたが、
この本で、あらためてずしんと来ました。
内容は、タイトルそのものです。
お仕着せの「善」に対する凝視です。
自信のある善人の方々は、曾野綾子さんと
にらめっこをしてみるといいかもしれません。
ぼくは、曾野綾子さんの勝ちに賭けます。

 
乗組員も読んでみた。
著者の曾野綾子さんは、
幼い頃からのカトリック信者であり、
人の心や家族をテーマにしたたくさんの作品で
多くのひとに読まれ、支持される作家であり、
NGOの代表として世界各国でボランティア活動をし、
日本財団の会長をかつてつとめ、
現在は日本郵政株式会社の取締役‥‥、と、
公私共に、人の間に身を投げ出したような経歴の方です。

しかし曾野さんの小説やエッセイを読むと、
人が本来持つ純粋さを無心に信じているとか、
理想の平和な社会を求めて、こういった活動をしている、
という感じは、うかがえません。

曾野さんのいろんな本から
「善人は、なぜまわりの人を不幸にするのか」について
書かれている部分を集めて抄録したこの本を読んで、
その「感じ」が、よくわかってきたような気がします。

しかし時とすると、善意ほど恐ろしいものはない。悪意は拒否できるが、善意は拒否する理由がないからだ。
(本文より)

善意の恐ろしいのは、善意で目が曇ること、
そのため「人はそれぞれ違う」ということが
わからなくなること。
私には、いくつかの軸で書かれている本書の中で、
この方面からの照らし方が、
もっとも、どきーん、としました。

でも、ほんの1年前だったら、
違うところが気になっていたような気がします。
ほんとうに人というのは一筋縄ではいかないですね。
できれば、他人に対してもそう思い、
自分の理想を押し付けたりしないように
気をつけたいです。

しかしその気負いも、「無理せずほどほどにね」と
曾野さんに言ってもらえそうで、いいんです。

2009-12-12-SAT
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