糸井重里の 本能カレー  ── レシピですとは言えないけれど ──
その2 スパイスを食うカレーです。

野菜の下ごしらえはアシスタントに任せ、
糸井重里ががっしり向き合うのは、スパイスです。
どうやら「本能カレー」のいちばんのポイントは、
スパイス・ブレンドにある様子。


イトイ 皮をむいたカルダモンを、これで砕きます。
──── バーミックスで。
イトイ バーミックスに、なんかこういう、
アタッチメントがあるんです。
これで‥‥いきますよ‥‥。

(ジャーーー、ジャジャジャーーー)

──── おおーー。
イトイ けっこうな種類のスパイスがありますからね、
こうやって1種類ずつ
砕いていくのがたいへんなんです。
砕きながら、ブレンドもしていきます。
──── はい。

イトイ 次に砕くのは‥‥これかな。

──── ええと‥‥これなんでしょう?
イトイ コリアンダーです。
──── あ、書いてますね、コリアンダー。
イトイ 「これなんだー?」(甲高い声で)
「コリアンダー」(低い声で)
──── はい。
イトイ 「これなんだー?」(甲高い声で)
「コリアンダー」(低い声で)
──── ‥‥自問自答。
イトイ 「これなんだー?」(甲高い声で)
「コリアンダー」(低い声で)

──── そんなに入れるんですね?
イトイ 「これなんだー?」(甲高い声で)
「コリアンダー」(低い声で)
──── (どうしよう、妙なパターンに入ってしまった)
イトイ 「これなんだー?」(甲高い声で)
「コリアンダー」(低い声で)

──── (手はお留守にせず、悪ふざけを続けている!)
イトイ 「これなんだー?」(甲高い声で)
「コリアンダー」(低い声で)

(ジャーーー、ジャジャジャーーー)

イトイ 「これなんだー?」(甲高い声で)
「コリアンダー」(低い声で)

──── あ、すごくいい香り。
イトイ うん。
挽きたてはやっぱり香りが立つね。
──── はい。(よかったー、妙なパターンから抜けたー)
イトイ コリアンダーは皮が固いので
どうしてもこんな具合になります。

──── なるほど。
次のスパイスは?
イトイ じゃあ、クミンを。

イトイ クミンは、ぼくけっこう入れますよ。
港区民だから。
──── ‥‥はい。
イトイ ぼくがクミンをたくさん入れる理由、
それはぼくが港区民だからです。
──── わかります。
イトイ 港区民が、クミンを入れる。
──── ‥‥‥‥。
イトイ なぜぼくはこんなにもクミンを入れるのか、
その理由を言うのであればそれはぼく‥‥

(ジャーーーーーーという音にかき消される声)

──── 次のスパイスは?
イトイ ブラックペッパーです。
──── おなじみの香辛料。
イトイ そうですね、みんな知ってるブラックペッパー。

♪ペッパー警部 邪魔をーしーないでーえー

イトイ ♪ペッパー警部 私たち これから‥‥
(歌うのをやめて)あ!
──── どうしました?
イトイ ピンクペッパー、持ってくるの忘れた!
──── ピンクペッパー‥‥(今の歌で思い出したんだ)。
イトイ うーん‥‥
ピンクペッパーという香辛料があると
もっと複雑な味になるのになぁ‥‥。
でもいいや、大丈夫!

(ジャーーー、ジャジャジャーーー)

イトイ お次は、フェンネル。
──── フェンネル。

イトイ インド料理屋さんで、
最後にくれる爽やかになるスパイスです。
──── あ、ありますね、あれですか。
フェンネルで、ダジャレとかは?
イトイ ‥‥あなたという人は、なんて贅沢な人なんだ。
そういう無料のサービスが
いつまでも続くと思わないでください。
──── すみません(ホッとする)。
イトイ フェンネルをぼくは
ふだんのカレーに入れてないんですが、
きょうは味を複雑にするために
ちょっとだけ入れることにします。
砕かないで、ぱらぱらっと。
──── 漢方薬をつくってるみたい‥‥。
イトイ クローブもそんなに多くは入れません。
強いですからね、クローブ。
‥‥このくらいかな。

──── かなり目分量で。
イトイ 大丈夫、バランスはあとでみます。

(ジャーーーーー)

──── どんどん行きますね。
イトイ カレーリーフというものがありまして。

──── それはもう、葉っぱですね。
イトイ このスパイスを
本当はどうやって使うかは知りませんけど、
ぼくはただこうやって‥‥

イトイ 同じように‥‥。

(ジャーーー、シャーーーー)

──── 葉っぱも砕く。
イトイ だからそのローレルも、同じようにしちゃいます。

──── ローレル。
ローリエ、ベイリーフ、月桂樹とか、
いろんな呼び名がある香辛料ですよね。
イトイ 煮込み料理では、あとでこの葉を取り出しますが、
ぼくはもう、こうやって‥‥

イトイ ジャジャジャジャーーーーっと。

(ジャジャジャジャーーーー)

──── はあーーー。
イトイ こんな具合に。

──── これをカレーに‥‥。
お茶のパックとかに入れて
あとで取り出すとかは、しない。
イトイ しません、食うんです。
スパイスを食うカレーです。
──── ‥‥強烈そうですね。
イトイ そうですね、心を揺さぶると思います。
「ただ辛い」だけじゃなくてね。

そしてシナモン。
シナモンは、
みなさんが思っているよりも入れます。

イトイ シナモンを多くするのはぼくの好みですね。
ええと、あとは‥‥。

イトイ レッドチリペッパー、唐辛子をすこし。
これは入れすぎると危険です。

イトイ さあ‥‥どうだろう?

イトイ ‥‥なるほど。
ターメリックとガラムマサラを‥‥。

イトイ さくさくっと混ぜて‥‥。

──── さすがです、手つきが慣れてますね。
イトイ いや‥‥
ぼくがやってることはデタラメなんですよ。
料理が得意な人から見たら、
「それまちがってる」
っていうことだらけなんです、ほんとうに。

それはそれとして‥‥。

イトイ ‥‥うん。
スパイスのブレンド、できました。

(ここからさらに、スパイスに手を加えます。
 つづきますよー)
2012-01-08-SUN
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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN