糸井重里の 本能カレー  ── レシピですとは言えないけれど ──
その6 だれにも見せないナゾの仕上げ。

野菜とお肉をじっくり煮込んだスープは、
順調においしく仕上がりました。
ここからルーを割り入れ、カレーにしていきます。
最後はどのように味を仕上げるのかと思ったら‥‥。
‥‥‥‥え?


イトイ ここまでくれば、できたも同然です。
じゃあ、火をとめてください。
──── はい(とめる)。
イトイ ルーを入れましょう。

──── 入れましょう(箱をあける)。
イトイ (箱をあける)これ、ぜんぶ入れちゃいましょう。
──── とかしながら入れる。
イトイ そう。

──── ‥‥よいしょ。
ぜんぶ入れました。
かきまぜますね。

イトイ ジャガイモをつぶさないよう、ゆっくりね。
というか、もう、あまりまぜなくても、
とろとろになるから。
──── わかりました(混ぜる手をとめる)。
やりすぎないほうがよさそうですね。
イトイ うん。
なんでかわかんないんだけど、
カレーって、手をぬいちゃったときのほうが、
うまくできたりするんですよ。
──── なんででしょうね?
イトイ なんでだろう、
情熱がべたつくのかな、一所懸命すぎると。

‥‥じゃあ、ここで、
炒めたスパイスも合わせます。

──── ぜんぶ入れました。
イトイ ぜーんぶ入れました。

イトイ かーなりスパイシーですよー。
ここも、ゆっくりとまぜます。

イトイ わお! うおう! うわああおう!

──── 香りが、ぶわあっと。
イトイ ここで味をみます。
──── はい‥‥。

──── ‥‥いかがでしょう。
イトイ ふむ‥‥。

イトイ あのね‥‥カレールーが足りない。
──── そうですか、ルーがすくなかった。
イトイ 水が多すぎたかな‥‥。
みんなに食わせたくて量を増やしたからね。
──── ひとっ走りして、
カレールーを買ってきましょうか。
イトイ いやいや、買ってこなくてもいいです。
足りないならば、ここから考えるさ。

微調整に入りましょう。
まずは醤油の隠し味で‥‥。

──── ウスターソースは、ここに。

イトイ ありがとうございます、それも入れます。

イトイ 隠し味は、隠さないとね‥‥。

イトイ さて、これでどうだ‥‥。

イトイ ‥‥なるほど。

イトイ よし、よし、よし‥‥。

──── ‥‥どうです?
イトイ だいたい、オーケーだと思います。
──── オーケーですか。
イトイ あとは最後に、ぼくはみんなをこう、
外に出してですね、
ないしょでやることがあります。
──── ‥‥え?
イトイ 出ていってもらえますか。
──── ‥‥このキッチンから?
イトイ はい。
──── 全員?
イトイ ぼくをひとりにしてください。
──── その‥‥ひとりでやることは、秘密。
イトイ ええ。
──── ということは、つくりかたの途中に
「秘密」という部分がある、
そんなレシピになってしまいます。
イトイ いたしかたないです。
そもそも、ずっとデタラメですから、
レシピと言えるものはできないでしょう。
──── たしかにそうかもしれませんが‥‥。
イトイ はい、じゃあみんな、出てって出てってー。

──── えー! ほんとに、ほんとなんですね?
イトイ はいはいー、カメラも出てって。
ぼくが「もういいよ」って言うまで、
ぜったい入ってきちゃだめです。

──── わ、わかりました(退室)。
‥‥ひゃー、すごいなこれは。

──── まさかの展開。

──── つくりかたの一部が、秘密。

──── カレーの仕上げは、なんと密室で行われます‥‥。

(いったい、密室の中でなにを‥‥?
 最終回へとつづきます)
2012-01-12-THU
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