ダイアモンドさんはニューギニア島での フィールドワークなど、 自分を受け入れてくれるかどうか わからない人たちに、たくさん会われてますよね。 そのとき注意されていることって、ありますか? |
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そうですね、新しい場所に行くときには まず、関わりのある人を通じて 相手に私を迎え入れる気があるかどうか 確認してもらいます。 それから、まず、土地の人と初めて会ったときには 「自分は何者で、なぜここにいるか」を 説明するようにしています。 「アメリカから来ました。鳥の研究者です」 といったことを伝えるんですね。 合わせて少しだけ、 鳥の鳴き声を真似るときもあります。 ポポポポポポ‥‥(真似をする) |
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一同 |
わあぁー。(拍手) |
そうすると相手の人たちにも、 私が鳥やニューギニアのことを まったく知らないわけじゃないということが 理解してもらえますから。 ニューギニアの人たちも鳥が大好きだし、 非常に関心を持って見ているので、 共通の話題ができるんですね。 |
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言葉ではなく、 感覚の部分を共有するんですね。 |
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そうですね、 やはりお互いに共有できる 「鳥が好きという感覚」が入り口になります。 あと、私がニューギニアが好きだということも、 見るとわかるのかなと思いますね。 |
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ええ、ええ。 |
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それと私は新しい土地に入った最初の日から、 土地の人々に「どんな鳥がいるの?」とか 「あれは何と呼ぶの?」というのを、 どんどん、どんどん聞いてはメモするんですよ。 次の日にはもう、 土地の人々がそれぞれの鳥を何と呼ぶのか、 100〜150個くらいメモしているわけです。 また実際に、森の中などを 話をしながら歩いていくことでも、 関係をつくっていきますね。 たとえば彼らは私に 「奥さんもらうのにいくら払った?」 「畑はどれだけ持ってる?」 「何種類のイモを植えてる?」 なんて聞いてきますし、 私は私で、彼らにいろんな質問をしますから。 |
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「伝える」ということについて すこし違う話になりますけど、 ダイアモンドさんの本って学術的な内容でありながら、 普通の人にもしっかりと面白さが伝わるものに なっていますよね。 |
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そこがうまくいっているのだとしたら、 こういうことかもしれません。 絵や音楽、本などの「表現」というものは 全てコミュニケーションで 発する側だけじゃなく、受け手の側がいますよね。 だから私は「どう伝えるか」にもとても興味があって、 常に考えているんです。 |
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あ、なるほど。 |
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また、私は大学で教えていますので、 学生たちの反応を見られるのも大きいです。 書きたいテーマを見つけたら、 私は授業で教えるようにするんです。 教えることで 「私が実はわかっていない部分」や 「どんな説明がわかりやすいのか」 「みんなが何を聞きたいか、聞きたくないか」 などがわかってくるので。 |
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それはよく、わかります。 |
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実は私、もともと今回の本に 「伝統的社会における女性の役割」 という章を入れようと思っていたんですね。 でも実際に大学で教えてみたところ、 女子学生たちの反応が、非常に悪かったんです。 憤慨したり、ものすごくがっかりしたり、 信じたくない学生もたくさんいるようでした。 というのはやっぱりアメリカの価値観からすると、 伝統的社会での女性たちへの扱いというのは、 かなり、ひどいものですから。 それを見ているうちに、 「伝統的社会における女性の役割」というのは 学術的にとても大切なテーマだとは思うけれども、 「まあ、入れなくてもいいかな」 と思って外したりしました。 |
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そこは、あっさりと外してしまうんですね。 |
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ええ、本は読者に向けて書いているものですから。 その章を入れることで、読者の半数から それほどまでネガティブな反応を されてしまうのなら、ね。 |
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教えていただきたいのですが、 ダイアモンドさんは非常に引いた目で、 物事を見ていらっしゃいますよね。 それは、どのようにして 偏りのないフラットな視点を 獲得してこられたのでしょうか。 |
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そうですね‥‥あの、 その部分についてあえて言えば、 実は、私の視点というのは フラットではないかもしれません。 |
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あ、そうですか。 ‥‥と、いいますと? |
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まず、私の生まれはボストンで、 アメリカの北東部で28年過ごしました。 そこで育ったわけですから、 ボストンという土地からは拭いきれない 非常に強い影響を受けています。 たとえば、寒い地方の松林を見ると、 自動的に「ああ、綺麗だな」と 思ってしまうような刷り込みがあります。 |
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たしかに、生まれた土地の 「刷り込み」などは、拭えないですね。 |
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ええ、そうしたことが私の視点に、 どうしても影響をしていると思うんです。 |
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はああー。 |
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また私はその後、ヨーロッパに行きまして、 イギリスとドイツで4年半を過ごしました。 この、色合いが違う2つの国からも それぞれ大きな影響を受けました。 それからアメリカ西海岸のカリフォルニアに移りました。 その頃からニューギニアに通うようになったのですが、 そこでもまた、非常に大きな影響を受けました。 ニューギニアというのは 本当にとても強い力のあるところで、 ニューギニアにいたあとで別の場所に行くと、 景色がぜんぶ白黒に見えるくらいの 感覚があるほどなんです。 |
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そうなんですか。 |
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ええ、そしてその後、47年間、 私はカリフォルニアで暮らしてきました。 ただ、カリフォルニアの生活はちょっと それまで他の地域で受けてきた印象と比べて 強い影響を自分に与えていないと思いますが‥‥。 ‥‥そういうわけで、長くなりましたが 私は、私自身の視点については 「ボストンとニューギニアに ドイツとイギリスが混じっていて、 あとはちょっとそこに カリフォルニアがまぶされているかんじだな」 と、思うんです。 |
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はああー、そういうことですか。 偏りのない視点というものはなくて、 ダイアモンドさんはご自身の視点を いろんな偏りの混ざったものとして できるだけ正確に捉えようとされている、 ということなんですよね。 いや、面白いです。 |
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あちこちの土地の影響を受けていることで 「引いた目を持ちやすい」という面はあると思いますが、 やはり、私は私なりに偏っていますよね。 |
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ええ、ええ。 その視点で言えば、 同じくぼくもそうでしょうし。 (つづきます。) |