JIMIYA
女子大生ヂミや1001夜。

98年10月7日(水)

【川越商店街:その1】
毎日行くのはいやだけど、週に1回くらいは行きたくなる。
毎日会うのはいやだけど、週に1回くらいは会いたくなる。
私と大学は、彼氏と彼女のような関係なのかもしれない。
新鮮味を味わいたいから「週1回以上はダメよ」と。
だから、毎週水曜日だけは、学校に行く。
水曜日のゼミに関しては「年間で5回休んだら留年」
だからなのかもしれない。
私にとって、水曜日というのは、
唯一、極細の糸で私と大学をつないでくれる、
有り難い日なのだ。

そんな有り難い日には、絶対拾える!
と、行きの電車に揺られながら、考えていた。
あそこに行けば、絶対に。

授業も終わり、
マックでダブチ(ダブルチーズバーガー)を食べながら、
「今日はヂミやだから、川越で降りるよ」と友達に言った。
「えっ?ヂミや?何ソレ?」
「あの、自販のヤツ」
「あ〜、こないだ言ってたヤツか」
そう、そう言えば、こないだ言ったのだった。
色んな情報を得るためにも、
ヂミや宣言をしとくのは、大事な戦略のうちなのだ。

案の定、友達はナイスな情報を提供してくれた。
※この情報に基づき、近々実行するので、乞うご期待!

私は、期待に胸ふくらましていた。
小江戸川越の、川越商店街でヂミやすることに。
(川越には、「小江戸」っていう枕詞がつくらしい。
まあ、「下町浅草」みたいなもんだろう。)

この川越商店街、なかなか侮れないのだ。
なぜ、侮れないのか。
すっごーーーーーく、なっがーーーーーいからだ。
あまり他の商店街のことは知らないけれど、
私の知ってる限りでは、長さはナンバー1なのである。
商店街の距離が、だ。
それだけ長いんだったら、
自販の数だってハンパじゃないだろう。
これが、今回の作戦だった。

電車を一人、川越で降りる時、
「今日は、何台やんの?」と友達に聞かれた。
「20台くらいかな」
「えっ、それだけしかやんないの?」
「うん、だって、20台で拾える気がするんだもん」

「今日は“でる”気がするんだよ、じゃあね」
と、これからパチンコでも行くみたいな気分だった。

川越商店街に行くのが2度目くらいだったことと、
今日は“でる気満々”だったことが重なってか、
足取りは軽く、商店街へまっしぐらだった。

商店街へ行く途中の駅ビルの通路で、
さっそく自販を1台見つけてしまった。
しかもタバコだ。
タバコの自販は確率が高い!とは、
前回の初獲で感じ取ったことだ。
贅沢にも、タバコの自販が4連チャンで並んでいて、
まずは、釣り銭受けをカチャカチャ。
なかった。
今度こそ、下に転がってる小銭を拾ってやる!

少々とばし過ぎか?とも思いながら、しゃがんでみた。
ううぅ、
下の隙間が狭すぎて何にも見えないじゃないか。
ってことは、先行者に諦められた小銭が、
ここに埋もれてる可能性も高い!
よぉし、ここは「ヂミやの五つ道具」の登場だ。
で、キティちゃんのライトを当ててみた。

しかっし、またしても、問題発生。
私のヒールが高すぎるせいか、
せっかくライティングされているところが見えない。
いや、しかし、あれはヒールのせいじゃない。
ぺったんこの靴を履いてたって、あの隙間を覗くには、
地面に顔を擦り付けなければ不可能だ。
さすがに、地面に顔を擦り付ける度胸は、まだなかった。
見えないなら、棒でさぐるしかない。
持っていたビニール傘で、手前へ・手前へ掻き出した。
しかし、傘が汚れただけで何も出てこなかった。

地面と自販底面の間隔が狭すぎるのだ。
私のヒールが13センチで、
高すぎるのかもしれないが、
あの隙間だって5センチぐらいと、狭すぎるのだ。
お互い、「〜すぎ」ってのがいけない。
極端すぎるのだ、ヒールも自販も。

しかし、「ちまのヒールの高さ」は、
「タモリのサングラス」みたいなものなのだ。
トレードマークなんていうような、うすいもんではない。
身体の一部なのだ。もう止められないのである。

しかし、「一流のヂミや」になるためには
なりふり構わず...。
いや、ダメだ、そんなのは。
私の目指すヂミやと違ってしまう。
とにもかくにも今日は、
この13センチのヒールの技を拾う、
じゃなく、披露するのだ。
こんな事を考えながら、商店街へ向かって行った。
結局、タバコの自販4連チャンでは拾えないままに。

ついに、商店街に突入した。
私の目は、ひたすら熱く自販を求めていた。
それなのに、やたらとギャル服の店が多く、
そっちも気になっていた。
なにしろ、安さ爆発!なのだ。
両脇から、安いギャル服に攻撃され、
危うく自販を見失うところだった。
しかし、ヂミやとしての自覚があるせいか、
ちゃんといい自販を発見、またしてもタバコだ。
「もう、なんておりこうさんなの、この子たちは」
と、自販がいいヤツに見えてきた。
その自販たちは、角地にあって、タバコが4台、
間にジュース1台が加わり、
さらにタバコ1台、その隣には公衆電話まであるのだ。
まるで「小銭の集会場」みたいなとこだった。
もしかしたら、公衆電話の小銭まで紛れ込んでるかも。
「ここはあるな」と、変な自信が涌いてきた。

さっそく1台目の釣り銭受けに指を入れてみた。
2台目も、3台目も、4台目も、そしてジュースも。
しかし、なかった。
ここでの最後の1台もだめだった。
最後の自販なんかは、
隣の公衆電話で電話してるコが寄りかかってたのを、
どいてもらってまでやったのに、なかったのだ。
おかげで、そのコには、
「こいつ、変な奴〜」という目で見られた。
当然彼女は、私がタバコを買うと思ったから、
どいてくれたのに、
釣り銭受けをカチャカチャっとやって、下の方を覗いて、
タバコは買わずに、消えていく。
あやしいったらありゃしない。
しかし、「あやしまれてナンボ」なのだ。
ちまの思うヂミやは。

とうとう、「20台で拾える気がする」と豪語していたが、
その半分、10台は拾えずじまいとなってしまった。
めちゃくちゃ、あせってきた。
どうすんだよ!と、
自分に言い聞かせて、さらに自販を探した。

(つづく)

1998-10-13-TUE


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