JIMIYA
女子大生ヂミや1001夜。

98年11月2日(月)
前回のつづき

【師匠のおっしゃる通りに】
段々と話は、世間話やら師匠の過去のことやら、
なんでヂミやをやってるのかなど、
いろいろな話題へと移っていった。
私が何か質問するわけでもなく、
ただ師匠が自然と話してくれた。
私と師匠があまりにも楽しそうに話しているからか、
その組み合わせ(若い女の子とヂミやという)が
意外だからか、
通りすがりの人々は、かなり不思議そうに私のことを見た。
たぶんその人たちは、チャラチャラした若い女の子が、
よりによって、なんで「そんな人」と話してるんだ
と思ったに違いない。
だから、驚き隠せず、
のぞき込む様に私を見ていったのだろう。
その間通った人みんなが同じ反応だった。
だから私は、そういう風に見ていった人たちを見て、
心の中でこうつぶやいた。
「あんた達は知ろうともしないで
避けてるだけじゃないか!」
と。
私自身もヂミやをやってなければ、
「避けてた」のだと思うと、自分がいやになったが、
こうしてお話ができたことは本当に嬉しかったし、
いい勉強になった。

話しはまた師匠への質問に。
「神田はどうですか?」
「神田はね、せいぜい100円だね。500円はないよ」。
「えっ、じゃあなんで今神田でやってるんですか?」
「いつも、このくらいの時間から、まずは神田でやって、
それから、東京の八重洲に行くでしょ、
それから次は京橋に行って、最後は有楽町に行くんだよ」。
「は〜、やっぱり拾えそうなルートですね。
一つの街だけじゃなくて、ハシゴするんですね。
じゃあ、1日にそうとうやりますよね。
何台くらいでしょうか?」
「うーん、数えないから分かんないね」。
「ざっと、100台くらいですかね?」
「まあ、それくらいはやるでしょう」。
ははあ〜。恐れ入りました。
1日に100台もやっちゃうってことは、
私の目標台数の1001台なんて、
10日間で終わってしまうじゃないか。
やっぱり、ヂミやで生きていくことを考えたら、
それくらいの気合いは必要なんだなぁ。
さらに、残された肝心な質問。
「今まで自販で、1日最高いくら拾いました?」
「1500円」
「えっ、セ、セ、せんごひゃく円ですかぁ? 
本当に1日で?」
「うん、1日で」
1500円なんて、私の1001台分の目標金額なみだ。
おそるべし、さすが師匠。
「じゃあ自販で、1日最低いくら拾いますか?」
「500円」
「うええええ〜! 最低で1日500円なんですか?」
しかし、ヂミやで生きていくにはそれくらいは必要か。
それにしても、すごい金額だ。
なんせ、自販のところに落っこちてる小銭だけで
1日に500円以上も集めてしまうのだ。
私が100台やってみた時点で、
「1日で500円」という記録は、神業としか思えない。

私は本格的に師匠のところに弟子入りをしたくて、
「これから、どちらに?」
「東京駅の方に行くよ」。
「じゃあ、私もついていっていいですか?」
「いや、お姉さん。
道を教えてあげるから自分でいきなよ」。
と、早くも一人立ちさせられてしまった。
とっても心細かったが、
言われた通りに行ってみることにした。
師匠はすごく丁寧に道を教えてくれた。
方向音痴のわたしでもちゃんと分かるように。

とうとうお別れの時がきてしまった。
師匠と30分位は自販の前で立ち話をしていた。
本当に貴重な情報を「ちゃんと伝授」してくれた。
私は何かお礼をしたくて、師匠の手に握られた、
さっき拾ってたタバコが目に入った。
「よし、タバコにしよう」と、
私は自分の持っていたタバコを取り出し、
「すいません、ちょっと減ってますが、
こんなもんでよろしければ、受け取ってください」。
「あ〜、ありがとう。いいのホントに?」
「どうぞ、どうぞ」。
「ありがとね。本当に嬉しいよ。
誰も何も、こんなことしてくれないからね」。
と、師匠はかぶっていたキャップを脱ぎ、
頭を下げてきた。
すかさず私は、
「やめてください、そんな」。
と、頭を下げるのはこっちの方なんだから、
師匠に対して申し訳なくなってしまった。

お互いに「ありがとう」と言いながら別れ際に、
「最後に、お名前聞いてもよろしいですか?」
「あ、オレ?小林。
仲間からはコバちゃんって呼ばれてる。
だから、お姉さんもコバちゃんって呼んでいいよ」。
「あ、ありがとうございます。コバちゃん」。
さらに、仲間の方々にも私のことを紹介しとくよと。
「自販を調査しているお姉さん」って。
本当に紹介してくれるなら、
私が今後ヂミやとして困った事があった時に、
またコバちゃんに伝授してもらえると思った。
神田の駅周辺で、「コバちゃんは何処にいますか?」と、
仲間の方々に聞けば、
またコバちゃんに会えるんじゃないかと。

私は一人、コバちゃんに教わった道を歩きながら、
とてもハッピィーな気持ちになっていた。
コバちゃんと話したわずか30分で
ヂミやの情報だけじゃなく、
もっと大切な何かをコバちゃんには
教わった気がしたからだ。

東京駅に向かう途中の道でもジュースの自販を6台みた。
コバちゃんがやってたようにマネをした。
が、なかった。
なくても、気持ちは穏やかだった。
コバちゃんの言ってた通り10分歩くと、
もうそこは東京駅だった。
で、信号を渡ってふと、右の方を見たら、
そっちは丸の内。
そう、丸の内には用はない。
それに、「丸の内」という場所のクウキは
個人的に大嫌いだ。
だから、「丸の内はダメ」とコバちゃんに言われた時、
「やっぱりな〜」とちょっと嬉しかった。

いよいよ、目的地の東京駅構内に入っていった。
日本橋口から、八重洲口へと向かう。
さすがは東京駅。人も自販も多い。
中でも、カメラの自販なんかは、
東京駅にふさわしい自販だ。
が、はやく八重洲口に行きたいがゆえに、
途中では9台しかやらなかった。
ついに、八重洲口に到着。
まっしぐらに、バス乗り場へ。
外の乗り場じゃなく、駅の中の自販コーナーがよさそうだ。
そこで、ちょっと人の動きを観察してみたら、
「みんな何をそんなにあせっているんだい?」
と聞きたくなったが、その答えはすぐに分かった。
その乗り場はコバちゃんが言ってたように、
長距離バスの乗り場だ。
とにかくみんな、乗り遅れないようにあせっているのだ。
で、あせってジュースを買っていく。
当然、取り忘れ・取り残しが期待できる。

さあ、取りかかろう。
その自販コーナーには全部で8台ある。
まずは、1台目のジュースなし。2台目なし。
3、4、5台もなし。
あと残り、3台で絶対に見つける!!
じゃなきゃ、コバちゃんに弟子として顔見せできない。
そして、3台一気にやった。
が、ないないなーーーい。
もう、私のどこが悪いんだ!
と、自分の人格を疑いたくなってきた。

くやしくて、くやしくて、
もう一服でもしなきゃやってられない。
そこで、タバコを買おうと、
さっき一度確かめた自販のところへ、
今度は客として行った。
やっぱり、その自販には、
「カールトン・メンソール1mg」なんてなかった。
仕方なくまた妥協して、そこで買うことにした。
ちょうど260円があったから入れて、
セーラム1mgを買った。
で、タバコを取ろうとしゃがんだその時、
釣り銭受けに指を入れてみたら、なんかあるーー!!
なんで? 私はちょうど入れたはずなのに。
お釣りなんかないはずなのに。
しかも、さっき見たときは、確かに何もなかった。
っっってぇことは、この短い時間(わずか15分)に、
50円玉ウラオモテ誰かが
取り忘れてったものだ。
またしてもすごい偶然。
急いでその
取り忘れを取り
出してみたら、
な、な、ナント、
銀色に光る、
50円だっっっ!!!
初獲の10円とはわけが違う。
銅じゃなくて、銀だ。ギン。
ついに、ついに、やっとこの時が来た!
ついに私は、銀色のコインを拾える様になったのだ。
この銀色のコインってのは、本当にかわいい。
もう、興奮せずにはいられなかった。

それにしても「カールトン1mg」が売ってなくて、
妥協をすると、思わず拾えちゃうもんだ。
初獲の10円だって、妥協したおかげだったし。
当分、カールトンの買いだめはやめて、
自販で買うことにしよう。

そんなことより、さすがコバちゃん!
見事、助言的中。本当に、ありましたよ!
あとは、コバちゃんのおっしゃる通りに実行。
「夜の東京駅八重洲口」が楽しみだ。
夢の、500円拾得に向かって、記録更新!!

(つづく)

【今日の様子】
場所:東京駅構内(八重洲口)
時間:16:40〜17:10
天気:くもり
気温:やや暑い(駅構内なので)
人通り:いろんな人がたくさん
台数:25台
金額:50円
残り台数:888台
只今の金額:60円(記録更新!)

1998-11-17-TUE


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