JIMIYA
女子大生ヂミや1001夜。

98年11月27日(金) 前回の続き
『夜中のヂミやは危ない!』

どんどん、奥へ入って行き、
気がつくとそこは、ヂミやとはかけ離れた世界だった。
高級車がずらーっと並び、すごい頭をしたお姉さま方。
一回3000円はかかってるだろう、その頭を見て、
一回の飲み代を想像してしまった。
あるとこにはあるんだ。カネって。
まだ160円しか拾っていない、
不景気なヂミやとは違って、
たくさんのカネが動いてそうだった。
とすると、ここら辺の自販は好景気なのか?
かなり強引にこじつけて、私はここの自販に期待した。

自販チェックをしていたら、なんだか人によく見られる。
たぶん私が「ここは銀座なんだ」と、
変に意識していたからだろうが、
私の格好は見事なまでに、浮いていたのだ。
最近、スニーカーの良さにハマってしまい、
ヂミやの時のみならず、普段まで履いている始末だ。
さんざん「ヒール命」とか、
昔のヤンキーみたいな事を言っていたのに。
今では「スニーカーやや命」とか言っている。
その銀座らしからぬ格好とは、
スニーカーに黒のロングダウンに黒の手袋。
その格好自体は、まったく問題ないのだ。
しかし私が着てしまうと、とにかくダサイ。
モデルさんなんかが着てると、
「あれはこれから流行るのかしら〜」
みたいな事になる。
しかし私が着てると、
「なに、あのイモ姉ちゃん」となってしまうのだ。
だから、銀座の人間にしてみりゃ、
そんな奴がこの時間に、この場所にいるだけで、
変に思ったのだろう。

しかし気にせず、自販を探して歩いた。
たまに、尿意をもよおしながら。
しゃがむと結構つらいものがある。
だが、さっきは自販の下で100円を拾ったのだ。
やっぱりしゃがむことは大事だ。
地道に下をみないと。
地見屋なんだから。
しかも、拾意が尿意に負けてどうすんだ!
今、拾いたいという意思は、
トイレに行きたいという意思より強いはずだ。
そう言い聞かせてひたすら探した。
が、大金が動いてる街のくせに、全然拾えやしない。
どうなってんだ、いったい。

高級クラブ街にある、ありったけの自販をチェックして、
銀座八丁目を抜けると、そこは新橋だった。
私には、断然この街の方が似合う。
街の雰囲気にしろ、そこにいる人間にしろ。
やっぱり、銀座は高嶺の花だったのかと思った。
ここは、圧倒的にリーマン多しだ。
私のライバル業者もたくさんいそうだ。
時間も時間だし、もう拾われてまくってる可能性大。
もう、深夜の2時をまわっているのである。

駅の前にはヂミやの同業ともいえる、雑誌系の人がいた。
この雑誌系の人というのは、
雑誌をひたすら集めて、100円で売っている人だ。
この商売の人は、ヂミやに比べると明らかにリッチだ。
なにしろ、貯金が100万円単位であるという。
恐るべし、雑誌系。

私は大学卒業後、雑誌系の人間になりたいと思ったが、
こっちの雑誌系ではない。
一般的な雑誌制作だ。
取材して、原稿を書いてというような。
しかし、儲けはこっちの方がありそうだな。
職業を聞かれた時だって、
「ちょっと、雑誌系の仕事を」
なんて堂々と言えちゃうしな。

そんなことより、拾うぞ。
JRの駅前でどっちに行こうか迷っていたら、
横に立っていた雑誌系の人と目があった。
やはり同業だと思われたのか?
その人は、さすが雑誌系なだけあって、
身なりはちゃんとしていた。
ドカジャンみたいのを着ていて、
襟にはちゃんとファーなんか付いてたし。

目があったが、その人をシカトして角を曲がった。
だが、な〜んか気配を感じる。
そこで、そお〜っと後ろを見てみた。
やっぱりだ。
例の雑誌系の人がつけてきていた。
雑誌の店は友達に任せてきたようだ。
そんなことより、ちょっと怖くなってきた。

そこで、早歩きをしてみた。
やっぱりだ。
むこうもちゃんと早歩きをしてついてくる。
もう、かなり怖い。
もしあのドカジャンの中に、ナイフでも忍ばせていたら?
刺されるっっっ!!!
とっさに、私はすごい恐怖に見舞われ、
猛ダッシュで走りだした。
とにかく、巻かないと。
慣れない路地に入り込み、人っ子ひとりいない。
真っ暗で、かなり怪しい。
ここまでついてこられたら、私は一貫の終わりだ。
走りながら、ちょっと後ろを振り返った。
すると、いなかった。
あ〜。ほっとした。

「とりあえず、まけたかな」と思った瞬間!
今度は前から何か黒い物体が。
やばいっっっ!!!
あの雑誌系の人だ。
やっぱり、この辺を熟知しているだけあって、
私がここに迷い込んだのを見つけるのは、朝飯前なのだ。
もう逃げられないのだが、
平静をよそおってそのまま直進した。
が、彼はまわれ右をして、またついてきた。
もう、今度こそ本当にやばい。
でも、誰かいれば平気だと思い、
また早歩きをして人を探したら、
男女二人組がいたので、その二人についていった。
しかし、なんと二人組はタクシーを止めて、
サラッと私の前から消えてしまった。
交差点でひとりぼっちになった私は、
もうどうすることも出来なかった。
振り向くと、例の雑誌系がにんまりと微笑んでいる。
「やっぱり逃げるしかない」
私に残された道は、逃亡しかないのだ。
おそらく、中学生以来だったと思う。
あれだけの全力疾走は。

本気で走った甲斐あって、本当にまけた。
しかし、怖かった。
ちょっと、日本の治安をなめすぎてたようだ。
いくらなんでも、
若い女子が夜な夜な一人で街をふらついてたら、
危ないに決まってる。

しかし、今後も夜中のヂミやをやめる気はない。
せめて、今夜は150台はやろうと決めて、
結局、自販からの、
100円クリスマスプレゼントを握りしめ、
155台で帰ることにした。

【今日の様子】
場所:銀座/新橋
時間:深夜1:10〜2:40
天気:晴れ
気温:暑くもなく寒くもなく
人通り:銀座/新橋共に多し
台数:77台
金額:0円
残り台数:733台
只今の金額:160円

1998-12-31-THU


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