JIMIYA
女子大生ヂミや1001夜。

99年3月29日(月)
『アンナ・ヂミーニナ(下)』 チマストイ


前回からのつづきです)
危うく、アンナをマゾっ子にしてしまうところだったが、
なんとか回避できた。
それからは、アンナの方が積極的に自販を探し始めた。
道を挟んだ所にあるたった1台でも、
「あっ、あそこにも、あっちにも」といった具合に、
私を自販のある所まで連れていってくれる。
「えっ、あの1台のために、信号わざわざ渡るの?」
その反面、そういう探し方が、すごく新鮮な気がした。
もうホント最近のちまの探し方といったら、
まったく的外れの策や方法に走っていたからだ。
どうせ外れるのなら純粋に探せばいいのに。

アンナのおかげで、チェックした台数だけは
着々と増えていった。私が“ヂミやノート”に
いちいち一台づつ台数記録をつけてたら、
「いつもちゃんと数えてるんだぁ」と、アンナ。
1日何百台もチェックするのに、
“正”の字をちまちまと書き足していくちまの姿が、
普段の性格を知っているアンナには意外だったのだろう。

アンナの言葉を聞いて、ハッと気づいた。
「私はただ台数をこなしているだけなんじゃないか?
貯金通帳の残高の数字が増えていくように、
“ヂミやノート”に“正”の字が増えていくだけで、
満足してはいないか?」
われながら、図星であった。
そう気づいたとたん、
「絶対拾いたい!」という欲望がわいてきた。
せっかく同行してくれているアンナにも、
現金を拾う喜びを味わってもらいたかった。

ようやく150台くらいチェックしたところで、
超ロンゲ(お尻くらいまである)のヂミやにでくわした。
グレーの背広を着て、荷物はビニール袋ひとつ。
「やっぱ、渋谷のヂミやはオシャレだわ〜。」
アンナは、普通のヂミやとは一風変わった、
キラリと光る超ロンゲを見て、
「うわ〜〜、ヤバイよあの人!」と言いながら、
実はかなり気を取られていた。

そのロンゲに注目していると、なんと彼は、
私たちが信号待ちをしてまでチェックしようと
ねらっていた自販を、先にチェックしてしまった。
ということは……ロンゲが来た方向の自販は、
すでに彼に殺られているのではないか……。
念のため、そこら辺の自販をチェックした。
やはり殺られていた。
もしかしたらロンゲ以外のジミやの仕業か、
ただ単純に獲物がないのか確かめようはないけど、
とにかく小銭は見あたらなかった。

容赦なく時間が過ぎる。
チェックした台数だけがカウントされていった。
一度チェックした自販でも、しばらくして行けば、
今度こそ獲物があるんじゃないかという期待を胸に、
ロフト(西武)やウダケー(宇田川警察派出所)
の方に足を運んだ。

休憩しながらダラダラやってたせいもあって、
なんと、夜の9時になっていた。
ここら辺で拾っとかないと、アンナは、
拾う喜びを知らないまま引き上げることになってしまう。
10時には渋谷を出たいと言うアンナに、
拾った小銭を見せるのは今しかない。
ひとりでチェックしてて拾えない時より焦りは募る。

そんな時、高校生の頃よく利用していた、
自販コーナーの存在を思いだした。
ZARA(洋服屋)前の路地を入ったところに、
8台並んでるんだよ。さっそく手前から調べていった。
その時ッ!
釣り銭受けの中で、
丸くて堅いものが指先にふれた。
3枚重なっていた。
やりはじめて3台目、コカ・コーラの自販だ。
丸くて堅いものは、まぎれもなくお金だった。

ニヤリと笑ってアンナを見つめた。
「えーっ、あったの? いっ、いくら?」
興奮して半オクターブ上がった声のアンナに
負けないくらい興奮していたちまは、
釣り銭受けからすごい力で硬貨を取り出し、
手のひらに並べて見せた。10円玉3枚。
「ほら、ほらっ、拾いたてのほやほや。30円ッ!」
凄い発明でもしたかのように、30円を崇めた。
「うわぁ〜、ついにやったじゃん! よかったねぇ〜!」
30円でこれだけ喜んだのは久しぶりー、
30円がこんなに貴重に感じたことは、
アンナも、今までなかったはず。
ふたりで喜びまくって、
アンナが持ってたデジカメで記念撮影。
至福の時。

急に元気になってきた。
もうちょっと頑張ろうと、ウダケーの方に向かった。
千歳会館の立体駐車場の脇にある、超穴場の自販。
チェックし忘れてたやつだよ。
しかも縁起のいい、コカ・コーラの自販だ。
「またあるといいねぇ〜」と、
軽いノリでチェック。
あった!
釣り銭受けの左の壁に張り付いてたから、
よく触りまくらないと見逃すところだった。
屁っぴり腰で、釣り銭受けに指つっこんだまま、
獲物発見をアンナに目で合図した。
「えっ、今度はいくら?」
と、♯(シャープ)がかった声で聞いてきた。
「100円だよ、この感触は」
まだ見ぬその金属を、
感触だけで100円だと決めつけていた。
盲牌ならぬ、盲銭だ。
小銭を取り出し、手のひらにのせて眺めた。
ほらね、思ったとおり100円だよ。
100円は100円だけど、財布の中の100円とはちがう。
この100円は、高級な100円なのだ。

立て続けに獲物をゲットできたから、
喜びの感覚はややマヒしてたけど、
今日一日を振り返ると、顔がにやける。
かなりの苦戦を強いられてきただけに、
最後の最後にきたツキは、でかかった。
現時点で231台チェックして、収穫130円と非常に
成績は悪いが、今日はここまでにして、食事に行った。
「アンナ、どうだった、今日のヂミや?」
「かなり楽しかった。なんでみんな手伝わないのかねぇ。
疲れてもイヤだとは思わなかったよ。
人目を気にしたりもしたけど、
途中で諦めるのが嫌いだから頑張れたよ。
でも、自分の手で拾ってみたかったなぁ……」。

あっ、しまった。そうだった。
今日の収穫130円は、ちまが拾っちゃったんだ。
アンナに拾う喜びを味わってもらうといっても、
自分で拾わないかぎり、ヂミやの喜びは味わえない。
すまなかった、アンナ。
今度はプライベートで、拾いまくってくれ!

帰りがけアンナは、山手線の切符売り場で、
1円玉を2枚拾ったのだった……。自力で。

(つづく)


【今日の様子】
場所:渋谷
時間:16:00〜21:30
天気:快晴
気温:ぽかぽか
人通り:若者、非常に多し
台数:194台
金額:132円(うち2円はアンナの収穫)
残り台数:125台

只今の金額:1263円(記録更新!)

1999-05-01-SAT


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