商人が仕掛けた真剣勝負 株式会社ジンズ 田中仁 代表取締役社長×糸井重里 商人が仕掛けた真剣勝負 株式会社ジンズ 田中仁 代表取締役社長×糸井重里
(1)売上から逃げない
糸井
ほぼ日のみんなが、JINSのみなさんに対して
興味を持っているみたいなんですよね。
「生活のたのしみ展」の打ち合わせがあって、
「JINSって、こういう会社なんだ」
ということがだんだんとわかってきて。
田中
ほぼ日のコンテンツを拝見して、
やっぱりすごいなと思ったのは、
商品を売るというよりも、
その裏側を伝えていくスタイルです。
勉強になるなぁと思いました。
糸井
あっ、本当ですか。
裏側というのはつまり、
作っているプロセスですね。
田中
そうです、そうです。
商品のプロセスを伝えることで、
人は興味を持つんだって、よくわかりました。
糸井
ぼくたちがやっていることは、
興味を持ってもらうというよりも、
知り合いに何かを届けている、という形なんです。
友達だから「どうなってるの?」って聞きたいし、
こっちも「今こういうふうにやってるよ」とか、
「うまくいってるよ」ということを伝えたくなるから、
裏側を全部見せているようになっているんです。
田中
ああ。なるほど。
糸井
最近は物語が大事だという考え方が流行っていて、
「商品ではなく、そこに至るストーリーが大事だ」
なんてことを、人は簡単に言いますけど、
なぜストーリーが大事かというと、
信用しあっている人たちの
取引にしたいからだと思うんですよね。
何かトラブルが起きた時に、
「この段階で、すでに間違っていた」とか、
「これがよかったんだ」とかっていうのは、
逃げも隠れもできなくなりますよね。
それがおもしろいと思うんです。
田中
はい。
糸井
ぼくらは、知らない人や会社と
目をつぶって付き合うことは基本的にありません。
いっしょに仕事をする仕入れ元の人も仲間だし、
お客さんも仲間という気分で
付き合ってくれている気がします。
会社の規模が小さいからできていることもありますが、
ぼくらが商品をつくる前提に、
「知り合いに届けている」という考え方があるんで、
中まで見てちょうだい、という気持ちになるのかな。
JINSでは発表という形になるから、
プロセスはあまり出していませんよね。
田中
そうですね。
やっぱりまだ、本当のファンを作るには
至っていないなという気がします。
JINSのことを理解してくれている人もいますけど、
それでも、ほんの一部なんですよ。
多くの人たちにとっては、
価格が安いとか、機能がいいとか、
合理的判断で商取引が行われている気がします。
糸井
うんうんうん。
田中
JINSが本当にもっと強いブランドになるためには、
「JINSだから、買いたい」という
ブランドにならないといけません。
どういう会社であるかを考えていった時に、
JINSは「想いを売っている会社」でありたいんです。
だから、想いを売っていくことを、
社内に対して、もっと明確にメッセージを出したい。
糸井
想いを売る会社。
田中
今までであれば、「JINSは想いを届ける」とか、
そういう言葉になっていたんですよ。
もともと、JINSには売上のノルマがなくて、
従業員の評価から、売上は抜いていたんです。
2001年にメガネを売り始めてから今に至るまで、
売上が悪くて叱ったことはありません。
でも、ここ最近になって思うのは、
「本当にそれって、自分たちの責任を
果たしているんだろうか?」と。
そう考えた時に、“売る”という言葉から
逃げちゃいけない時期に
来たんじゃないかって思い始めました。
「JINSは想いを売っていく」でないと、
会社として、あるいは社員一人ひとりの
意識や責任が希薄になるんじゃないかなって。
糸井
なるほど、なるほど。
おもしろいところですね。
田中
今ちょうど、JINSも変わるところなんです。
糸井
「商売」っていう言葉は、
いろんなとらえ方をする人がいるけれど、
ぼくは、自分たちの生活を、
商売で立てているという意識があります。
「商売を考えないと、粘りがなくなる」
ということは、ぼくもよく言います。
「なんの儲けもいらないけど、これをやるんだ」
ということだってありますが、
「その商売で、ご飯を食べていくんだ」という、
奥にある生存本能みたいなものがないと、
「まあいいや」となっちゃうわけです。
なぜ踏みとどまれるかといえば、
「買ってくれる」「自分の財布を開けてくれる」、
そこまでの付き合いができていないと、
結局、なあなあな関係になっちゃう。
田中
そうですね。うーん‥‥。
糸井
ぼくは、商人じゃなかったから、
最初はわからなかったことが、
やっていくうちにだんだん思うようになりましたね。
田中さんが売上を気にしなかったのと同じで、
ぼくも、「予算が嫌いだ」って言ってました。
予算って、ノルマに聞こえるんです。
テレビとか見ていると、予算を達成するために
「最後の手段でこれやろう」
といったことを、みんながやってますよね。
田中
はい。そのイメージはありますね。
糸井
「3月の今期に合わせろ」だとか、
「来期でいいや」だとか、
そんなコントロールできるようなもので
目標を立てるのは不健全だと思っていました。
うちで財務を担当している人たちとも、
「予算を立てること自体はいいけれど、
目標値にしたら、変になるんじゃないの?」
ということは、よく話し合っていることなんです。
田中
はい。
糸井
結局、ほぼ日がどうしたかと言うと、
予算は出すんです。
出すんだけども、目標値ではなくて、
「こうしたらできるはずなんだけど、
ここにもうひとつアイデアが乗っかったら、
もっとよくなるはずなんだけど、
普通に考えるとこのくらいになるかな」
みたいなものを、予算と考えることにしました。
成長したい気持ちを持つための材料にしよう、と。
田中さんがおっしゃっていることと似ていますけど、
反対側からのアプローチだと思うんです。
田中
そうですね。
(つづきます)
2017-12-21-THU