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ひどい目日誌。
授業料を払ってこきつかわれる
わたしたちの記録。

ほぼ日は天どんだった
担当:ハリグチ


みなさんこんにちは。ムーン・ハリグチです。

どたばたやっている間に、
気がついたらひどい目隊もあと2日で解散です。
おお、なんとハカナイイノチ。

みなさんもうお分かりかと思いますが、
「ひどい目」というほどヒドイことはなかったし、
されなかったんだけど、それでもやっぱり、
肉体的にも精神的にも、なかなかにキツイ3週間でした。
日刊でコンテンツを出しつづけるのがどれほど大変か、
ということを身にしみて感じましたよ。

ぼくが月謝スタッフをやってみて、今、何を感じているか。
そのあたりは、またあとでじっくりお伝えするとして、
とりあえずは鼠穴探訪、いってみましょう。

●ほぼ日は伸びるのか?

以前、電車にのっているとき、
雑誌の車内吊り広告で、こんなのを見かけました。

「こんな会社は伸びない」

こう大きく記事タイトルがあって、
その横に少し小さい文字で、具体例を列挙してあります。
たとえば、

「秘書が美人すぎる」

これ、わかりますねえ。
「すぎる」っていうところに、
会社というパブリックなワクをハミ出した、
過剰な欲望みたいなものがワタクシ的に見えてしまって、
確かにこういう会社を訪れると、
「うーん」と思ってしまいます。

で、こういうのもあったんです。

「社員がみんなサンダルばき」


あ。
実は鼠穴では靴をぬぐので、みんなサンダルではないけど、
スリッパで仕事してます。
これはマズイですね。
ほぼ日、伸びないんでしょうか?

でも、なんでサンダルばきだと、
伸びない会社なんでしょうか。
でも言われてみると、確かにそういう気もするんですよ。
んー、なんだろう。
あ、これはきっと、こういうことじゃないでしょうか。
サンダルばきの会社は、
仕事へのスピリッツが社内に向いていて、
一番大事な社外との関係に対する緊張感がない、と。

ぼかあ、あわててdarlingのスリッパを
確認しに行きましたね。
ほぼ日の顔であるdarlingのスリッパを見れば、
鼠穴を訪れるお客様に対するほぼ日の姿勢、
というのがわかるはずです。

で、結果、darlingはこんなのを履いていました。


これがdarlingのサンダル。
左はぼくのグラビスです。
これにはいわくがあって、
スタッフ面接の帰り、「ああ、落ちた〜」と、
ぼう然としながら歩いていて、
ほとんど無意識で買ってしまったんです。


なんだこれ。
シューズのような、サンダルのようないや実に中途半端な...
いやウソウソ。ぼくだって知ってますよ、これくらい。
ラクチンということで、
ここ数年で人気出てきたタイプですよね。
屋外で履くものを、室内で活用してるわけですね。

しかし、なあるほど。
ぼくは思わず唸りました。
これなら、かかとの部分はズボンにかくれて、
一見、普通の靴に見えるから、
お客様に対しても失礼にあたらない。
でも実態はらくらくサンダル。
さすがdarling、抜け目ないですね。

しかし、よく考えてみたら、
鼠穴では、お客様もスリッパに履きかえます。
しかもごくフツーのスリッパ。
むむ。
ということは、逆にお客様がdarlingのサンダルに対して、
劣等感を持つ、なんてこともあり得るかも知れない。
そうすると大変ですねえ。
お客様も、より考え抜かれたマイ・スリッパを持参。
するとdarlingも、あれでなかなか負けずぎらいのお方、
さらにモノスゴイのを用意するかも知れません。
最後はdarling、お客様ともども、
厚底ブーツの、底が50cmくらいのを履いて、
「いやあ、どうもどうも」なんて言いながら、
名刺交換するんでしょうか。
うーん、これは鬼気迫る光景です。

●ぼくはどういうつもりで鼠穴にきたのか

いけません。
こんなことばっかり言ってると、
ホントにバカだと思われてしまう。
いやバカはバカなんだけど、
いちおうマジメに考えていることもあるので、
少しそういうことも書いていいですか。
いや書かせてください。

ぼくは今回の月謝スタッフの仕事に臨むにあたって、
ひとつ決めたことがありました。
それは、自分を実験材料として扱って、
結果、何が起こるか見てやろう、
自分というものを鼠穴にあずけたとき、
何が残ったり、捨てられたり、生まれたりするのかを、
じっくり観察してみよう、ということでした。

なぜそんなことをしたのでしょう。

ぼくは社会に出てからも、けっこうわがままに、
自分のやりたいようにやってきた方だと思うんです。
けどそれは、仕事のほうを、パーソナルな欲望に
ムリヤリ近づける、というやり方でした。

でもやっぱり会社組織にいる限り、
その2つはイコールにならないし、
そんな無理をしていると、
スポイルされる、というのに近い形で
孤立していってしまうんですよ。

で、にっちもさっちもいかない、という感じだったんです。

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ええと、突然ですが、もしよければ、
ちょっとぼくが創ったものを見ていただけますか?
ショックウェーブというものを使っていますので、
よくわからない方は、「プラグイン幼稚園」の、
ショックウェーブ編
を見てみてくださいね。
準備OKという方は、ここをクリックしてください。
あのう、また戻ってきてくださいね。

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あ、戻られましたか。よかったよかった。
ああいうものをはじめとして、
これまで手当たりしだいに、興味の向くままに創ってきた、
ガラクタのような表現の断片をいっぱい抱え、
それでもまだ何かやりたい、
でもどうしていいかわからない、
このあといったいどうしましょ? アラヨイヨイ。

いや唄にしてどうする。
まあそんな状態だったので、「ほぼ日式スタッフ募集」は、
まさに渡りに舟というか、ノアの箱舟というか、
これはなんかいい機会だぞ、と思ったわけです。

ここで、もう一度自分をマッサラサラのタブララサにして、
何がこれからやっていけそうなのか、
ぼくの頭のなかにあるものの、
何がおもしろくて、何がおもしろくないのか、
何をここで発見できるのか、
そういうようなことを、しっかり目を見開いて、
確認したいと思ったんです。
まあ早いハナシが、
もう少しじたばたしたい、と思ったわけです。

そのためにも、いちおう全てに全力投球したつもりです。

結果はどうだったか?
まあそれはいろいろあるけど、次のようなことを、
実感として感じることができました。

「ほんとうにやりたいことなら、それはなんとかなる」
「でもそれに近づくためには、
 しつこくしつこく考えつづけなければならない」
「ほんとうにやりたいことがわからなくても、
 焦らなくていい。
 動いていくなかで、考えていけばいい」

なんだよ、そんなこたあ当たり前だろう、
ともいわれそうですが、これを体の感覚として
刻み込めたというのは、ホントに大きかったです。

●ぼくにとってのほぼ日像

スタッフとしてほぼ日に関わることで、
得難い体験がいろいろできたんですけど、
なかでも読者のみなさんとの、
メール、記事を通した交流、というのは、
やはりいちばん印象的で、
今後も考えつづける何かを残してくれたと思っています。

ぼくは、ほぼ日を通してみんながつながっている、
というようなことは、単純には信じていないんです。
でも、そういう瞬間は確かにあるし、
それを信じたい気分にだって、当然なります。

けど、毎日たくさん送られてくる、
みなさんからのメールを読み、
あるものには返事を書き、この日誌を書き、
ということをやっているうちに、こう思いました。

「人間ってさびしいな」
「でもさびしいっていうのも、いいものだな」

ぼくは、ほぼ日というのは、
そういうものじゃないかと思うんですよ。
ああ、ちょっとイキナリですね。

ええと、みなさんご存じかも知れませんが、
宮沢賢治はこういうことを書いています。

わたくしという現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
せはしくせはしく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電燈の
ひとつの青い照明です。
(ひかりはたもち その電燈は失はれ)

(宮沢賢治「春と修羅 序」)


ああ、なんという美しい、でもなんてせつない
イメージでしょうか。
ぼくら人間ができることは、光を灯して、
「ここにいるよ」とか「ここにいたよ」
ということを伝えることだけだ、
と言っているようなものじゃないですか。
じゃあ、これはどうでしょう。

人生は地獄だな、と私は考えた。
人生は地獄だ、人生は地獄だ、
とエンドレステープのように頭のなかをその言葉が回転し、
その間に箸が天ぷらをのせたゴハンを
せっせと口のなかに運んだ。

つまりはそういうことだ。
人生は地獄だというのに、天どんを食えばうまい。
人生は地獄でも、天どんというものがちゃんとある。
残る問題は、と私はつぶやいた、そう、
残る問題は、地獄にも天どんがあるかどうかだ。

(種村季弘「食物漫遊記」)


うわ、いきなり天どん。
いや前後の脈絡なしに読むと、
なんじゃ、それ、という感じもするけど、
でも、これもなんか似たようなことを感じませんか。

ぼくは、ほぼ日がみんなの救いになるとは思いません。
けど、みんなの明滅を伝える電脳交流電燈や、
いっときの至福をもたらす、
天どんにはなれるんじゃないかと。

それでよくて、それは素敵なことだと思うんです。

これからもみなさん、
いっしょにせはしくせはしく瞬き、
うまい天どんを食おうじゃないですか。

いや、長くなってしまいました。
ほかにも書きたいことあるので、それは次回に。

えっ。
今日でもう終わり?
ああしまったしまった、あーもう、
あれもこれもどれもそれも書きのがした。
ええいくそ、なんとかならないんすか?
ダメ? ああもう誌面が。
わああ
   あ
    あ
     あ
      あ
       あ
        あ
         あ
          あ              
           あ
            あ。

2000-04-27-THU

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