第1回 学生人気就職ランキングのナゾ。

柳瀬 みなさん、こんにちは。



今日は、日経BP社、リクルート、
そして「ほぼ日刊イトイ新聞」が共同で開催する
「『はたらきたい。』の哲学と実学」に
お越しいただき、まことにありがとうございます。

本日の司会進行役を務めさせていただきます、
日経BP社の柳瀬と申します。

さっそく、4人のパネリストのみなさんに
自己紹介をしていただきましょう。
渋谷 渋谷和宏と申します。



前の『日経ビジネスアソシエ』編集長で、
いまは、日経BP社ベンチャーサービス局長という、
わりとゆるーい仕事を‥‥
あ、いまの訂正、ゆるくなーい仕事をしております(笑)。

今日はよろしくお願いいたします。
川上 みなさん、こんにちは。



株式会社リクルートで『就職ジャーナル』という
学生さん向け就職情報誌の編集長をやっています。

よろしくお願いします。
前川 えーと、ぼくはですね、
フィールワークスという会社をやっております、
前川といいます。



じつは、昨年まで10年くらい、
リクルートという会社で、
就職や転職に関するメディアの編集長をしてました。

いまは、人材や組織の活性化に関する
コンサルティングを、やっております。
糸井 こんにちは、糸井重里です。



『ほぼ日刊イトイ新聞』の編集長といいますか、
『はたらきたい。』という本の発行元といいますか、
それらの母体となっている会社の代表です。

よろしくお願いします。
柳瀬 えー、今日はですね、いま糸井さんがおっしゃった
『はたらきたい。』という本のテーマにも
関わってくると思うんですが、
「はたらくということ」「仕事をするということ」
「就職すること」をテーマに、
4人の「はたらく」プロに話し合っていただこうと。

糸井 はい。
柳瀬 それでは、まず、川上さんのほうから、
最近の就職事情について、
導入部の意味も込め、ご説明いただきたいと思います。
川上 はい、ではまず「求人倍率」から。
柳瀬 昨今の「就職環境」については
よく「売り手市場」と言われているようですが。
川上 ええ、今年の最新の統計で、
2008年春の新卒の大卒求人倍率が、2.14倍。

2倍を超すのは、1992年以来。
16年ぶりのことでした。
その高い前年に引き続き、
09年卒も2.14倍となっています。


↑クリックで拡大できます。
川上 ごらんいただいているグラフの
左のほうに、赤く丸で示しているところ、
ありますよね。
柳瀬 ‥‥「2.86倍」と。
川上 ここが、いわゆる「バブル絶頂期」です。

そこから、一時は「1倍」を切るなど
「就職氷河期」から「超氷河期」を経まして、
ここ数年は、ぐぐーっと上がってきていますね。

つまりこれは、すごくカンタンに言いますと、
学生さんにとって「就職しやすくなった」というのが
数字のうえから見た、最近の就職環境なんです。
柳瀬 なるほど。
川上 ここで、この数字の「中身」や「意味」を、
もう少し、ひも解いてみましょう。
柳瀬 お願いします。
川上 従業員別の求人倍率は、どうなっているか。

従業員1000人未満の企業では、4.26倍。
従業員1000人以上の企業では、0.77倍。

まず、従業員1000人以上の
いわゆる「大企業」の求人倍率が
0.77倍ということは‥‥つまり、
「希望者全員が、入れるわけじゃない」。
柳瀬 4人に3人しか、入れない。
川上 反対に、従業員1000人未満の中小企業では、
求人総数73.9万人に対して、希望者が17.4万人。
柳瀬 こんどは、人が足りてないわけですね。
川上 それが「4.26倍」の具体的な数字です。

つまり、大手企業と中小企業では、
「入りやすさ」にかなり差がある、ということです。

柳瀬 そうとうな差、と言っていいですよね。
川上 続いて、学生さんが
「どんな視点から企業を選んでいるか」の
統計が、こちらです。


↑クリックで拡大できます。
川上 1位は、今年から取りはじめた項目で
「自分を大きく成長させられる」という視点。
2位は「自分のやりたい仕事ができる」。
これは昨年まで、ずっと1位だった項目です。

大ざっぱに、ここ数年の傾向を申し上げますと、
「給与・福利厚生など待遇がよい」
「雇用が安定している」などの項目が順位を上げてますね。

つまり、学生さんが「安定志向」に寄ってきていると
言われているんです。
柳瀬 それでは、こういった最近の就職事情に鑑みながら、
最近の大学生は
どんな会社に入りたがっているのか、という
「就職ランキング」を見てみましょうか。

リクルートワークス研究所
「就職志望ランキング」/『就職ブランド調査』
1位 全日本空輸
2位 三菱東京UFJ銀行
3位 みずほフィナンシャルグループ
4位 東海旅客鉄道
5位 三井住友銀行
6位 トヨタ自動車
7位 バンダイ
8位 ソニー
9位 東日本旅客鉄道
松下電器産業
川上 今年のランキングの特徴を挙げるとすると‥‥。

まず、全日本空輸(ANA)さんが
昨年の2位から、1位に返り咲いたということ。

そして、5位までのあいだに
「メガバンク」と言われる銀行の上位3行が、
ランクインしていること。

この2点でしょうね。
柳瀬 なるほど、なるほど‥‥。

それでは、リクルート時代から
就職の問題に取り組んでこられた前川さん、
どう思われますか?

たとえば、バブルの時代とくらべて、
現在の学生の就職の傾向などについては‥‥?
前川 先ほど川上さんから説明があったように、
たしかに、学生さんは
「安定志向」になってきつつあると思います。

ぼく、過去30年間くらいの就職ランキングを
100位くらいまで、
ざざーっと眺めたことがあるんですよ。
柳瀬 ほう。
前川 そうしますと、20年ほど前のバブル時代には
いわゆる「ベンチャー企業」が
チラホラとね、顔を出してたんですね。

ところが、ここ1〜2年については、
ずいぶん下のほうまで順位を追っていっても、
なかなか「ベンチャー」が出てこない。

やっぱり、しっかりしてそうなイメージの
安定した大手企業ばっかりなんです。
柳瀬 ベンチャー企業ブームって、
「ほんの数年前」という感覚があるから、
ちょっと意外な感じがしますね。

でも、一方で、
こういう大学生の人気就職ランキングって
実際にはたらいている社会人から見ると
ちょっとした違和感が、ありませんでしたか?

糸井 ぼくは、なんで毎年毎年、
会社の人気を調べてるのかということ自体、
ナゾだったんですよ。

会場 (笑)
糸井 1位は「今年も全日空でした!」ってことに、
学生以外のだれが注目して
どんな役に立っているのかが、わからなかった。
柳瀬 そうですね‥‥たしかに。
糸井 そういう、前々からの疑問もあって、
ちょっと視点を変えてみたのが
先日の「社会人の人気企業ランキング」なんです。



<つづきます>


2008-06-30-MON


HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN