2008年5月14日、リクルートと日経BP社、
そして「ほぼ日」が、トークイベントを開催しました。
タイトルは「『はたらきたい。』の哲学と実学」。

テーマはもちろん、「はたらくこと」。

壇上にあがったのは、4名の「編集長」。

就職情報誌『就職ジャーナル』の編集長・川上直哉さん。
『日経ビジネスアソシエ』の創刊編集長、渋谷和宏さん。
元『リクナビ』『リクナビCAFE』編集長で、
現在は株式会社FeelWorks代表を務める前川孝雄さん。
そして最後に「ほぼ日刊イトイ新聞」から、糸井重里。

就職活動中の学生さんはもちろん、
ひろく「はたらく」を考える社会人のかたにも
興味を持っていただける「仕事の話」。

全部で7回、どうぞたっぷり、おたのしみください!



第7回 消費者のプロ、公私混同のプロ。

柳瀬 それでは最後に、最近の「就職の話」では
おなじみになってきた「ワーク・ライフ・バランス」や
「女性のはたらきやすさ」について、
ちょっとだけ、お話をしてみたいと思います。

まずは、川上さんのほうから、
現在の傾向を解説をいただきたいのですが‥‥。
川上 我々も「職場での多様なはたらきかたを認める」という
「ダイバーシティ」の考えを推進していそうな
企業のランキングを、今年から調査しはじめました。

性別に関係なく、従業員が活躍できる企業
(リクルート『就職ブランド調査2008』より)
1位 資生堂 669
2位 ベネッセコーポレーション 303
3位  ソニー 184
4位 バンダイ 171
4位 ワコール 171
6位 全日本空輸 157
7位 フジテレビジョン 156
8位 松下電器産業 154
9位 ユニクロ 149
10位 ジェイティービー 140
企業のダイバーシティへの取り組みについて関心が集まるなか、
とくに「性別」の観点からのダイバーシティ推進について、
学生に「性別に関係なく、従業員が活躍できる」と
イメージされている企業はどこなのかを聞いたランキング結果。
川上 とくに「出産育児」に対する支援制度の有無や、
性別に関係なく平等な待遇が得られるかどうか、
そのような点を、
はたらく女性のみなさんは、重視されてるようです。

柳瀬 渋谷さんが、たずさわってこられた
『日経ビジネスアソシエ』でも
よく「ワーク・ライフ・バランス」特集なんかを
やってましたよね。
渋谷 それについて、
ちょっと長くなるんですけど、いいですか?
柳瀬 どうぞ。
渋谷 じつはぼく、「井伏洋介」という著者名で
小説を出してるんですよ。

こんどまた、
幻冬舎から『月曜の朝、ぼくたちは』という
5作目の作品を出したんですけれど、
小説を書くようになったきっかけというのがありまして。

柳瀬 きっかけですか‥‥聞いたことないですね、それは。
渋谷 『日経ビジネス』にいたとき、
ある同僚に「シナリオ学校に行こう」と誘われたんです。
柳瀬 シナリオ学校。
渋谷 そう、これからは経済記事だけ書いてちゃダメだ、
もっとツブしが利かなきゃ、なんて。

ぼくが「じゃあ、何やったらいいの?」と聞いたら、
そいつは「これからは経済漫画の原作だよ!」って。

ついては、オレとおまえのぶん、
シナリオ学校に申し込んでおいたから、
いっしょに行こうぜ、と。
柳瀬 へぇ‥‥。
渋谷 で、ぼくは素直な人間なので、
「そうか、これからは漫画の原作か」と思って
こつこつとシナリオの勉強を始めたんです。

そしたら、だんだんおもしろくなってきちゃって、
コンクールに挑戦したら、入選しちゃった。

じつはそれが、小説を書くきっかけなんです。

ちなみに、ぼくを誘った同僚というやつは、
「ごめん、忙しい」とか言って
結局、一回も姿を見せなかったんですけど‥‥。
柳瀬 そうだったんですか。
渋谷 でね、そのときに、なぜ、はたらきながら
シナリオ学校に通えたかというと‥‥。

ぼく、手帳の「3割」を必ず「余白」にしてるんです。

あるときから、朝の9時から、夜7時〜8時まで
手帳にビッシリとスケジュールを書き込んで、
「ああ、今日も忙しい」って、悦に入るのをやめたんです。

3割ぐらい、真っ白け。

とにかくね、
何にも予定のない時間をつくるようにしてたんです。
柳瀬 つまり、その「3割の余白」で、通ったんですね。

渋谷 そう、そうなんです。

ですから、
ぼくは「ワーク・ライフ・バランス」と言うときに
いつも思うのは、
仕事とプライベートって、峻別できないということ。

私生活の趣味やなんかが仕事の役に立つこともあるし、
仕事で得た友人・知人関係が、
私生活をゆたかにすることだって、ありますよね。

つまり「ワーク・ライフ・バランス」とは
ただ単に「男性の問題・女性の問題」ではなく、
ひとりのビジネスパーソンとして、
ひとりの生活者として、
「余裕をもって生きる」ということ。

そして、そのことは、まず「楽しい」し、
同時に仕事のほうも、うまくいくと思うんですよ。
柳瀬 糸井さんも「ワーク・ライフ・バランス」という言葉を
また別の言葉で、言い換えてますよね。
糸井 公私混同、ですか。
柳瀬 仕事とプライベートを公私混同しろと、
高らかに宣言されてるわけです。
糸井 してます。
柳瀬 それに、「ほぼ日」には、女性の乗組員って
たくさん、いらっしゃいますよね。
糸井 女性のほうが多いんじゃないでしょうか、うちは。
柳瀬 それじゃあ、本日のイベントの締めくくりとして
「公私混同」ということと
「女性が、上手にはたらける」ということが
どれだけ大切なのかについて、
糸井さんに、お話をしていただきましょうか。
糸井 うわー、それを話すには
2日と半日ぐらい、かかっちゃいますよ(笑)。
柳瀬 そこをなんとか、2分20秒ぐらいで(笑)。
糸井 そうですか‥‥それじゃあ、これからの話は、
ぜひ、あとでもう一度、ご自分なりに整理してくださいと
はじめに、言っておきたいんですけれども。

柳瀬 はい。
糸井 まず、モノを作るのがタイヘンな時代なんじゃなくて、
作ったモノが消費されることのほうが
難しい時代なんだ、というのが、このお話の前提です。
柳瀬 つまり、
消費されないモノをいくら作ってもしょうがない。
糸井 倉庫に大量に余ってるモノを
「あんなに作るちからがあって、すごいね」とは、
だれも褒めてくれないでしょう。
渋谷 そうですね。

糸井 ですから、あらゆるビジネスの研究は
「生産」ではなく、すべて「消費」に向かう。

これは、必然です。

なぜなら、
「みんなに消費されるモノ」を作りだすためには、
「消費することの楽しさを知っている」ということが、
きわめて、重要になってくるからです。
柳瀬 ええ、ええ、わかります。
糸井 だから、そこで、「女性」なんですよ。

世の女性というのは、
男たちが「忙しい、忙しい」と会社に籠ってるときにも、
あるいは自分自身、忙しいときにだって、
どうやったら「お気に入りの靴」を見つけるかに
余念がないじゃないですか。

そのためには、いろんなところから情報も集めるし、
実際、お店に見に行くこともするだろうし、
街を歩いてる他人の靴もチェックするだろうし‥‥。

今まで、それは「仕事」とは見なされなかったんです。

でも、そういうことを好きこのんでやっている人が
「よい商品とは何か」を決めているわけです。
つまり、彼女たちのちからを借りなければ、
どんな「靴」を作ったらいいか、わからないんですよ。
柳瀬 ようするに、女性は「消費のプロ」だと。
糸井 同時に「公私混同のプロ」でもあるわけです。

柳瀬 なるほど。
糸井 ですから、これまで、女性が培ってきた
そのような「習性」といいますか、
なんというか‥‥「お化粧のための時間」が、
さっき、渋谷さんのおっしゃった「3割の空白」に
相当するものだと思うんですよね。
柳瀬 キーワードは「消費」と「女性」ですね。
糸井 そのふたつを中心にして
世のなかのサイクルを考えたほうがいいんじゃないか。
柳瀬 公私混同しながら。
糸井 そうです。
‥‥ものすごく、はしょりましたけど。
柳瀬 本来は「2日と半分」のところ(笑)。
糸井 いえいえ(笑)。

これから、はたらくであろう学生さんたちは
今までは、まさに「消費者」だったわけです。

その感覚を、忘れないこと。

社会ではたらくにあたっては、
まずはそんなことが、重要なんじゃないでしょうか。
柳瀬 なるほど、わかりました。
みなさん、今日はありがとうございました。



<終わります>


2008-07-08-TUE


「『はたらきたい。』の哲学と実学」、開催します! 2008-04-25
第1回 学生人気就職ランキングのナゾ。 2008-06-30
第2回 社会人の「不満」ランキング? 2008-07-01
第3回 今の仕事は「天職」ですか? 2008-07-02
第4回 追いつめられて、はじまった。 2008-07-03
第5回 仲間のちから、チームのすごみ。 2008-07-04
第6回 できることを、ちゃんとやる。 2008-07-07



HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN