柳瀬 |
それでは最後に、最近の「就職の話」では
おなじみになってきた「ワーク・ライフ・バランス」や
「女性のはたらきやすさ」について、
ちょっとだけ、お話をしてみたいと思います。
まずは、川上さんのほうから、
現在の傾向を解説をいただきたいのですが‥‥。 |
川上 |
我々も「職場での多様なはたらきかたを認める」という
「ダイバーシティ」の考えを推進していそうな
企業のランキングを、今年から調査しはじめました。
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性別に関係なく、従業員が活躍できる企業
(リクルート『就職ブランド調査2008』より) |
1位 |
資生堂 |
669 |
2位 |
ベネッセコーポレーション |
303 |
3位 |
ソニー |
184 |
4位 |
バンダイ |
171 |
4位 |
ワコール |
171 |
6位 |
全日本空輸 |
157 |
7位 |
フジテレビジョン |
156 |
8位 |
松下電器産業 |
154 |
9位 |
ユニクロ |
149 |
10位 |
ジェイティービー |
140 |
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企業のダイバーシティへの取り組みについて関心が集まるなか、
とくに「性別」の観点からのダイバーシティ推進について、
学生に「性別に関係なく、従業員が活躍できる」と
イメージされている企業はどこなのかを聞いたランキング結果。 |
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川上 |
とくに「出産育児」に対する支援制度の有無や、
性別に関係なく平等な待遇が得られるかどうか、
そのような点を、
はたらく女性のみなさんは、重視されてるようです。
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柳瀬 |
渋谷さんが、たずさわってこられた
『日経ビジネスアソシエ』でも
よく「ワーク・ライフ・バランス」特集なんかを
やってましたよね。 |
渋谷 |
それについて、
ちょっと長くなるんですけど、いいですか? |
柳瀬 |
どうぞ。 |
渋谷 |
じつはぼく、「井伏洋介」という著者名で
小説を出してるんですよ。
こんどまた、
幻冬舎から『月曜の朝、ぼくたちは』という
5作目の作品を出したんですけれど、
小説を書くようになったきっかけというのがありまして。
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柳瀬 |
きっかけですか‥‥聞いたことないですね、それは。 |
渋谷 |
『日経ビジネス』にいたとき、
ある同僚に「シナリオ学校に行こう」と誘われたんです。 |
柳瀬 |
シナリオ学校。 |
渋谷 |
そう、これからは経済記事だけ書いてちゃダメだ、
もっとツブしが利かなきゃ、なんて。
ぼくが「じゃあ、何やったらいいの?」と聞いたら、
そいつは「これからは経済漫画の原作だよ!」って。
ついては、オレとおまえのぶん、
シナリオ学校に申し込んでおいたから、
いっしょに行こうぜ、と。 |
柳瀬 |
へぇ‥‥。 |
渋谷 |
で、ぼくは素直な人間なので、
「そうか、これからは漫画の原作か」と思って
こつこつとシナリオの勉強を始めたんです。
そしたら、だんだんおもしろくなってきちゃって、
コンクールに挑戦したら、入選しちゃった。
じつはそれが、小説を書くきっかけなんです。
ちなみに、ぼくを誘った同僚というやつは、
「ごめん、忙しい」とか言って
結局、一回も姿を見せなかったんですけど‥‥。 |
柳瀬 |
そうだったんですか。 |
渋谷 |
でね、そのときに、なぜ、はたらきながら
シナリオ学校に通えたかというと‥‥。
ぼく、手帳の「3割」を必ず「余白」にしてるんです。
あるときから、朝の9時から、夜7時〜8時まで
手帳にビッシリとスケジュールを書き込んで、
「ああ、今日も忙しい」って、悦に入るのをやめたんです。
3割ぐらい、真っ白け。
とにかくね、
何にも予定のない時間をつくるようにしてたんです。 |
柳瀬 |
つまり、その「3割の余白」で、通ったんですね。
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渋谷 |
そう、そうなんです。
ですから、
ぼくは「ワーク・ライフ・バランス」と言うときに
いつも思うのは、
仕事とプライベートって、峻別できないということ。
私生活の趣味やなんかが仕事の役に立つこともあるし、
仕事で得た友人・知人関係が、
私生活をゆたかにすることだって、ありますよね。
つまり「ワーク・ライフ・バランス」とは
ただ単に「男性の問題・女性の問題」ではなく、
ひとりのビジネスパーソンとして、
ひとりの生活者として、
「余裕をもって生きる」ということ。
そして、そのことは、まず「楽しい」し、
同時に仕事のほうも、うまくいくと思うんですよ。 |
柳瀬 |
糸井さんも「ワーク・ライフ・バランス」という言葉を
また別の言葉で、言い換えてますよね。 |
糸井 |
公私混同、ですか。 |
柳瀬 |
仕事とプライベートを公私混同しろと、
高らかに宣言されてるわけです。 |
糸井 |
してます。 |
柳瀬 |
それに、「ほぼ日」には、女性の乗組員って
たくさん、いらっしゃいますよね。 |
糸井 |
女性のほうが多いんじゃないでしょうか、うちは。 |
柳瀬 |
それじゃあ、本日のイベントの締めくくりとして
「公私混同」ということと
「女性が、上手にはたらける」ということが
どれだけ大切なのかについて、
糸井さんに、お話をしていただきましょうか。 |
糸井 |
うわー、それを話すには
2日と半日ぐらい、かかっちゃいますよ(笑)。 |
柳瀬 |
そこをなんとか、2分20秒ぐらいで(笑)。 |
糸井 |
そうですか‥‥それじゃあ、これからの話は、
ぜひ、あとでもう一度、ご自分なりに整理してくださいと
はじめに、言っておきたいんですけれども。
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柳瀬 |
はい。 |
糸井 |
まず、モノを作るのがタイヘンな時代なんじゃなくて、
作ったモノが消費されることのほうが
難しい時代なんだ、というのが、このお話の前提です。 |
柳瀬 |
つまり、
消費されないモノをいくら作ってもしょうがない。 |
糸井 |
倉庫に大量に余ってるモノを
「あんなに作るちからがあって、すごいね」とは、
だれも褒めてくれないでしょう。 |
渋谷 |
そうですね。
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糸井 |
ですから、あらゆるビジネスの研究は
「生産」ではなく、すべて「消費」に向かう。
これは、必然です。
なぜなら、
「みんなに消費されるモノ」を作りだすためには、
「消費することの楽しさを知っている」ということが、
きわめて、重要になってくるからです。 |
柳瀬 |
ええ、ええ、わかります。 |
糸井 |
だから、そこで、「女性」なんですよ。
世の女性というのは、
男たちが「忙しい、忙しい」と会社に籠ってるときにも、
あるいは自分自身、忙しいときにだって、
どうやったら「お気に入りの靴」を見つけるかに
余念がないじゃないですか。
そのためには、いろんなところから情報も集めるし、
実際、お店に見に行くこともするだろうし、
街を歩いてる他人の靴もチェックするだろうし‥‥。
今まで、それは「仕事」とは見なされなかったんです。
でも、そういうことを好きこのんでやっている人が
「よい商品とは何か」を決めているわけです。
つまり、彼女たちのちからを借りなければ、
どんな「靴」を作ったらいいか、わからないんですよ。 |
柳瀬 |
ようするに、女性は「消費のプロ」だと。 |
糸井 |
同時に「公私混同のプロ」でもあるわけです。
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柳瀬 |
なるほど。 |
糸井 |
ですから、これまで、女性が培ってきた
そのような「習性」といいますか、
なんというか‥‥「お化粧のための時間」が、
さっき、渋谷さんのおっしゃった「3割の空白」に
相当するものだと思うんですよね。 |
柳瀬 |
キーワードは「消費」と「女性」ですね。 |
糸井 |
そのふたつを中心にして
世のなかのサイクルを考えたほうがいいんじゃないか。 |
柳瀬 |
公私混同しながら。 |
糸井 |
そうです。
‥‥ものすごく、はしょりましたけど。 |
柳瀬 |
本来は「2日と半分」のところ(笑)。 |
糸井 |
いえいえ(笑)。
これから、はたらくであろう学生さんたちは
今までは、まさに「消費者」だったわけです。
その感覚を、忘れないこと。
社会ではたらくにあたっては、
まずはそんなことが、重要なんじゃないでしょうか。 |
柳瀬 |
なるほど、わかりました。
みなさん、今日はありがとうございました。
<終わります> |