糸井 |
でもね、本音のところで言いますと、
追い立てられるような時代のムードがなかったら、
ゼロから「ほぼ日」をスタートさせようなんて
思わなかったと思うんですよね。 |
柳瀬 |
なるほど、そうですか‥‥。
それでは、そういう起業にしろ、転職にしろ、
あるいは就職にしろ、
大きく関わってくる「お金の問題」については、
みなさん、どう思われますか? |
川上 |
学生が、ある企業を志望する動機の統計を見ても、
「給与」や「福利厚生・待遇のよさ」というポイントは
ここ数年、上がってきてますね。 |
柳瀬 |
転職を希望する場合にしても、
やっぱり「今の待遇に不満があるから」というのが
ひとつ、大きな要因としてありますよね。
前川さんの目からごらんになって、
就職や転職のさいの「お金の問題」については
どのような傾向があると思いますか? |
前川 |
やっぱりみなさん、シビアに見てますよね。
「成果主義」によって、
給料の格差が出てきてる企業もありますし。 |
柳瀬 |
それは、大企業でも? |
前川 |
ええ、一部では。ただ、大企業の場合には
一定の「ベース」があるでしょうから。 |
柳瀬 |
なるほど。 |
前川 |
ただね、とうぜん、給料や福利厚生などは
手厚ければ手厚いほどいいんでしょうけれど‥‥
とにかく「給料さえよければいい」かというと、
ちょっとまた、ちがうような気がするんですね。 |
柳瀬 |
ポイントは、どのあたりにあると‥‥? |
前川 |
やはり、大きな企業でなくとも、
安定的なお給料がもらえる企業。 |
柳瀬 |
やはり、安定志向ですか。 |
前川 |
その傾向は、強いと思います。 |
柳瀬 |
渋谷さん、
今回の「社会人の人気企業ランキング」ですけれど、
NBO版の結果をみるとですね、
回答者の平均年齢が、35〜36歳くらいなんです。
で、大きな会社のサラリーマンが多いんですね。 |
渋谷 |
ええ。 |
柳瀬 |
そんな人たちが、2位のゴールドマン・サックスや
17位に入ったキーエンスなど、
高給で知られる企業を上位に選んでいるんですけれど‥‥。
これは「ほぼ日」のランキングや
学生のランキングとくらべても、
はっきりと「NBO」に特徴的なんです。
そのあたり、どう見ます? |
渋谷 |
そうですね‥‥。
『日経ビジネスアソシエ』を創刊する直前に、
20代から50代までの
男女ビジネスパーソン・3,500人ぐらいを対象に、
アンケートを取ったことがあるんです。
「有名企業の戦略について」とか、
「ビジネスマナー」、
「キャリアアップ」や「スキルアップ」など、
ビジネス誌に載っていそうなコンテンツをバーっと並べて、
「これらのコンテンツのなかで、どれだったら
お金を出して読みますか」と聞いてみたんですよ。 |
柳瀬 |
おもしろそうですねぇ。 |
渋谷 |
そうするとですね、35歳くらいまでの人は
読みたいといって「○」をつけるのに、
35歳以降の人からは
「○」がつかなくなっちゃう項目が、ふたつあった。 |
柳瀬 |
それは‥‥? |
渋谷 |
「キャリアアップ」と「スキルアップ」。 |
柳瀬 |
わ、おもしろい。 |
渋谷 |
これ、どういうことなのか考えたんですけど‥‥。
やはり、日本の企業に勤めていると
35歳くらいを境に、
だいたい自分はどのあたりまで行けるんだろう、
この先、どれくらいの仕事ができるんだろうってことが、
ある程度、見えちゃうんじゃないか。
‥‥そういう結論をひねり出したんです。 |
柳瀬 |
なるほど、ええ、ええ。 |
渋谷 |
ですから、今回の「社会人アンケート」の場合、
回答者の多くは
日本の企業に勤めてらっしゃるかたでしょう? |
柳瀬 |
だいたい、そうでしょうね。 |
渋谷 |
そういう人たちにとって、
「ゴールドマン・サックス」や「キーエンス」って、
もしかしたら、
もういちど自分がブレイクできる、
今よりもっと高く跳ねられる、
そういう「希望の星」として挙げてるんじゃないかと。 |
柳瀬 |
ああ‥‥。 |
渋谷 |
ですから、そういううがった見かたをしてしまうと、
「閉塞感の象徴」とも言えてしまうかも‥‥。 |
川上 |
でも、35歳を過ぎたら、いろいろ諦めちゃうって、
ちょっと寂しい感じがしませんか? |
糸井 |
いや、自分の35歳を考えたら、けっこう諦めてた。 |
柳瀬 |
え! 糸井さん、そうなんですか? |
糸井 |
いや、うーん‥‥どう表現したらいいんだろう。
上へのぼっていくことのおもしろさって、
とうぜんあるんですよ。
どんなに道が険しくても、がんばってのぼりきって、
高いところから見下ろしてみたいって願望は、
あると思うんですよね、みんな。 |
柳瀬 |
ええ、あるでしょう。 |
糸井 |
まだ、30歳前後のころだったら、
「険しけりゃ険しいほど、
のぼりきったところのは空気はいいんだ」
くらいなことを、言いたいわけです。 |
柳瀬 |
うん、うん。 |
糸井 |
でも、35歳くらいになると、
60歳、70歳のあの人たちを越えるなんてこと、
ちょっと難しいなぁって思えてくる。 |
川上 |
なるほど、そう意味ですか。 |
柳瀬 |
今までのぼってきた山のサイズが
だいたい、わかってきますからね。 |
糸井 |
つまり、できることが増えれば増えるほど
先に行く人たちのすごみが、わかってくる。 |
柳瀬 |
そうですよね‥‥。 |
糸井 |
それから、もうひとつ。
仲間のちから、チームのちからのすごさに気づくのも、
35歳のあたりなんですよね。 |
柳瀬 |
それは、糸井さんのようにフリーでやってきても、
他のお三方のように、サラリーマンでも、同じ? |
前川 |
えっと、それは、同じだと思います。
やっぱり仕事って、ひとりじゃ大したことできない。
それは、
フリーであっても、会社にいても、同じでしょう。
自分のまわりに、チームの仲間たちがいて、
それぞれ得意な分野を活かしながら、
ちからを合わせて、ひとつの成果を出す。
これが「仕事」ですよね。 |
糸井 |
結局、ひとりのトップセールスマンが稼いだ金額より、
5人の平凡な人の稼ぐ額のほうが、ずっと多いんですよ。 |
柳瀬 |
そうですね、うん。 |
糸井 |
そのへんの「仕事のおもしろさ」が、
うまく、伝えられるといいんだけどなぁ。
<続きます>
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