第5回 仲間のちから、チームのすごみ。

糸井 でもね、本音のところで言いますと、
追い立てられるような時代のムードがなかったら、
ゼロから「ほぼ日」をスタートさせようなんて
思わなかったと思うんですよね。
柳瀬 なるほど、そうですか‥‥。

それでは、そういう起業にしろ、転職にしろ、
あるいは就職にしろ、
大きく関わってくる「お金の問題」については、
みなさん、どう思われますか?
川上 学生が、ある企業を志望する動機の統計を見ても、
「給与」や「福利厚生・待遇のよさ」というポイントは
ここ数年、上がってきてますね。
柳瀬 転職を希望する場合にしても、
やっぱり「今の待遇に不満があるから」というのが
ひとつ、大きな要因としてありますよね。

前川さんの目からごらんになって、
就職や転職のさいの「お金の問題」については
どのような傾向があると思いますか?
前川 やっぱりみなさん、シビアに見てますよね。
「成果主義」によって、
給料の格差が出てきてる企業もありますし。
柳瀬 それは、大企業でも?
前川 ええ、一部では。ただ、大企業の場合には
一定の「ベース」があるでしょうから。
柳瀬 なるほど。
前川 ただね、とうぜん、給料や福利厚生などは
手厚ければ手厚いほどいいんでしょうけれど‥‥

とにかく「給料さえよければいい」かというと、
ちょっとまた、ちがうような気がするんですね。
柳瀬 ポイントは、どのあたりにあると‥‥?
前川 やはり、大きな企業でなくとも、
安定的なお給料がもらえる企業。
柳瀬 やはり、安定志向ですか。
前川 その傾向は、強いと思います。
柳瀬 渋谷さん、
今回の「社会人の人気企業ランキング」ですけれど、
NBO版の結果をみるとですね、
回答者の平均年齢が、35〜36歳くらいなんです。

で、大きな会社のサラリーマンが多いんですね。
渋谷 ええ。
柳瀬 そんな人たちが、2位のゴールドマン・サックスや
17位に入ったキーエンスなど、
高給で知られる企業を上位に選んでいるんですけれど‥‥。

これは「ほぼ日」のランキングや
学生のランキングとくらべても、
はっきりと「NBO」に特徴的なんです。

そのあたり、どう見ます?
渋谷 そうですね‥‥。

『日経ビジネスアソシエ』を創刊する直前に、
20代から50代までの
男女ビジネスパーソン・3,500人ぐらいを対象に、
アンケートを取ったことがあるんです。

「有名企業の戦略について」とか、
「ビジネスマナー」、
「キャリアアップ」や「スキルアップ」など、
ビジネス誌に載っていそうなコンテンツをバーっと並べて、
「これらのコンテンツのなかで、どれだったら
 お金を出して読みますか」と聞いてみたんですよ。
柳瀬 おもしろそうですねぇ。
渋谷 そうするとですね、35歳くらいまでの人は
読みたいといって「○」をつけるのに、
35歳以降の人からは
「○」がつかなくなっちゃう項目が、ふたつあった。
柳瀬 それは‥‥?
渋谷 「キャリアアップ」と「スキルアップ」。
柳瀬 わ、おもしろい。
渋谷 これ、どういうことなのか考えたんですけど‥‥。

やはり、日本の企業に勤めていると
35歳くらいを境に、
だいたい自分はどのあたりまで行けるんだろう、
この先、どれくらいの仕事ができるんだろうってことが、
ある程度、見えちゃうんじゃないか。

‥‥そういう結論をひねり出したんです。
柳瀬 なるほど、ええ、ええ。
渋谷 ですから、今回の「社会人アンケート」の場合、
回答者の多くは
日本の企業に勤めてらっしゃるかたでしょう?
柳瀬 だいたい、そうでしょうね。
渋谷 そういう人たちにとって、
「ゴールドマン・サックス」や「キーエンス」って、
もしかしたら、
もういちど自分がブレイクできる、
今よりもっと高く跳ねられる、
そういう「希望の星」として挙げてるんじゃないかと。
柳瀬 ああ‥‥。
渋谷 ですから、そういううがった見かたをしてしまうと、
「閉塞感の象徴」とも言えてしまうかも‥‥。
川上 でも、35歳を過ぎたら、いろいろ諦めちゃうって、
ちょっと寂しい感じがしませんか?
糸井 いや、自分の35歳を考えたら、けっこう諦めてた。
柳瀬 え! 糸井さん、そうなんですか?
糸井 いや、うーん‥‥どう表現したらいいんだろう。

上へのぼっていくことのおもしろさって、
とうぜんあるんですよ。
どんなに道が険しくても、がんばってのぼりきって、
高いところから見下ろしてみたいって願望は、
あると思うんですよね、みんな。
柳瀬 ええ、あるでしょう。
糸井 まだ、30歳前後のころだったら、
「険しけりゃ険しいほど、
 のぼりきったところのは空気はいいんだ」
くらいなことを、言いたいわけです。
柳瀬 うん、うん。
糸井 でも、35歳くらいになると、
60歳、70歳のあの人たちを越えるなんてこと、
ちょっと難しいなぁって思えてくる。
川上 なるほど、そう意味ですか。
柳瀬 今までのぼってきた山のサイズが
だいたい、わかってきますからね。
糸井 つまり、できることが増えれば増えるほど
先に行く人たちのすごみが、わかってくる。
柳瀬 そうですよね‥‥。
糸井 それから、もうひとつ。

仲間のちから、チームのちからのすごさに気づくのも、
35歳のあたりなんですよね。
柳瀬 それは、糸井さんのようにフリーでやってきても、
他のお三方のように、サラリーマンでも、同じ?
前川 えっと、それは、同じだと思います。

やっぱり仕事って、ひとりじゃ大したことできない。
それは、
フリーであっても、会社にいても、同じでしょう。

自分のまわりに、チームの仲間たちがいて、
それぞれ得意な分野を活かしながら、
ちからを合わせて、ひとつの成果を出す。

これが「仕事」ですよね。
糸井 結局、ひとりのトップセールスマンが稼いだ金額より、
5人の平凡な人の稼ぐ額のほうが、ずっと多いんですよ。
柳瀬 そうですね、うん。
糸井 そのへんの「仕事のおもしろさ」が、
うまく、伝えられるといいんだけどなぁ。

<続きます>


2008-07-04-FRI


HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN