柳瀬 |
お聞きしていると、みなさん、かたちはどうあれ、
糸井さんのいう「来た球を打つ」でやってこられて、
しかも、けっこう楽しんでらっしゃるようですね。
ご自身でも、お仕事を変わられたりしている
前川さんは、いかがですか? |
前川 |
そうですね‥‥もう20年、はたらいていますけど、
やっぱり「天職」については
よく分からないな、というのが正直なところです。 |
柳瀬 |
就職活動じたいは、どうだったんですか? |
前川 |
あの‥‥ほんと恥ずかしい話なんですけど、
リクルートに入ったのは「消去法」だったんです。
文系の学生で、とくに得意なこともなかったので、
自分がやれるとしたら「営業職」じゃないかと‥‥。
|
柳瀬 |
そこで、営業で名のあるリクルートに? |
前川 |
ところがですね、最初の配属が「編集部」。
ある雑誌の編集部に配属だって。
もう「なんですか、それ?」ですよ。
だって、自分は「営業をやるぞ!」と思って
入ってきたわけですからね。
でも「とにかく、やってみりゃわかるから」と。 |
柳瀬 |
たしかに、それは面食らいそうです。 |
前川 |
それにですね、当時のぼくは
「コンプレックスのカタマリ」だったんです。
20年前のリクルートというのは、
ご存知のように「リクルート事件」のまっただ中。
その渦中の入社だったんですよ。
だからというわけでもないかもしれませんが、
同期のやつらがまた、
ヘンというか、個性的というか‥‥そんなのばっかりで。 |
柳瀬 |
‥‥ヘン? |
前川 |
オールバックで金ブチのメガネとか。
‥‥新卒の学生がですよ?
|
柳瀬 |
おもしろそうではありますが(笑)。 |
渋谷 |
ある意味ね(笑)。 |
前川 |
もうねえ、学生時代から会社を経営してたりとか、
すでに離婚を経験してます、とか‥‥。 |
柳瀬 |
人生経験がすごいんだ。 |
前川 |
そんな同期のヤツらにくらべて、
ぼくは明石市などという田舎の出ですし、
「ああ、世の中には
すごい人がいっぱいいるなぁ‥‥」と。 |
柳瀬 |
なるほど(笑)。 |
前川 |
もう、圧倒されちゃってね。
オレなんか、なんにもできないだろうから
とにかく、やれと言われた「編集」を
やるしかないと思って、やりはじめたんです。
そしたらね‥‥ムチャクチャおもしろかった。 |
柳瀬 |
それは、よかったじゃないですか! |
前川 |
仕事って、こんなにもおもしろいのかと思って。
ものを作って、世に出して、
だれかが喜んでくれることって、
ほんっとうに、おもしろいんだなあって。
それで、ふっと気がついたら、20年ですよ。 |
柳瀬 |
あっちゅう間。
|
前川 |
うん、あっちゅう間でした。
天職かどうかは、わからないんだけれど、
おもしろかったですよね。 |
柳瀬 |
なるほど‥‥今日、この会場に
学生のかたって、何人ぐらいいるんだろう?
ちょっと手を挙げていただけますか?
あ‥‥わりといらっしゃいますね。 |
糸井 |
1割ぐらい? |
柳瀬 |
もう少し。 |
渋谷 |
2割ぐらいですか。 |
柳瀬 |
そのなかで、
ご自分のやりたいことが決まってるって人がいたら
挙手していただけますか?
これがやりたいんですって決まってる人、
いらっしゃいます? ‥‥あ、いた。
えっと、あなたは、何をやりたい?
|
男性 |
会社をつくりたいです。 |
柳瀬 |
社長さんをやりたい‥‥なるほど。
そういえば、最近の若者の「起業志向」は
どうなんでしょう? |
渋谷 |
ぼくの率直な印象ですと、この20年くらい、
あまり変わってない気がします。 |
柳瀬 |
それは、バブルの前ぐらいから? |
渋谷 |
はい、ただですね、
今は「僕、起業します」って言えますよね。
でも、20年前って、
こころのなかで起業したいと思っていても、
口に出せない雰囲気があったと思うんです。 |
柳瀬 |
ああ、たしかに。 |
渋谷 |
今は、わりと気軽に言えますから、
起業家「予備軍」が顕在化してるだけでですね、
この20年間のあいだに
絶対数が増えてるって感じは、しませんね。 |
糸井 |
まず「起業」って概念がなかったですよね。 |
川上 |
うん、なかった。 |
糸井 |
「社長になりたい!」って言いかたは
あったでしょうけどね。 |
渋谷 |
じつは、いわゆる「新規開業率」じたいは、
80年代以来、ずーっと下がってるんですよ。 |
糸井 |
え、そうなんですか?
「オレ、サラリーマン辞めて
ラーメン屋はじめるわ」っていうのも、
ひとつの「起業」‥‥ですよね? |
柳瀬 |
そうでしょうね。 |
糸井 |
そこまでカウントしてる調査って
世のなかにあるのかな? |
柳瀬 |
「のれんわけ」まで追っかけるような。 |
渋谷 |
会社組織にしたら、統計に乗るでしょう。 |
糸井 |
だとしたら、たとえば、ラーメン業界なんか
ものすごく「起業家」が多そうじゃないですか。 |
柳瀬 |
とくに、ここ10数年はすごそうですよね。 |
糸井 |
でも、その「新規開業率」は下がってるんだ‥‥。
いや、こういう「仕事の話」をしてて思うのは、
ああだこうだと言うまえに、
みんな、自分でやってみたらいいのにって。
だから、起業の割合が増えてないなんて聞くと、
なんだかちょっと寂しいなって気がするんです。 |
渋谷 |
いま、起業というと、いわゆるIT系の企業で、
ゆくゆくは上場を目指して‥‥って
すごくハードルが高そうな
イメージがついちゃってることもありますよね。
ほんとは、ラーメン屋さんでも喫茶店でも
「起業」のはずで、
そういう選択肢があっても、ぜんぜんいいのに。 |
柳瀬 |
一方で、いわゆる「起業」の概念が出てきたのって、
1998年くらいから、こちらだと思うんです。
1998年って、どんな年だったかと言いますと‥‥。
前年の1997年に金融大崩壊が起きて、
ずいぶん銀行や証券会社が潰れた、その翌年です。
日本にもベンチャー企業の株式市場が立ち上がり、
一方で大企業は、不況に見舞われていた。
つまり、不況が蔓延していたと同時に、
新しい会社が出てきやすい時期でもあったんですよね。
偶然かもしれないですけど、
糸井さんが「ほぼ日」をはじめられたのも
1998年ですから、まさに‥‥。 |
糸井 |
そう言われてみたら、
まさしく、追いつめられてはじめたっていう
リアリティを感じますね、自分自身。
|
柳瀬 |
はからずも。 |
糸井 |
‥‥ていうことはオレはアレか、
バブルが崩壊して起業した若者か。 |
全員 |
(笑)
<つづきます>
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