第6回 できることを、ちゃんとやる。

柳瀬 チームのすごさ、というお話が出たところで‥‥。

採用する側、すなわち会社の側が
「チームの仲間」を選ぶとき、
どういうところを見てるんでしょう、川上さん?

川上 やはり、どの企業にも共通していることといえば
「いっしょに、はたらきたいかどうか」です。
柳瀬 『はたらきたい。』のテーマにも通じますね。
糸井 「チームの仲間」を選ぶんだから、当然ですよね。
川上 コミュニケーション能力とか、
まぁ、企業によっていろんな言いかたをしますが、
最低限の、共通した基準は、そこでしょう。
柳瀬 なるほど。
川上 さきほど、前川さんもおっしゃいましたけど、
たったひとりで、
すべてが完結する仕事って、ほとんどないですよね。

むしろ、大きな仕事になればなるほど
より多くの人たちが絡んできます。

だから、なんだろう‥‥人としての総合力というか、
いろんなプロを巻き込みながら
うまくやれるちからが、求められてきますよね。
柳瀬 それって「転職」の場合も、同じなんでしょうか?
前川 基本は、やはり、同じだと思います。

ぼくも、採用面接をしたことありますが、
新卒と中途採用者がちがうのは、1点だけ。

「あなたは、いったい何ができるのか」ということ。

柳瀬 具体的なスキルのことですね。
前川 ええ、そこはもちろん、問われます。
でも、言ってしまえば「それだけ」です。

それ以上に、
この人が、自分たちのチームに入ったとき、
他のメンバーと仲良くやれるかどうか、ということが
大きなポイントになってくると思います。
糸井 それに、いまは、昔とちがって
スキルって、あっという間に進化しますから。
渋谷 しますね。
糸井 すぐに陳腐化してしまう技術より、
「いっしょに、はたらきたい」と思わせるちから。
柳瀬 経営者としての糸井さんご自身は
社員を採用するとき、どういうところを見てるんですか?
糸井 採用の面接は、社員に任せてます。

つまり「いっしょに、はたらきたいかどうか」の判断を
その採用現場のチームにゆだねて、
ぼくは、彼らの結論を見て、
「ああ、よかったね」ってパターンがほとんどですね。
柳瀬 ほほう。
糸井 ほんとに「スキル」で採らなければならないときって、
そこが欠点だということですからね、会社の。
柳瀬 そこに穴が空いてる、と。
糸井 うん、そして、組織の弱点なんていうものが、
だれかひとりのちからで埋められるとも思えないし。

柳瀬 もっと構造的な問題ですね。
糸井 そう思います。

‥‥ちなみに今、
新卒の学生さんって、どのくらいいるんですか?
川上 リクナビの会員で58万人ぐらいですね。
柳瀬 登録してる学生さんだけで、58万人。
川上 リクナビには「ほぼ登録している」という前提で言うと、
ざっくりと、約60万人ぐらいでしょうか。
糸井 たとえば、このランキングの上位20社に
その60万人のなかの
どのくらいの学生が入社できるんですか?
川上 いちばん多いところ‥‥メガバンクのひとつが、
だいたい2400人くらいですから‥‥
20位まででしたら、
1万人くらいじゃないかなと思いますけれど。
柳瀬 つまり、人気上位の企業に入れるのは
60万人のなかの、約1万人ということですか。
川上 そんなもんでしょう。
柳瀬 つまり、それって、大半の学生さんが
志望の会社には入ってないということですよね?

そのあたり、どうやったら、
うまく自分の気持ちに
折り合いをつけられるんでしょうか。
糸井 直接的な答えになっていないかもしれないけど、
ひとつ、言えるのは‥‥
みんな「もうちょっとがんばれば、できるから」って
言われながら、大人になるじゃないですか。

でもさ、よっぽどね、運でもよくないかぎりは、
「もうちょっとがんばればできる」ことって
じつは、そうとう難しいことだと思うんですよね。
柳瀬 「あと1歩」ってのが、いちばん難しいと。
糸井 だから、すばらしい才能の水泳選手が、
「自己新で日本新記録を更新した」なんてニュースは
めったにあり得ないことだから、ぼくらは拍手する。
川上 そうですよね。

糸井 ぼくたち、ふつうの人間というものは
できるに決まってることでも
できないくらいだと思ったほうがいいんですよ。
柳瀬 うん、うん、うん。
糸井 逆に言えば、自分ができる精一杯のことを
ごまかさずに、きちんとできるってことは、
ある意味、本当にすごいことなんですよね。

なにより、
まわりの人に「約束できる」じゃないですか。
柳瀬 約束。
糸井 チームの仲間にも、お客さんにも‥‥
約束したことを、きちんと守り続けてる人って、
ほんとうのちからがついてくる。

つまり、人の進化っていうのは
「右肩あがり」の「ななめグラフ」じゃなくて、
らせん構造、スパイラルなんですよ。
柳瀬 うん、うん。
糸井 自分ができるだけのことを
きちんきちんとやってこれたら、ちょっとずつ‥‥。
柳瀬 ちょっとずつ。
糸井 その人は、ちからを、つけていきますよね。
柳瀬 はい。
糸井 あらゆる社長が、言うじゃないですか。

自分でじゃ何もできないんで、できる人を集めたって。
あれって謙虚なんじゃなく、たぶんホントなんですよ。

渋谷 できることを、ちゃんとやるっていうことのすごさを
すぐれた社長さんは、知っていますよね。

毎日毎日、できることをやる。

100メートルを11秒で走れっていわれても
絶対ムリですけれど、
毎日毎日、たとえば社員に声をかけるだとか、
営業の現場を見てまわることはできるんです。
糸井 そして、そういうことをやれる人が、すごい。

いろんな「社長」に話を聞いてきましたけれど、
その経験からも、実感しますね。

<つづきます>


2008-07-07-MON


HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN