もくじ
第1回一人でいるのがいいわけじゃない。 2016-06-28-Tue
第2回理由のない不安がずっとあって。 2016-06-28-Tue

東京の大学4年生です。
いつどこで「けん玉やってみてよ」と言われるかわからないので、なるべくけん玉を持ち歩いています。

中嶋くんと蒼き日の少年と、音楽の話。

担当・さとうめぐみ

第2回 理由のない不安がずっとあって。

ーー
私もこのアルバムは結構聞いていて。
私は比較的楽しかった時期だったんですけれど、
plenty』の主人公みたいな
どこにも行けなくて停滞しているみたいな自分も
私の中に多分いて。
一人で聞いて、あえてそういう自分を見る
みたいなことをしていた気がするんです。
「おりこうさん」とか「砂のよう」が好きで。

ハローハロー おりこうさん
多忙野望 優越感
(「おりこうさん」より)

ーー
アルバムの中でも、
特に好きだった曲はあるんですか?
中嶋
「人間そっくり」は
曲自体も好きなんですけど……
この3行が、なるほどと思っていて。

君が髪を切った
キレイだった すごく似合ってた
問題は君を好きなのかどうか
(「人間そっくり」より)

中嶋
「問題は君が好きなのかどうか」って
あんまり出てこないなって。
「君」とか「あなた」みたいな言葉が出てきても、
結局自分のことしか歌っていないな
ってところに共感して。
あと、最後はずるずるずるずる
「まぁいっか」とか「今週何しよっか?」とか
結局なんにも考えていないみたいな。
それを嫌だと思っていても
そういうふうな方に行っちゃう状況が
教習所に通っていた自分にもあって。
ーー
はい。
中嶋
周りの人がなあなあと生きている
って言いたいわけではないんですけど、
それなりに楽しんで生きて、
それなりに芸術とかも、みんなが好きなものを
かじって生きていくことに対する疑問
みたいなものがすごくあったんですよ。
でも、逆にそういうふうに思っていると、
「人間そっくり」みたいに
他人ができることができなくなっていくみたいな。
就職しても、大学に入っても、
みんなができることができないじゃないかって不安で。
それを新しいステージに入っていくときに、
ずっと俺は感じていて。

自分がコミュニティーの中で、優秀な方でいられることって
あんまりないじゃないですか。
基本的に一番下に入っていくので。

ーー
確かに、そうですね。
中嶋
小学校6年生だった人が中1として入っていくことに
俺はすごく不安があって。
めっちゃ不安だなって思っているときに、
教習所に通っていて。
他にやることあるじゃん、
もっと有意義な生活ができるんじゃないか
って思っている一方で、
結局そんなことはないっていうのを
すごく感じていたんです。
ーー
はい。
中嶋
教習所に行っていなくても
この時期はそういうふうに思っていたのかもしれないけど、
結局…… なんだろう、
理由のない不安みたいなものが
その当時にはすごくあって。
特に何かあったわけではないけれど
ずっと思っている悲しさを、
肯定された気がしていたんですよね。
嬉しいときには大抵理由があったりするんだけど、
悲しさみたいなものの無意味さみたいなものって、
あんまり人から肯定されることってなくて。
ーー
うん、はい。
中嶋
そういうものって、
自分の中で消化はされないまま大人になっていく
みたいなところがあると思うんです。
例えば、
やだな就職したくないな、みたいな気持ちが
だんだん消えていくんだろうな
というのはわかっているんだけど、
そのときはずっと思っていて。
そういう気持ちから
逃げていたんですよね、『plenty』で。
ーー
そういうものなんだ、というふうに?
中嶋
それでいいんだよって言ってもらえた
っていうのが救いになったというか。
そういう生活をしたいわけではないんだけど
なってしまうときに、
「違う」っていうふうにも言わないし、
「一人でいい」っていうふうにも言わなくて、
一人でいたくないんだけど一人でいるっている状況を、
肯定してくれたのがすごく大きくて。
そういうのってあんまりないなって。
多分日本語じゃないと、
そういうふうに思わなかったのかな。
これだけ歌詞のある曲だったからなのかなって。
「蒼き日々」とかめっちゃ聞いたな。
結局ずっとひとりですもんね。

朝が来るまでは僕だけが正義。
蒼き日々だけが続いてゆく
今更何を怖がる?
独りきりでもいいだろ
(「蒼き日々」より)

中嶋
僕は割とそういうふうに、
音楽を聞いてきたところはあるかもしれないですね。
そのときの気持ちを、すごく比喩的に言えば、
部屋のコルクボードにとめてくれたというか。
あんまり言葉にできないですけど、
気持ちをそのままとめておいてくれたみたいな、
脚色せずに。
そういうアルバムかなっていうのはすごく感じます。
いいアルバムだなぁ……。
ーー
3年経った今も、
『plenty』、振り返って聞いたりするんですか?
中嶋
ちょうど今年(2015年)に
新しいアルバムが出たりしているんですけど、
やっぱりこれが好きだなって思いますね。
plenty自体もドラムメンバーが辞めたりした時期で、
江沼さんのエゴが全部に出ているアルバムだったんで。
大人とか子供とか、少年とかいう言葉がすごい出てきて、
彼も狭間にいたのかなって。
でも、彼らもそこから抜けた感はあるので。
悩んで悩んでオーケーみたいに終わるじゃないですか。
ーー
そうですね。
「蒼き日々」は、印象ですけど
視界もひらけていく感じがあるなぁって。

中嶋
あの、音楽とかアートで
思ったことだったり感じたことって、
言葉にしていったときに
ちょっとずつこぼれていくものだと思っていて。
なるべく削れないように伝えていくことが
重要なんだって思うんです。

高校のときから漠然と思っているイメージがあって、
人の心とかはちゃんとまあるくなっているけれど、
それを伝える言葉は、
ドーナツみたいに真ん中がないってなんとなく思っていて。
真ん中が抜けた円になっていて、
上からさーっと降りてきたときに、
真ん中も外も抜けちゃうっていうイメージがあって。
「掴めなかった」みたいな。

ーー
そのイメージ、すごくわかります。
中嶋
そういうところを音楽は埋めてくれる感覚があって。
スポーツもそうなんですけど。
身体で表現するっていうのは、
そういうところを埋められるんじゃないかって。
ーー
ああ、スポーツも。なるほど。
中嶋
大学入ってから精神衛生上保てているのは、
バレーをやっているからっていうのがあるなあって
最近は思いますね。
高校のときはそんなこと思っていなかったんですけど。
バレーって、
試合中しょっちゅうハイタッチをするんですよね。
それがいいなって。
見ないでハイタッチできるようになるんですよ。
向こうが出しているのかなんて見てないのに、
パンパンパンパンて。
そこで俺は仲間がいるから、生きていけるのかなって。