もくじ
第0回 2016-11-08-Tue

去年の春に京都からやってきて、東京のIT企業ではたらいている、まだ社会人2年目の若者です。「サイボウズ式」というメディアの編集に携わっています。

私の好きなもの</br>本棚

私の好きなもの
本棚

担当・あかし


私の「好き」には、いろんな種類があります。

大切にしたいと思うもの。
ワクワクさせてくれるもの。
心を落ち着かせてくれるもの。
幸せな気持ちになれるもの。
自分の中だけにとどめておきたいもの。
誰かに伝えたくて、たまらないもの。

このような、いろんな「好き」の中から、
どれかを選んで書くとしたら、
この文章を読んでいただく人たちに、
伝えたいと思えるものがいい。

そう、思いました。

そこで今日は、「本棚」の魅力について、書いてみたいと思います。

本棚が、すきだ。
もちろん「本そのもの」もすきだけど、
本よりも、本棚の方がすきだ。

本棚を見れば、その人の性格がちょっとわかる。
センスがわかる。こだわりが、わかる。

同じ棚に何を置くか。選んだ本を、どう見せるか。
並べ方をほんの少し変えるだけで、
同じ本でも、放つオーラが、10にも100にもなる。

本棚の魅力は、すごいのである。

私は、本屋に入った瞬間に、
雑誌かマンガコーナーに直行するような子どもだった。

小学生のときは「犬夜叉」「名探偵コナン」、
中学生のときは「りぼん」「ちゃお」「なかよし」、
高校生のときは「別冊マーガレット」「クロスゲーム」「ONE PIECE」。

月に1冊くらいは活字の本も読むけれど、
もっぱらマンガがだいすきで、お母さんに
「お願いだからマンガばっかり読まないで…」と
言われるような子どもだった。

私にとって本屋とは、読んでいる雑誌やマンガの発売日に、
それらを「手にいれる」ために行く場所だった。

こんな、私の「本屋の概念」をくつがえす出来事が、
大学2年生のときに起きたのである。

大学2年生のとき、本屋でアルバイトを始めた。
京都の四条河原町の交差点にある京都マルイに入っている、
「FUTABA+京都マルイ店」という本屋さんだ。

なんとなく「本屋さんでアルバイトしてみたいなあ」と思っていて、
そんな時に、ふらっと立ち寄ったのがFUTABA+で、
「アルバイト募集」の張り紙があったのを見て、応募した。

今思うと、その本屋さんは、4〜5人のスタッフで回していて
アルバイトを募集することはめったになかったので、
本当に運が良かったのだなあ、と思う。

その本屋さんは、本当に素敵な本屋さんだった。
働く人も、店内も、取り扱われている本たちも。
本当に、本当に素敵な本屋さんだった。

店長の名前は、私と同じ「明石さん」だった。
明石さんは、愛情と厳しさと正しさのある人だった。
私は、明石さんのもとで、いろんなことを教えてもらった。
一緒に働く仲間の大切さ。本や雑貨の魅力。
仕事に対する、真っ直ぐな姿勢。

私は大学生だったので、何を担当するわけでもなかったけれど、
カッコイイな、素敵だなと思える大人の人たちに囲まれ、
毎日が幸せだった。

そんな素敵な本屋さんにある、
「カベの本棚」の魅力に、
私はやられてしまったのである。

その本屋では、新刊も扱っているのだが、
奥のカベ一面の本棚には、明石さんがセレクトした本が
ずらーーっと並んでいた。

カベの本棚には、当時見たことのないような作家さんの名前が並んでいた。

町田康さん、開高健さん、須賀敦子さん、クラフト・エヴィング商會さん。

出版社名は関係なく、
著者名順に、ずらっと作品が並ぶ。

読んだことはないのに、
直感で「絶対に、この人たちの作品はおもしろい」と思った。

私にセンスがあったわけではない。
その本棚の放つオーラが、すごかったのだ。

それからというもの、私は、本の虫になった。
早川義夫さん、岸本佐知子さん、
角田光代さん、穂村弘さん、糸井重里さん。
ことばだけなのに、なんでこんなにも惹かれるんだろう。
ことばが、こんなにも強く優しいことを知った。

そして、「本がすき」と自分でも少しだけ
胸を張って言えるようになったとき、
私は、本屋に行くと自然に
「本棚を見る」ようになっている自分に気づいたのである。

文庫の棚を見る。
まず、村上春樹さんの箇所を見る。
あれ、ここはベストセラーしか置いていないんだな。
お、ここはエッセイやルポルタージュまで置いてるぞ。

町田康さんの棚を見る。
テースト・オブ・苦虫が置いてある本屋さんは、
意外と少ない。置いてあったら、嬉しくなる。
この文庫担当の人とは、仲良くなれそうだなあ、とか
思ってみたりする。

どんなに大きな本屋さんでも、本を置けるスペースは限られている。
だからこそ、その限られたスペースに置く本を選ぶ、という行為には、
店員さんの売りたい、という気持ちだとか、
すきだ、という気持ちが、顕著にあらわれてくるものだと思うのだ。

「売れる本」を売ることも大事だけれど、
自分が売りたい本を「売れるようにしたい」と思う気持ち。

そういう愛情のある本棚は、
本当にちょっとした瞬間に、前を通った人の
足を引き止める「何か」が
あるのではないかなあ、と、思う。

そうやって出会ってきた本たちに、
私はとても心を動かされながら生きてきた。

だから、私は本棚がだいすきなのだ。
本を愛する人が作った本棚が、だいすきなのだ。

去年の4月に上京したばかりで、
東京の本棚は、まだまだ未知数。
みなさま、おすすめの本屋さんの「本棚」があれば、教えてください。

荻窪にある「Title」さんの本棚は、
とても素敵だなあと思っています。