わたしが好きなもの、いろいろあるけど、これはゆずれない。
沖縄の離島「与那国島(よなぐにじま)」が大好きだ。
与那国島は、さつまいもを横にしたような形の、
日本で一番西にある、沖縄の離島。
羽田から石垣空港へ行き、そこからプロペラ機に乗り換え30分ほどで着く。
石垣港から大きなフェリーに乗って行くこともできるが、
こちらはなんと、4時間もかかる。
石垣島より台湾の方が近く、晴れた日には台湾の影が見えるそうだ。
若き頃の父は、一人旅で北海道にある日本最北端へ行った。
大人になって一人旅を計画したとき、ふと父とは真逆に行こうと思った。
日本の一番南は沖縄、波照間島にある。
石垣島から波照間島への移動はフェリー。
波の荒い外洋を通るため、少しの雨や風ですぐに運休してしまう。
旅行中、弱めの台風と遭遇してしまい波照間島行きは断念。
石垣港で立ち往生をしていると、どうやら空の便は問題ないと知る。
最南端がだめなら最西端へ行ってみよう!と、
唐突に与那国島行きの飛行機に乗ったのが始まりだった。
与那国空港は小さく、滑走路が短い。
着陸時には体が大きく前へ傾くほど、飛行機のブレーキがきつい。
海に面した空港で、辺りは見渡す限り、海と山しかない。
借りたレンタバイクで島の外側の道をぐるりと巡ってみると、
小さな島なので1時間もかからず一周できてしまう。
行くも行くも、見えるものは海と山。
島内の約三分の二は緑地帯で、起伏が激しく高い山もあり、
ひとたび海の見えない場所へ入ると、まるで長野の山奥のようだ。
与那国島は観光がメインの島ではない。
島の主な産業は、カジキの漁業、サトウキビ農業などで、
大きなホテルもひとつしかなく、観光施設らしいものもあまりない。
住民の方々も観光客に媚びている印象がなく、
みな淡々と自分の生活をしながら、時々来る観光客を相手にしている。
目立ったおみやげやも、スーパーも、当然コンビニもない。
行くのも大変そうだし、観光メインという雰囲気の島でもないし、
この島のどこがそんなに好きなのかとよく聞かれる。
この島の魅力とは何だろう?
与那国島は島全体が、とにかくダイナミックでかっこいいのだ。
珊瑚礁から成っている波の穏やかなビーチが多い石垣島などと違い、
与那国島の外側は、切り立った岩によって断崖絶壁の箇所が多い。
海を覗き込むと、濃い青の大きな渦や白く高い波が見え隠れしている。
外洋に面しているので波は荒く、潮の流れも速く、少しこわい。
荒々しい波に削られてできた奇妙で神々しいいくつかの岩、
東には、日本で一番遅く日が昇る東崎(あがりさき)、
西には、日本で一番遅く日が沈む西崎(いりざき)。
西崎には日本最西端の碑があり、でっかい夕日が落ちてゆく。
いたるところに、小柄でおとなしい与那国馬という馬が放されていて、
悠々と草を食み、道路でものんびりと糞をしている。
島にあるのは、これらのいくつかぐらいである。
なのにただ歩いているだけで、「非日常」がすごく感じられる。
ひとつひとつが、どれもダイナミックなのだ。
壮大な草原が広がり、緑の先には青い空と海。
日本の多くを見たわけではないけれど、
こんなに「この世の果て」らしい場所もそうそうない。
観光客も多くはないので、
「いま、この瞬間、地球には自分しかいない」という気分になれる。
世界でひとりぼっちになってしまった、ちっぽけな自分ごっこ。
地球は丸く7割が海で、日が差せば緑が生え、それを食べる馬がいる。
毎日太陽は昇り、沈む。
東京で生活していると忘れてしまう、何十億年前から続いてきたこと。
それを、激しい波や巨大な岩や広い草原や高い山の景色で、
暴力的なまでに思い出させてくれるのが与那国島だ。
何べん行っても、毎回、島のすごさに圧倒される。
いっぺんに、ど迫力の「こんなところ、見たことない」が味わえる。
欲張りなわたしは、一度の旅行でたくさんの「非日常」を摂取したい。
雰囲気が、普段の生活から離れれば離れるほど良い。
東京から2000km以上も離れた与那国島は、
何もかもが非日常すぎて、「お得な感じ」すらするのだ。
ただそこにあるだけなのに、とにかくすごくてかっこいい。
時々、夏の台風が与那国島を襲うことがある。
電気が通じなくなったり、雨風で家や木が倒されたり、
島外との交通も遮断され孤立状態になってしまうこともある。
ほかにも、時々自衛隊のことで、話題になったりもする。
それ以外では、あまり知られていない島かもしれない。
のんびりとした時間が流れる、ぽっかりと海の上に浮かんだ、
ただのすばらしい島だ。
あの景色を想いながら、恩返しのような気持ちで募金をする。
実は今回、この課題にかこつけて、
与那国島へ一人旅をしようと目論んでいた。
あいにく都合が合わず、それは叶わなかったが、
現地へ行けば、島の魅力をもっと生き生きと書けると思ったのだ。
隙があれば無理やりにでも、機会を作って行きたいと思う。
そんな場所は他にはない。
昨日も今日も、東京に住んでいるわたしの上を通りすぎた陽は、
一日の終わりに、与那国島の西崎から見える海の先へ沈んでいく。
遠く離れた、ダイナミックすぎる小さな島が、
わたしが日本で一番好きな場所なのである。