もくじ
第0回にぎやかな検索 2016-12-06-Tue

20代前半、社会人女性です。

3分でさっくり読める</br>ショートな小説

3分でさっくり読める
ショートな小説

担当・どーなつ

読書好き・小説好きを公言する私は、
複数の友人から、こう、よく言われます。
「読書したい気持ちはあるんだけどね…オススメの本ってある?読みやすいやつ(笑)」

そんな、
「読書したいけど、長いのは飽きちゃう」
「お金払ってまで読むほどでも……」
という方に文章を読むことの楽しさを届けられたらと、小説を書きました。

私が読書を通して
「こんな考え方もあるんだ!」
と発見したときのワクワクが、少しでも伝われば嬉しいです。

ちなみに、ふだん全く読書をしない大学3年生の妹にも読ませたところ……
気になる感想は、
「お姉ちゃん、3分で読めたわ!なるほどね!」とのことでした。

にぎやかな検索

「わ〜増えてきたよ〜『クリスマス』のワード検索。もうそんな時期なんだね」

「早いね。どうせみんな『プレゼント』とか『ディナー』でしょ? 知りたいのって」

ここは「インターネット海」の底深く。「情報仕分人」のサクとケンは、コンマ1秒を争う慌ただしい世界の中で働いている。

「そうそう。でもね、聞いて! クリスマスの折り紙って超カワイイんだよ、知ってる〜?」

「折り紙?」

「うん、私もさっき仕分けてて見つけたの。ツリーとかサンタとかを手作りできるんだけどね、あまりにカワイイから、サジェスト上の方に入れちゃったw」

「おい笑 私情挟んだら怒られるぞ笑」

「え〜、検索人にとって有益なものをサジェストするのが私たちの仕事でしょ〜。SEO対策とか意味ないからね☆ (ゝω・)」

「まあな、でもさすがに『旅行』より上はマズイと思うけど……」

情報仕分け人たちは、それぞれ「トップ」「エンターテイメント」「健康」「スポーツ」などのカテゴリに分かれて仕事をする。
検索された情報を、有益な順に整理して並べたり、関連するワードを提案したりするのが業務だ。

「サクちゃん、ケンくん、聞いてー!」

健康カテゴリで働くキイがやってきた。

「『トップ』カテゴリにいたゴクくん、『もしかして:』班に異動だって!!」

「まじ! いいな〜出世だね〜。私ももうちょっと頭良ければな〜」

「もしかして:班」とは、検索ワードに誤りの可能性がある場合に、その入力単語に近い検索結果へ誘導するチームである。
ユーザーが本当に知りたい情報を先回りして整理しなければならないため、高度な技術を持つ情報仕分け人たちで構成されている。

「あたしのチーム、この間やらかしちゃったからなー……出世どころか給料下がるー……」

キイがうつむいている。

「ああ、信頼できるとはいえない内容の医療記事を1番上にあげちゃったんだっけ」

「そうそう……。あたしたちも反省してるのよ、しっかり中身確認すればよかった、って」

「うん。とはいえ、書く人にもっと気をつけてほしいよな、やっぱ。俺らはあくまで仕分け人なわけで」

「ほんとそれ!」

んー、医療ワード勉強し直しだなー、とキイがため息をつく。

「でもね、私たちにふだん馴染みない言葉も、キイちゃん0.40秒でさばけるの、すごいよ」

ほら、「肩関節周囲炎」とかさ!とサクがログを見せる。

「いや……たったの85万件だもん、余裕だよ」

そう言いながらもキイは少し嬉しそうだ。

「私たちがコンマ1秒を争いながら必死に情報仕分けてること、検索人たちは知らないよね〜」

「それなー(笑)」

報われないね〜とサクが笑う。

「でもさ、検索人たちって、急に謎の言葉検索しまくったりするよねw」

「たとえば?」

「ほら、9月になぜか『ほぼほぼ』ってワードの検索数がぐんと増えたりとか。季節関係ない語のはずなのに」

それを聞いて、ケンが「ああ」と笑い出す。

「あれ、サクのせいだよ笑」

「えっ!?」

「『ほぼ』が入力されたら『ほぼほぼ』をサジェストするようにしてるでしょ、サク」

「え、うん……」

キイも興味深そうに聞いている。

「9月に『ほぼ』を検索した人って、実はその時期に発売の『ほぼ日手帳』を検索しようとしてる人が大多数らしくてさ」

ケンは続ける。

「『ほぼ日手帳』を調べたい人が『ほぼ』と入力すると、サクが設定した『ほぼほぼ』がサジェストされて、なんとなく気になった人がそっち押しちゃうっていう説!」

詳しくは【ここ】ね、とケン。

サクとキイは覗き込む。

「9月に検索数増えてたの、サクがサジェストしてたせいじゃん!!(笑)検索人にも分析されちゃってるし(笑)」

まじか〜と落ち込むサクの横で、キイが笑っている。

「来年以降は、ほぼ日手帳の情報を上に出すようにしたほうがいいかもね笑」

今日も、インターネット海の底はにぎやかだ。