大声を出すのが苦手だ。
飲食店で店員さんを呼び止めるのにも、緊張するほど。
自由にリズムを刻んで踊るのも苦手だ。
人生で一度だけ「クラブ」に行った時は、
棒立ちのまま揺れていた。ぎこちなく。
わたしの頭の中には、いつもこんな考えがよぎる。
「うまくできているだろうか」
「変じゃないだろうか」
どうしても他人の目を気にしてしまうのだ。
自意識過剰なのだ。
そんなわたしが、人目も気にせず腹の底から大声で叫び、
荒れ狂ったように踊ることができるのが、
夏フェスなのである。
おとなしい人だって、行くんだ
「夏フェスに行くんだ」
そう伝えると、だいたいの人にこう言われる。
「えー、意外!そういうの行かないタイプだと思ってた」
大声を出すことはなさそうで、
そもそもロックなんて聞かなさそうに見えるのだろう。
そんなおとなしいタイプの人間だって、夏フェスに行くのだ。
わざわざ真夏の公園で、一日中叫びながら踊るのだ。
夏に野外でやるからこそ良い。
夏だからこそ、良い。
暑さが殻を破ってくれる
わたしが毎年のように参加しているフェスのひとつに、
ROCK IN JAPANという邦楽の野外フェスがある。
茨城県のひたち海浜公園という
広大な場所でおこなわれる夏フェスは、
あきらかに非日常空間である。
ほとんどの人が「ROCK」と書いてあるTシャツを着て、
子どもから大人まで、日陰の無いフィールドで飛び跳ね、
身体を揺らし、こぶしを上げて叫ぶ。
「夏は人を大胆にさせる」なんてどっかで聞いたことあるけど、
たぶん本当にそうなのだ。
夏の暑さはわたしの頭のネジをぶっ飛ばし、
あたかも普段から大声で騒ぐのが好きな人であるかのように振る舞わせる。
大声で叫んで声が裏返ろうが、
踊りがヘタクソだろうが、
群衆が踊る太陽の下のフィールドでは関係ないのだ。
わたしはココで、「おとなしい」の殻を破れる。
心の声を叫ぶのって、楽しいのだ。
リズムに合わせて踊るのって、楽しいのだ。
上手い下手は関係ない。
ただただ心の奥底から湧き上がる楽しさを身体で表現して、
ヘトヘトになるまで騒いでいたい。
夏だから好きなのだ
音楽フェス自体は、別に夏だけのものではない。
春も秋も冬もやっている。
他の季節のフェスでも、
わたしは日常とは違う顔で参加している。
でも、夏が一番、自分じゃなくなる気がするのだ。
夏が一番、おかしくなれるのだ。
既に今から、次の夏フェスを楽しみにしている。
汗でベタベタになりながらも飛び跳ねるあの日を。
「自分」を脱ぎ捨てて、本当のじぶんを表現できるあの日を。