冬になると、鍋の蓋が開かなくなることが多かった。
京都の大学に通い、一人暮らしをしていた頃の思い出だ。
京都の冬は、寒い。
「底冷え」の言葉通り、足元からひたひたと
寒さが忍び寄ってくるのがわかる。
床に何か敷物がないと、耐えられない寒さなのだ。
そんな寒さのせいだったからなのか、どうなのか。
東京では悩まなかった鍋の蓋で、よく慌てさせられた。
さあ、後はご飯をよそうだけ、という時に、
どうしたことか蓋が開かないのだ。
我が家は昔からステンレスの鍋でご飯を炊く。
炊飯器が無いため、鍋の蓋が開かないということは、
すなわち、食事に主食が欠けることを意味する。
よりによって、蓋が開かない日の夕飯は親子丼だったりする。
ご飯と具材が合わさってこその「丼もの」なのに、
ご飯がないとは!!
食いしんぼうとしては、親子丼は親子丼として食べたいのだ。
具とご飯が別々であっては、ならんのだ!!
その後、ネットで調べた方法で開けようとしたり、
力づくで開けようとしたが鍋の蓋は頑固であった。
「明けない夜などないのだから、開かない蓋もないだろう」
そんな迷言めいた言葉が頭をよぎる中、
一人、部屋で鍋と格闘した夜は忘れない。
その後、約1時間を経て鍋の蓋は開き、
親子丼にありつけたのだった。
そんな鍋との出来事を思い出す。
一人暮らしの気楽さと、
一人だからこそのさみしさを抱えて
台所に立っていた頃が懐かしくもある。
大学を卒業してからは、実家で家族と生活をしている。
最近我が家にやってきた土鍋が、笑い話の中心になるような、
そんな思い出ができるといい。
発見:土鍋を買ったら、なんだかちょっと、センチメンタルになりました。

(続きます)