祖母は、祖父が立ち上げた鉄骨会社で、
長年いっしょに働いてきた。
工場は家と併設していて、
子どものころ、祖母の家へ遊びに行くと、
鉄骨を切る「キーーーーン」という音が鳴り、
火花が散っていた。
「危ないからいっちゃだめ」と母に言われ、
仕事中は遠くから見ているだけだった。
中は入れるのは、仕事が休みの時だけ。
工場は2階建てくらいの吹き抜けで、
天井にはクレーンのようなものがぶら下がっていて、
赤い鉄骨がそこかしこに置いてあり、
足元にはがしゃがしゃと鉄くずがあった。
工場はいつも埃っぽくて、独特の匂いがした。
高い窓から差し込む陽の光に、
鉄なのか何なのかはわからないけれど、
埃がキラキラと光ってきれいだったのを
何となく覚えている。
「よく来たな」と迎えてくれる祖父母の手は、
よく洗ったはずなのに、爪の間まで真っ黒だった。
高校へ入学した時、祖父が
「あの高校の自転車小屋は、うちでつくったんだ」
と話してくれたことがあった。
初めて祖父母が手がけたものを見て感激し、
「あれ、うちのじーちゃんの工場でつくったんだよ」
と友達に自慢したのを覚えている。
(友達は「へー」とかそんな反応しかくれなかった)
2011年に祖父が亡くなってからは、
息子であるおじさんが継いで、祖母は引退し、
今は畑仕事や趣味のグランドゴルフや絵を楽しんでいる。
思い返すと、祖父が働いていた姿は思い出せるのに
祖母が働いている姿はどうしても思い出せない。
でも、祖母が私にかける「仕事論」的なものは、
どれも妙に説得力があった。
(つづきます)