- 糸井
- 僕が初めて田中さんが何か書く人って認識したのは、
東京コピーライターズクラブのリレーコラムですね。
読み始めたらおもしろくて、「誰これ?」って思って。
- 田中
- ありがとうございます。
- 糸井
- あれが初めて書いた長い文章なんですか?
- 田中
- はい、ずっと広告の仕事をしてきたので。
文章を書くのはキャッチコピー20文字程度、
せいぜいボディコピーで200文字とか。
それ以上長いものを書いたということがなくて。
- 糸井
- ラブのレターとかは?
- 田中
- まったくもう、苦手で。
なんか書くって言ったら、ツイッターくらいですね。
140文字までしか書けないので、
楽だなっていうことで始めたんです。
- 糸井
- ちょうどいいんですよね。
- 田中
- ツイッターは文字を打った瞬間、
活字みたいなものになって、人にばらまかれますよね。
そういうことに飢えてたっていう感覚はありました。
- 糸井
- あぁ。
友達同士でのメールのやりとりとか、
そういう遊びもしてないんですか?
- 田中
- あんまりしてなかったですね。
- 糸井
- すごい溜まり方ですね。
- 田中
- 溜まってましたね。
- 糸井
- 性欲的な(笑)。
- 田中
- もうすごいんですね。溜まりに溜まった何かが(笑)。
- 糸井
- っていうことは、「筆下ろし」は、
コピーライターズクラブのコラムですか。
- 田中
- はい。
- 糸井
- 800字のうち600字くらいは、
どうでもいいことだけが書いてあるっていう文章。
中身にあたるものはほとんどなくて。
- 田中
- 今でも全然変わらないですね、それ。
- 糸井
- ねぇ。で、それがおもしろかったんですよ。
- 田中
- ありがとうございます。
- 糸井
- 書いたのは27、8の若い人だと思った。
- 田中
- (笑)
- 糸井
- こういう若い子が出てくるんだなぁって(笑)、
いつ頃だろう、若い人じゃないってわかったのは。
- 田中
- 実は46、7のオッサンだったっていう(笑)。
- 糸井
- でも、まだ触ると敏感みたいなね(笑)。
コラムの次に
長い文章を書くことになったのは映画評ですか?
- 田中
- はい。
電通の後輩だった西島知宏さんが編集長の、
「街角のクリエイティブ」の映画評ですね。
頼まれたときに高級な和食をごちそうになってたので
断れなかったんです。
- 糸井
- (笑)
- 田中
- ツイッターで2、3行で映画評をしていることもあるので、
2、3行でいいです、と言われて。
それで仕事になるならいいなあって引き受けました。
でも、書き上がったら7,000字になりました。
- 糸井
- 溜まった性欲が。
- 田中
- そう。書いてみると、やっぱりね。
- 糸井
- 2、3行のはずが(笑)。
- 田中
- 初めて、勝手に無駄話が止まらないっていう
経験をしたんですよね。
キーボードに向かって、
「俺は何をやっているんだ、眠いのに」っていう。
- 糸井
- それはうれしさ?
- 田中
- なんでしょう?
「これを明日ネットで流せば、絶対笑うやつがいるだろう」
という想像をしたら、取り憑かれたようになったんですよね。
- 糸井
- あぁ。
一種こう、大道芸人の喜びみたいな感じですねぇ。
- 田中
- あぁ、そうですね。
- 糸井
- 雑誌だったら7,000字ってまずないですよね。
メディアがインターネットだったのは幸運ですねぇ。
- 田中
- そのあと雑誌に書いたこともあるんですけど、
反響がないのでピンと来ないんですよね。
僕に直接「おもしろかった」とか、
「読んだよ」とかがないので。
- 糸井
- はぁ、インターネットネイティブの発想ですね。
若くないのに。
- 田中
- 45なのに(笑)。
すごいシャイな少年みたいに、
ネットの世界に入った感じですね。
自由に文章を書いて、
それが明日には必ず誰かが見るんだと思うと、
うれしくなったんですよね。
- 糸井
- 新鮮ですねぇ。
あぁ、それはうれしいなぁ。
- 田中
- 糸井さんはそれを18年間
毎日やってらっしゃるわけでしょう?
- 糸井
- (笑)
- 田中
- 休まずに。
- 糸井
- うーん‥‥でも、たとえば松本人志さんが
ずっとお笑いやっているのと同じことだから、
「大変ですね」って言われても、
「いや、みんな大変なんじゃない?」って(笑)。
- 田中
- なるほど(笑)。
- 糸井
- 野球の選手は野球やってるし。
あえて言えば、
休まないって決めたことだけがコツなんで、
あとはなんでもないことですよね。
仕事だからね。おにぎり屋さんはおにぎり握ってるしね。
- 田中
- なるほど。
でも大して食えないんですよ。
これからの時代、
お金を出して文章を読もうっていう人が
どんどん減るから。
僕は文章で全然儲かってないし、
何を書いても生活の足しにはならない。
- 糸井
- ならない。
- 田中
- 前は大きい会社の社員でしたけど、
これからどうするんだ?
っていうフェイズには入っています。
- 糸井
- イェーイ(笑)。
27の人と今話してますね。
- 田中
- 若者の悩み相談みたいですか(笑)。
- 糸井
- うん、愉快だわ(笑)。
- 田中
- ただ、僕の中ではお金ではなく、
「おもしろい」とか、
そういう声が報酬になってますね。
家族はたまったもんじゃないでしょうけどね、
それが報酬だと(笑)。
(つづきます)