- 田中
- 1週間ぶりのご無沙汰で。
大阪でお目にかかりまして。
- 糸井
- 放っておいたら、
1人でもやってくれそう(笑)。
- 田中
- 漫談師じゃないんですから(笑)。
- 糸井
- いつものようにですが、
今日も手土産をいただきまして。
ぼくの中では
「手土産研究家の田中さん」と認識してます。
- 田中
- いつからそんなことに(笑)。
- 糸井
- どうしてあんなに手土産を?
営業をやってらっしゃったんですか?
- 田中
- いえいえ、ぼく自身、
やっぱり貰うとうれしいというのがあって。
まあ、自分が持っていくものは、
だいたい“つまらないもの”ですが。
- 糸井
- 田中さんは、
そのハードルをものすごく下げたものを選びますよね。
- 田中
- そうですね。
大阪は、みんなお笑いが好きなので、
手土産のネーミングもだいたいくだらないというか。
ほら、「面白い恋人」とか(笑)。
- 糸井
- はいはい(笑)。
- 田中
- それでこう、中身のおいしさとかまったく
問われないところもあるので。
- 糸井
- なるほど。
- 田中
- でも、それも含めてコミュニケーションですよね。
- 糸井
- だから意外だったのは、塩野さんとの対談でもらった
「揚げ煎餅と揚げ饅頭」のセット。
- 田中
- あれは本気です。おいしいですから。
- 糸井
- そうなんです。あれが混じったことで、
ぼくのなかの田中さん像がちょっと‥‥。
- 田中
- ぼやけちゃった(笑)。
- 糸井
- 今までのような「つまんないもの」じゃなくて、
「これ、うまいじゃん!」って。
- 田中
- あれは、塩野さんがいらっしゃいましたから。
- 糸井
- ああ、なるほど。
- 田中
- 塩野さんにいきなり、大阪のお約束的なものをあげても、
きっと「なんですか、これは?」ってなると思いまして。
- 糸井
- ああ、微妙に使い分けて。あれは目黒まで買いに?
- 田中
- そうです、ここに来る前に。
- 糸井
- はぁ、この辺が出世するタイプというか。
- 田中
- いやいやいや(笑)。
- 糸井
- いままでの路線とはっきり違うから、
あれで、また田中さんへの興味が沸くという。
- 田中
- 1回は投げないとですね、ああいう球は。
- 糸井
- あと、いまだから言える秘密が、
ぼくらの間には1つありまして‥‥。
- 田中
- はい。
- 糸井
- お花見問題。
- 田中
- あぁ、はい。大問題です(笑)。
- 糸井
- あれ、言っていいですかね?
- 田中
- もちろんです。
- 糸井
- ご本人を前に言いにくいところもありますが、
何かっていうと、
この方がおられた電通の関西支社の話で。
- 田中
- ええ。
- 糸井
- 田中さんがいた部署は、なんていうか、
例えるなら梁山泊みたいなところで。
- 田中
- 関西支社は堀井博次さんを筆頭に、
東京の広告に対して、
とにかくカウンターパンチを食らわせようという、
京都や大阪の関西のノリなんですよね。
その堀井さんが
「糸井さん、一緒に仕事をしよう」ってことで、
久しぶりに再会されたのが、
そのお花見だったと。
- 糸井
- ときどきお会いする機会はあったのですが、
電通の関西チームとセットで会うのは、
あれが初めてでした。
- 田中
- あの大集団ですからね。
- 糸井
- それも、圧が強い人たちの大集団(笑)。
で、お花見だっていうから、
もう酒があるのはわかっているわけで。
- 田中
- はいはい。
- 糸井
- そこで、若手として存在している田中さんの案内で、
そのお花見に行くという日があったんです。
京都駅で待ち合わせをしましたが、
そのときが田中さんとは初対面ですよね。
- 田中
- はい。
- 糸井
- で、待ち合わせ場所で
「やぁやぁ、どうもどうも」って会うわけですが、
田中さんはそのときも紙袋を持っている(笑)。
- 田中
- (笑)。
- 糸井
- そこで田中さんは、
「これは糸井さんにお渡しするものですが、
お荷物になりますので、これはぼくが帰りまで持っています」
といって渡さない。ちょっとした知恵ですよね。
- 田中
- そうですね。
- 糸井
- で、もう1つ重いものを持っていまして、
それは一升瓶なんです。
「関西支社の方々は、とにかくお酒さえあれば機嫌がいいので、
これは糸井さんからの差し入れということで、
申し訳ないですけど、
これをお渡しする時だけ持っていただけませんか」って。
もうね、気が利くというより、
「なに、その歌舞伎のプロンプターみたいなの」って(笑)。
- 田中
- のしには筆文字で大きく「糸井」って書いてあって(笑)。
- 糸井
- そう、すでにね。
だから、別にいいんだけど、
少し騙されてるような気がする。
- 田中
- はい、すみません(笑)。
- 糸井
- その念の入り方があんまりなので、
もう笑うしかなくてね。
ただ相手というか、お渡しする梁山泊の方々は、
人を疑うことにかけても手練れているので、
これは言ったほうがいいのか、
言わないほうがいいのか、
その加減もわかんないわけですよ。
- 田中
- はい。
- 糸井
- で、ここは田中泰延に任せておこうと思って、
言われたとおり「‥‥これ」って差し出したら、
案の定、場が一気に沸くんです。
- 田中
- ええ(笑)。
まず、ぼくたちは少し遅れて行ったんですよね。
- 糸井
- ああ、そうでした。
- 田中
- 糸井さんという特別ゲストをお連れするから、
みんなが座っているところに、
すでにちょっと飲んでいる所にお連れしようと思いまして。
そこに到着する前に「お酒は糸井さんのほうから」と
お伝えはしてたんですが、
糸井さんは「あのぅ、これ、ぼくが‥‥」って、
すごく小さい声でおっしゃる(笑)。
- 糸井
- 芝居ができないから(笑)。
- 田中
- もう、後ろめたそうに出すんですけど、
そうしたらみんなから「ワーッ!」って歓声があがって。
みんな酔っぱらいだから、包み紙を一気に破るんですけど、
そしたら中から「糸井」って書いたお酒が出てくる、
それでまた「ウオォォーッ!」って(笑)。
- 糸井
- もう、すごいんだよ。
- 田中
- その喜び方の浅ましさ(笑)。
- 糸井
- 焚火にガソリンを投入したみたいというか。
東京の集いであれやったら、
きっと「あぁ」でおしまいですよ。
- 田中
- あのときは全員で一斉に注いで、
一気に飲んでましたね。
そのまま糸井コールが起きそうな盛り上がり方で。
- 糸井
- これだけ聞くとあれですが、
そのメンバーはバカじゃないんです。
- 一同
- (笑)。
- 糸井
- そこがいやらしいところで、
バカとバカじゃないが同一平面に2つ並んである。
- 田中
- なんなんでしょうね、あの人たちは。
- 糸井
- なんなんでしょう。
いやぁ、芝居のようでしたね、
- 田中
- あの日、堀井さんもひどかったんです。
「あれぇ? 田中、お前、うちに20何年いて、
何もせぇへんやつかと思ったけど、糸井を連れて来たな」って。
- 糸井
- (笑)
- 田中
- これはひどい(笑)。
(つづきます)