- 田中
- 今日は、モンドセレクションのお菓子を。
- 糸井
- 今日もいつものように、いくつかの紙袋に手土産が入ってて、「手土産研究家の田中さん」っていうふうにぼくは認識しています。
- 田中
- いつそんなことになったんでしょうか(笑)。
- 糸井
- どうしてあんなに手土産を?
- 田中
- 貰うとうれしいっていう経験がすごく大きくて。
自分が持っていくものはだいたいつまんないんですけど、ほぼ日さんに伺った時はめっちゃいいもの貰えるじゃないですか。
- 糸井
- そんなのあったかなぁ(笑)。
- 田中
- いや、本当に。カレーの恩返し貰ったりね、やっぱり紙袋をくれはるんですよ。
やっぱり貰うとうれしいし、家族が喜ぶんです。
- 糸井
- 家族って言葉が田中さんの口から出てきたのはちょっと珍しいですね。
- 田中
- 珍しいですね(笑)。
- 糸井
- 無職になってからですね(笑)。
- 田中
- そうですね。そうなんです。
- 糸井
- ぼくもわりと手土産好きな人間だったんですけど、どこかで面倒くさくなってやめちゃったんですよ。
手土産の考え方と言ったら、土屋耕一さん*ですね。
*土屋耕一さん・資生堂や、伊勢丹などさまざまな企業の広告で活躍したコピーライター。1930年生まれ。2009年に、亡くなられました。
- 田中
- はい。
- 糸井
- 同業の神みたいな人ですけど、土屋耕一さんがアルバイトのように資生堂の宣伝部に入って、資生堂ですからいろんなものを貰いますよね。ビール券だとか。そこで、「なんかお前、これからちょっと一杯やるから、買って来いよ」っていう時に、松屋の地下でいろんなものを買ってみんなで飲み会をやるらしいんですよ。その時の買ってくるものが気が利いているんで、土屋さんは、「それで俺は社員になったんだよ」と。
- 田中
- (笑)
- 糸井
- いいでしょう?
- 田中
- でもそういうのあると思いますね。
- 田中
- 「つまんないものです」って言うの、すごいいいコミュニケーションで、受け取った側が、「いやいや、そんなことないですよ」って言うんじゃなくて、昔、田村正和さんに、喜んでもらえるだろうと思いつつ、田村さんがテレビドラマの中で乗ってた車のミニカーを、「つまんないものですけど」って言ったら、田村さんがそれを見て、「本当につまらないね」って、あの口調で(笑)。
- 糸井
- はい(笑)
- 田中
- 言いながらもね、鞄にしまっていたんですよ、。だから、それすごいいいなぁと思って。
- 糸井
- 「つまんない」のハードルをものすごく下げた状態で、田中さんは選んでこられますよね。
- 田中
- でもそれがコミュニケーションツールになる。
- 糸井
- この間の塩野さんとの対談の時に、目黒にある揚げ煎餅と揚げ饅頭のセットをいただいたじゃないですか。あれから、ぼくは田中さん像がちょっとずれちゃって。
- 田中
- あれは本気です。おいしいから。
- 糸井
- 今までは、「つまんないもの」っていう、越えやすいハードルをとにかく持ってきて、相手を飛ばせるっていう人だったんだけど、「これ、うまいじゃん」ってなって(笑)。
- 田中
- あの時は塩野さんいらっしゃるから。塩野さんにいきなり、お約束の、つまらないものをあげても「なんじゃ、これは?」ってなるからっていうことですね。
- 糸井
- 微妙に使い分けて。
- 田中
- 微妙に、小ずるく生きてますから。(笑)
- 糸井
- 揚げ饅頭がメインのように思えるんですけど、揚げ煎餅もおいしくて。目黒に行ったんですか?
- 田中
- そうです、来る前に。
- 糸井
- ちょっとね、この辺が土屋耕一になるタイプ。
- 田中
- いやいや(笑)。
- 糸井
- 今までの路線とはっきり違うから、ぼくらはそこでもコミュニケーションしてるわけですよ。
- 田中
- そうですね。
- 糸井
- で、つまんないからって言って点数下げるわけじゃないんだけど、「これはなんだ?」っていう、また田中さんへの興味が。
- 田中
- それ、1回は投げないとだめですね、ああいう球をね、やっぱり(笑)。
- 糸井
- あと、今だから言える秘密がぼくらの間に1つあって。
「お花見問題」。
- 田中
- はい。あれは大問題ですね。
- 糸井
- 田中さんがおられた電通関西支社部署は、よく言えば、梁山泊(りょうざんぱく)みたいな所なんです。
- 田中
- 堀井さん*っていう親玉が40年ほど前に現れて、カッコいい広告に対して、関西のノリでカウンターパンチを食らわせようとする人達が集まっていって、なぜかそこに、糸井さんがつながって(笑)、久しぶりの再会がそのお花見だったんですよね。
*堀井博次さん・大阪電通の名物CMディレクター
- 糸井
- 電通のチームにセットで会うのは、ぼくは生まれて初めてで。
- 田中
- あの30何人大集団に。
- 糸井
- そこで、若手として存在している田中さんの案内で、そのお花見に行くっていう日があったんです。その時に田中さんとはじめてお会いしたんですよね。
- 田中
- はい。
- 糸井
- ツイッターのメッセージで、待ち合わせのやりとりをして、「どうもどうも」って言って会ったわけです。そしたら、その時も紙袋下げてるわけです(笑)、複数の。で、1つの紙袋は、大きなつづらみたいになってて、
- 田中
- (笑)
- 糸井
- 「荷物になりますから、糸井さんにお渡しするものなんですけれども、つまらないものですが、これはそのままぼくが帰りまで持っています」って。
渡さないっていうのにもちょっと知恵を使っているわけです。もう1つ、重いものを持っているんです。それは、一升瓶なんですね。「あの梁山泊の方々は、とにかく酒さえあれば機嫌がいいので、これは糸井さんからの差し入れだっていうことで、申し訳ないですけど、勝手に用意させていただいたんで、お渡しする時だけ持っていただけませんか」っていう(笑)。
- 田中
- そのお酒っていうのは、一応大阪のデパートで、開けると、のしに大きい筆文字で、「糸井」って書いてあるんですよね。
- 糸井
- もうすでに(笑)。
なんていうの、いいんだけど、騙されてるような気がする(笑)。
- 田中
- この小賢しさっていうね(笑)。
- 糸井
- その念の入り方があんまりなんで、もう笑うしかなくて(笑)。言っちゃったほうがいいのか、言わないほうがいいのか、その加減もわかんないんです。
まぁここは田中泰延に任せておこうと思って、言われた通りにしました。
ぼくは芝居ができない人間なんで(笑)、「これ」って言って渡したら、案の定、歓声が湧くんですよ。
- 田中
- 糸井さんをお連れするから、特別ゲストだから、みんながすでにちょっとのんでいる所にお連れしたんですよね。みんなが、「わぁ、糸井さん来た」って言ったら、事前「ここは糸井さんからって言ってくださいね」って小声で言ってるから、糸井さんすごい小さい声で「これ、ぼくが」って、おっしゃるんです(笑)。すごい後ろめたそうに出すんです。そしたら、みんな酔っぱらいだから、「ワーッ!」って、その包みの紙をグシャグシャって取ると、「糸井」って書いてあって、お酒が出てくるからみんな、「ウワァーッ!」って(笑)。
- 糸井
- すごいんだよ。
- 田中
- その喜び方の浅ましさ(笑)。
- 糸井
- ガソリンを焚火に投入したみたいに(笑)。
あれ、東京の集いでやったら、「あぁ」って言ってお終いですよきっと。これだったら、持ってきたほうがいいんだなぁって思いました。
- 田中
- 「酒あるぞ!」って、全員一斉に注いで、一気に飲んでましたね。あれはすごかった。
あの時堀井さんが、「田中、お前、うちの20何年いて、何もせぇへんやつかと思ったけど、糸井さんを連れて来たな」って。
- 糸井
- (笑)
- 田中
- あれはひどかった(笑)。
- 糸井
- 田中泰延っていう人がこのチームの中でどういう存在なのかがまったくわからないんですよ。つまり、誰もわかんないチームだね、あれは。
(つづきます)