- 糸井
- ようこそいらっしゃいました。
田中さん、放っておいても1人で喋ってくれますから
なにも聞かなくていいんじゃないですかね(笑)。
- 田中
- そんな、漫談師じゃないんですから(笑)。
- 糸井
- 僕が田中さんを最初に、
ものを書く人っていうふうに認識したのは、
東京コピーライターズクラブのサイトからで。
- 田中
- リレーコラムですね。
- 糸井
- そのリレーコラムを、
誰かがちょっと紹介してたんですよ。
で、その紹介の仕方がハンパだったんだけど、
どう言ったらいいんでしょうかね‥‥。
読み始めたらおもしろくて。
「誰が書いたの、これ?」って思ったのが、
2年くらい前かなぁ。
- 田中
- たぶんそうですね。
- 糸井
- それまで、「田中泰延」名義で、
なにかを書くことはなかったんですか?
- 田中
- 一切なかったんです。
僕たちコピーライターって、
キャッチコピー20文字程度、
ボディコピー200文字とかを考える仕事で。
それ以上長いものを書いたということが、
それまでなかったですから。
- 糸井
- そうなの(笑)。
- 田中
- それまでに一番長かった文章は、
大学の卒業論文でした。
- 糸井
- ちなみに、
それはどんな研究だったんですか?
- 田中
- 芥川龍之介の『羅生門』の小説だけで、
200枚くらい書きました。
もう、いろんな人のね、丸写し。
- 糸井
- ほぉ。
- 田中
- その時の担当教授にそれを見せたら、
「とりあえず卒業させてあげますけど、
私は評価できません」って言われたんですよ。
小説のなかで、
「きりぎりすが泣いている」っていう
一行があるんですね。
「じゃあ、これはなんていう種類のきりぎりすが、
1100年代くらいの京都にはいるか」とか、
まったく無関係なことをたくさん書いたんですね。
だから、その時から多少変だったんでしょうね。
- 糸井
- あぁ‥‥(笑)。
僕らが「石田三成研究」で味わうようなことを、
大学の先生が味わったわけですね(笑)。
それしか書いてないんですか?
ラブのレターとかは?
- 田中
- いやぁ、苦手で。
その後、なにか書くっていったら、
2010年にツイッターに出会ってからですね。
- 糸井
- 広告の仕事をしている時は、本当に広告人だったんですか?
- 田中
- マジメな、ものすごくマジメな、広告人。
- 糸井
- (笑)
- 田中
- ツイッターができた時には
「なにか文字を書く、
これを打った瞬間、活字になって、
人にばらまかれる」
っていうことに関して、
俺は飢えていたっていう感覚はありましたね。
- 糸井
- 友達同士での、こう、メールのやりとりとか、
そういう遊びもしてないんですか?
- 田中
- あんまりしてなかったですね。
- 糸井
- それじゃ、すごい溜まり方ですね。
その‥‥「性欲」がね(笑)。
- 田中
- もうすごいんですね、
溜めに溜まったなにかが(笑)。
- 糸井
- 彼のコラムは800字のうち600字くらいは、
どうでもいいことだけが書いてある文章なんですけどね。
おもしろかったんですよ。そのコラムが。
- 田中
- ありがとうございます。
- 糸井
- 僕、これを書いた子は27、8歳の若い人だと思っていて、
もっと書かないかなぁって。
いつ頃だろう、
27、8歳じゃないってわかったのは(笑)。
- 田中
- 46、7歳の
オッサンだったという‥‥(笑)。
- 糸井
- 20歳も開きがある(笑)。
映画の評論を始められたのは、
リレーコラムの次ですか?
- 田中
- そうです。
辞めた職場の後輩が、大坂まで僕を訪ねてきて、
ホテルのレストランに連れて行かれたんです。
そこで、すごくいい食事を食べたところで
「食べましたね、食べましたね。
つきましてはお願いがあります」と言われまして。
彼はリレーコラムと、僕がツイッターで
「昨日見た映画、ここがおもしろかった」って、
2、3行書いていたものを見ていて、
「うちで連載してください」とお願いしにきたんです。
- 糸井
- はあ。
- 田中
- 「分量はどれくらいでいいですか?」
って聞いたら、
「2、3行でいいです」と言うわけ。
- 糸井
- (笑)
- 田中
- 「いいの?2、3行で?」
「そうです」って言うから、映画を観て、次の週に、
とりあえず7,000字書いて送りました。
- 糸井
- 2、3行のはずが(笑)。
- 田中
- 2、3行のはずが、
7,000字になってたんですよね。
- 糸井
- 7,000字、多いですね。
- 田中
- 多いですねぇ(笑)。
- 糸井
- 最初の映画評はなんだったんですか?
- 田中
- 『フォックスキャッチャー』っていう、
わりと地味な映画なんですけど。
それを観て、2、3行書くつもりだったんですよ。
そうしたら、初めて、勝手に無駄話が止まらないっていう
経験をしたんですよね。
- 糸井
- あぁ。
- 田中
- キーボードに向かって、
「俺はなにをやっているんだ、眠いのに」って。
- 糸井
- それは、うれしさ?
- 田中
- なんでしょう?
「これを明日ネットで流せば、
絶対笑うやつがいるだろう」って想像すると、
ちょっと取り憑かれたようになったんですよね。
- 糸井
- あぁ。
こう、大道芸人の喜びみたいな感じですねぇ。
- 田中
- あぁ、そうですね。
- 糸井
- はぁ。
でも、もし雑誌のメディアとかだったら、
そんな急に7,000字って、まずはないですよね。
- 田中
- はい。
- 糸井
- 頼んだほうも頼んだほうだし。
メディアもインターネットだったし、
本当にそこの幸運はすごいですねぇ。
- 田中
- その後、雑誌に寄稿する話もあったんですけど、
雑誌は、反響がないので。
つまり、印刷されてから僕に直接、
「おもしろかった」「読んだよ」といった反応がないので。
印刷されて本屋に置いてあっても、
ピンと来ないんですよね。
- 糸井
- はぁ、インターネットネイティブの発想ですね。
若くないのに、そのね(笑)。
- 田中
- 45歳にして(笑)。
- 糸井
- はぁ、おもしろい。
そんなの、すごいことですね。
だって、酸いも甘いも、40いくつだから、
一応知らないわけじゃないのに。
- 田中
- すごくシャイな少年みたいに、
ネットの世界に入った感じですね。
(つづきます)