「♪どぶねずみみたいに美しくなりたい」
(ブルーハーツ『リンダ リンダ』が流れる)
- 糸井
- ‥‥あれ?来ないね(笑)
「♪写真には写らない 美しさがあるから」
「♪リンダリンダ!」
- 田中
- (踊りながら登場)
- 一同
- (爆笑)
- 糸井
- 今日は時間を指定されてるんだけど、
田中さんの人生を1時間で語れるかな(笑)
しかも、電通を辞めた今、話題はピークだよ。
- 田中
- よろしくお願いします。
- 糸井
- 放っておいたら、
この人、1人でやってくれるから(笑)
- 田中
- いや、そんな、漫談師じゃないんですから。
- 田中
- むかし、初めて糸井さんと、京都でお会いした時に、
タクシーの中で、僕は最初に質問したことがあったんですよね。
- 糸井
- あぁ。
- 田中
- 「ほぼ日という組織をつくられて、
その会社を回して、大きくしていって、
その中で好きなものを毎日書くっていう、
この状態にすごい興味があります」って。
- 糸井
- うん、うん。
- 田中
- って言ったら、糸井さんが、
「そこですか」っておっしゃったんですよ。
それが忘れられなくて。
- 糸井
- だって、電通の人だと思ってるから。
辞めると思ってないから。
- 田中
- そうですよね。
- 糸井
- それは、「そこですか」ですよ。
「あれ?電通の人なのに、そんなこと興味あるのか」って、
びっくりしたんですね。
- 田中
- その時は僕も、辞めるとはまったく思ってなくて。
- 糸井
- 辞めようと決めたのは?
- 田中
- 去年の4月です。
この間、燃え殻さんとか永田さんとか古賀さんと、
みんなで雑談したじゃないですか。
- 糸井
- うん、去年の9月。
- 田中
- あの時点でまったく辞めると思ってなかったですから。
辞めようと思ったのが、
11月の末ですね。
- 糸井
- (笑)
- 田中
- で、辞めたのが12月31日なんで、
それから1ヶ月しかなかったです。
- 糸井
- あぁ、素晴らしいね。
11月末に何かあったんですか?
- 田中
- いや、これが本当に、
理由になってないような理由なんですけど。
- 糸井
- ブルーハーツ?
- 田中
- はい。
50手前のオッサンになっても、
中身は20うん歳のつもりだから、
ブルーハーツの「リンダリンダ」を聞いた時のことが、
こう、思い出されて。
「あ。これは、このように生きなくちゃいけないな」って。
かと言って
「熱い俺のメッセージを聞け!」とかではないんですよ。
それでも、
「ここを出なくちゃいけないな」って思ったんですよね。
- 糸井
- あぁ。
どうしてもやりたくないことっていうのが、
世の中にはあって。
そこを僕は本当に捨ててきた。
でも、どうしてもやりたくないことの中に、
案外、人は人生費やしちゃうんですよ。
- 田中
- はい。
- 糸井
- で、僕は、何かやりたいというよりは、
やりたくない気持ちの方が強くて。
だから、マッチもライターもないから、
木切れで火を起こしはじめた、
みたいなことの連続だったと思うんです。
ずっとやってきた広告も、
段々と、どうしてもやりたくないことに似てきたんですよね。
- 田中
- はい。
- 糸井
- で、「これ、いや、まずいなぁ」って。
どうしてもやりたくないことに近い。
魂が、過剰にないがしろにされる可能性、というか。
うーん‥‥。
- 田中
- はい、はい。
- 糸井
- そういうのは嫌ですよね。
- 田中
- とはいえ、
糸井さんの、以前の広告のお仕事見てても、
「この商品の良さを延々語りなさい」とか、
最初から、そういうリクエストに、応えたことはないですよね。
- 糸井
- うん、うん。
- 田中
- それは?
- 糸井
- 何なんだろう、
「受け手として僕にはこう見えた、これはいいぞ」って、
思いつくまで、僕は書けないわけで。
だから、車の広告するごとに1台買ったりする、
結構金のかかるコピーライターで。
- 田中
- あぁ。
- 糸井
- それはおまじないでもあるんだけど、
本当に「いいぞ」って思えるまでが、
ちょっと大変っていうか、
お酒の広告だったら、
僕は飲めないけど、その分どうやって取り返そうか?
みたいなところはありましたし。
どこかで”受け手である”っていうことに、
ものすごく誠実にやってきたつもりではいるんです。
- 田中
- はい、はい。
- 糸井
- このまま「あいつ、もうだめですよね」って言われながら、
なんでやっていかなきゃならないんだろう?
っていうふうに、いつかなるんだろうなと。
僕について、
「あいつもうだめですよね」って、
みんなが言いたくてしょうがないわけですよ。
あと経験上、
プレゼンの勝率が落ちたら、
「もうだめだな」っていうのは思ってて。
そうすると、「ご注進、ご注進」みたいに、
「みんな『糸井さんは広告から逃げた』とか言ってますよ!」
みたいなことを告げに来る、よくわからない人とかいますから。
- 田中
- はいはい。
- 糸井
- だから「こういう時代にそこにいるのはまずいな」っていうか、
「絶対嫌だ」と思って。
田中さんの”ブルーハーツ”に当たるのが、
僕にとって”釣り”だったんですよね。
ずっと釣りしたかったんです。
そこでは誰もが平等に、争いごとをするわけですよね。
コンペティション。
- 田中
- コンペティション。
- 糸井
- で、その中で勝ったり負けたり、
っていうところで血が沸くんですよ、やっぱりね。
- 田中
- このあいだ聞いた話は、おかしかった。
「始めた頃は、ちょっとした水たまりを見ても、
魚がいるんじゃないか」って(笑)
- 糸井
- そう。
- 田中
- そう見えるんですね(笑)
- 糸井
- レインボーブリッジの下に、コソコソっと行って、
身をかがめながら埠頭に出て、
で、そこでルアーを投げると、
シーバスが釣れる可能性があると。
本当に初めて行った真冬の日に、
大きい魚に逃げられたんですよ。
うちの奥さんは、俺が出掛けるっていう時に、
「ご苦労様」とか、ちょっとなめたことを言いながら…
- 田中
- (笑)
- 糸井
- 帰って来たら、バスタブに水が張ってあったんですよ。
- 田中
- はぁ。
- 糸井
- つまり、
僕が生きた魚を釣ってきた時に、
そこに入れようと思ったんだね。
- 田中
- すごい!
- 糸井
- すごいでしょう?
その、馬鹿にし方と、実際にこう水を貯めてね。
- 田中
- ここに!ここに待ってる(笑)。
- 糸井
- そう、
そのアンバランスさっていうのが俺んちで。
「あれは明らかに魚が追いかけてきた」って思ったのと、
「釣ってきた時にはここで見よう」って思ってた人がいた。
つまり、釣った喜びじゃなくて、「見たい」っていう気持ち。
で、それは夢そのものじゃないですか。
僕の中に、
ウワァーッと、熱い気持ちが湧くわけですよ。
- 田中
- うんうん。
- 糸井
- みんなで、
真冬に徹夜で芦ノ湖とか行くっていうのは、
馬鹿馬鹿しいおもしろさがあるんです。
翌年になってすぐに、
奥田民生君たちと、今度は北浦に行くんですよ。
- 田中
- 北浦に。
- 糸井
- で、そこで真冬に、バスが釣れるんですよ。
- 田中
- はぁ。
- 糸井
- 奇跡みたいなもんで、
「いるんだ」っていうのと、
普段見えていない生き物が、
ものすごい荒々しさで、
竿の向こうでひったくりやがるわけです。
その実感がもう、僕をワイルドにしちゃったんですよ。
その後、プロ野球のキャンプにまた行く。
野球もまた、僕をワイルドにするものなんですけど、
向かうまでの道のりに何回も水が見えて、
野球を観に行くはずなのに、水を見てるんです。
- 田中
- 水を見てる(笑)。
- 糸井
- 折りたたみにできる竿とかを、
野球のキャンプの見物に行くのに、持っているんです。
- 田中
- 持ってるんですね(笑)
- 田中
- (笑)なんか釣れましたか、その時は?
- 糸井
- まったく釣れません。
- 田中
- (笑)
- 糸井
- 根拠のない釣りですから。
- 田中
- (笑)
- 糸井
- でも、根拠がなくても水があるんですよ。
いいでしょう?
僕にとってのインターネットって、水なんですよ。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
- 今、初めて説明できたわ!!
根拠はなくても水があるんです。
- 田中
- 根拠はなくても水がある。
- 糸井
- 水があれば、水たまりでも魚はいるんですね。
で、それが自分に火を点けたところがある。
だから、僕の「リンダリンダ」は、水と魚です(笑)。
- 田中
- 水と魚。なるほど。
その話が、まさかインターネットにつながるとは。
- 糸井
- 思いついてなかったですね~。
- 田中
- あぁ。でも、
言われてみたら、きっとそういうことですよね。
- 糸井
- 広告を辞めるとかっていう、
「ここから逃げ出したいな」っていう気持ちと同時に、
「水さえあれば、魚がいる」っていうような、
期待する気持ちに、肉体が釣りでつなげたんでしょうね。
- 田中
- なるほど。はぁ。素敵なお話ですね。
- 糸井
- でも、大勢の人たちに、
わかってもらえるかどうかは、難しいねぇ。
- 田中
- でも、今僕思ったのは、
やっぱり肉体の重要性、すごい大事だなと思って。
- 糸井
- 以前、すごい釣りのうまい人に向かって、
「1匹も釣れなかった経験っていうのはないんですか?」
って、僕が聞いたわけですね。
もうそこから逃げ出したいわけですから、必死で。
- 田中
- うんうんうん。
- 糸井
- その時に、
「基本的に坊主って、ないんじゃないでしょうか」
って言われたんですよ。
「釣りがある程度わかっていれば、
基本的に坊主っていうのはないんじゃないでしょうか」って、
他人事にように。
「えぇ?魔法じゃなくて、科学だったんですか」
っていうお話になるわけだから。
嬉しいじゃないですか。
インターネットでも、同じように思いますよね。
- 田中
- なるほど。
(つづきます)