(ザブルーハーツの「リンダリンダ」が流れている。)
どぶねずみみたいに美しくなりたい―
写真には写らない美しさがあるから―
- 糸井
- 間が悪いなぁ‥‥。
- 一同
- (笑)
リンダリンダ!リンダリンダリンダ-!
(田中さんが踊りながら入ってくる。)
- 糸井
- あーよかった(笑)。
- 田中
- どうも、どうも。
あのー、つまらないものですが、
モンドセレクションを、
2年連続受賞した、
大阪キャラメルプリンケーキです。
- 糸井
- いつもありがとうございます。
僕、田中さんのことを「手土産研究家の田中さん」
と認識していまして。
もともと、営業畑の人だったんですか。
- 田中
- まったくやったことないです。
自分が貰うとうれしかったので。
あと、家族が喜びます。
- 糸井
- おお。
家族って言葉が田中さんの口から出てきたのは、
ちょっと珍しいですね。
- 田中
- 珍しいですか。
- 糸井
- 無職になってからですよね。
- 田中
- あー、そうですね。
- 糸井
- 僕も手土産好きな人間だったですよ。
手土産の考え方は、土屋耕一さんからでした。
- 田中
- コピーライターの。
- 糸井
- 同業の神みたいな人です。
土屋さんが資生堂にアルバイトでいたとき、
「これから一杯やるからなんか買って来い」
と言われると、気が利くものを買ってくる、
「だから俺は社員になったんだよ」と。
- 田中
- なるほど。
僕だと「つまんないものですが」にあたりますかね。
- 糸井
- 田中さんは、その「つまんない」のハードルを
ものすごく下げてきますよね。
- 田中
- ああ、そうですね。
大阪のお土産ってだいたいネーミングが
くだらないですから。
それだけで、コミュニケーションツールになるんですよ。
- 糸井
- そうですよねぇ。
‥‥でも、この前の目黒の揚げ煎餅と揚げ饅頭のセット、
あれが混じったことで、
僕の田中さん像がちょっとずれちゃいまして。
「これ、うまいじゃん」って(笑)。
- 田中
- あれは、塩野(米松)さんがいらっしゃたからです。
- 糸井
- はい。
- 田中
- 東北から来られて、いきなり
「なんじゃ、これは」となってしまいますから。
- 糸井
- 使い分けているんですよね。
「これは何?」っていう、
田中さんへの興味がまた湧いてくる。
- 田中
- ああいう球は、1回は投げないとです。
- 糸井
- ‥‥あと、今だから言える秘密が、
僕らにはあってね。
お花見問題。あれ、言っていいですか。
- 田中
- どうぞ、どうぞ。
- 糸井
- 客席に向かわないと、しゃべりにくいんですけど‥‥
田中さんがいた電通関西支社の部署は、
よく言えば、梁山泊みたいな所なんですよ。
- 田中
- はぐれものの集りです。
40年ぐらい前に、堀井(博次)さんっていう親玉が、
関西のノリで、東京のカッコいい広告に、
カウンターパンチを食らわせよう、と。
おかしな人たちが集まってたんですよ。
- 糸井
- 圧の強い人たちですよね。
その人たちとのお花見に、田中さんの案内で行きまして。
田中さんとは、その時が初対面でした。
- 田中
- そうです、そうです。
- 糸井
- で、その時も何個か紙袋持っているんですよ。
その1つが重くて、
「糸井さんからの差し入れということで、
お渡しする時だけ持っていただけませんか」。
中に一升瓶が入っているんです。
この人、何十年営業畑にいたんだろう?
と思いましたよ。
- 田中
- 大阪のデパートで買ってきました。
のしに大きい筆文字で、「糸井」と。
- 糸井
- そうそう(笑)。
- 田中
- 小賢しいんです。
- 糸井
- 田中泰延に言われた通り、
「これ」って梁山泊の人々に渡したら、
案の定、湧くんですよ。
- 田中
- みんなが座って飲んでいる所に、糸井さんをお連れして、
「わぁ、糸井さんだ」ってなるじゃないですか。
そしたら、糸井さんがすごい小さい声で、
「あの、これ、僕が‥‥」(笑)。
- 糸井
- 芝居ができないんですよ。
- 田中
- なんかもぅ、後ろめたそうに出したら、
「ワーッ!」って、
包み紙をグシャグシャーって取って、
「糸井」ってお酒が出てくるから、
「ウワァーッ!!」
- 糸井
- ガソリンを焚火に入れたみたいに(笑)。
- 田中
- 瞬時に開けて、全員一斉に注いで、
一気に飲んでましたねー。
- 糸井
- そう。でもね、あの人たちは馬鹿じゃないんですよ。
そこがいやらしいところで(笑)。
馬鹿じゃないと馬鹿が同一平面にあるんですよ。
- 田中
- なんでしょうね、あの人たちは。
あの日、堀井さんが、
「田中ぁ、お前うちに20何年いて、
何もせぇへんやつかと思ったけど、
糸井を連れて来たな」って(笑)。
- 糸井
- 田中泰延っていう人が、
あの人たちの中で、どういう存在なのかが
まったくわからないです。
- 田中
- とりあえず、呼び方は「ヒロ君」です。
- 糸井
- ヒロ君。
27歳くらいの呼ばれ方ですね。
- 田中
- もう、ずっとですよ。
自動車会社の社長や重役が、20何人並ぶプレゼンの時も、
「では、えぇ、具体的なCMの企画案については、
ヒロ君のほうから」。
社長が秘書に、「ヒロ君って誰だ?」。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- そこについては、僕もそうでした。
嫌じゃなかったんですよね。
- 田中
- ええ、もう、居心地よすぎました。
24年いましたから。
(つづきます)