もくじ
第1回つまんないものです、の意味。 2017-03-28-Tue
第2回誰かに相談したの、それは? 2017-03-28-Tue
第3回グルッと回って人気者。 2017-03-28-Tue
第4回「寝る前にちょっと」の人たち。 2017-03-28-Tue
第5回根拠はなくても水があるんです。 2017-03-28-Tue

ここ3年ほど、毎日飽きずにバタートーストに魅了されています。日本に住んで3年、どうやらそのことに関係があるらしい。ロサンゼルスから来ました。よろしくお願いします。

今、話題はピークだよ。

今、話題はピークだよ。

糸井重里さんと田中泰延さんが、
「ほぼ日の塾」の課題のために2時間も語ってくれました。

糸井さんが「今、話題はピーク」と呼ぶひと。
24年近く勤めた会社を辞めてまだ2ヶ月とすこし。
THE BLUE HEARTSの「リンダリンダ」が鳴り響く中、
踊りながら部屋に入ってきました。

ワイルドな手土産からワイルドな釣りの話まで、
どこを取っても「表現」と「コミュニケーション」のヒントだらけです。

書くとは。
探すとは。
話すとは。

このタイミングだからこそ。
名スピーカーふたりの止まることのない話を
最後までお楽しみください。

途中、糸井さんが人生で2度しか経験のない出来事が起きます。

プロフィール
田中泰延さんのプロフィール

第1回 つまんないものです、の意味。

田中
今日はモンドセレクションを…。
糸井
いつもありがとうございます。
ミスター手土産。
 
今日もいくつかの紙袋を持ってて、
「手土産研究家の田中さん」というふうに
僕は認識しています。
田中
いつそんなことになったんでしょうか(笑)。
糸井
どうしてそんなに手土産を?
営業をやってらっしゃったんですか?
田中
いやいや、まったくやったことないですけど、
やっぱり貰うとうれしいという経験が大きくて。
…まぁ、自分が持ってくるものは
だいたいつまんないんですけど。
糸井
田中さんが「つまんないものです」
と言った後に、僕はだいたい「うん」と言って(笑)。
田中
はい(笑)。
でも「つまんないものです」というのは
すごくいいコミュニケーションで、
昔、田村正和さんに、
喜んでもらえるだろうと思いつつ、
テレビドラマの中で乗ってた車のミニカーを
「つまんないものですけど」と言ったら、
田村さんが表と裏を見て
「本当につまらないね」って、
あの口調で(笑)。
糸井
ははは。
田中
そう言いながらも、鞄にしまっていたんですよ、
楽屋に置いていかないで。
すごくいいなぁと思って。
糸井
「つまんない」の、
そのハードルをものすごく下げた状態で
田中さんは選んでこられますよね。
駅で買えそうな、
でも駅とも限らないみたいなところがあって。
田中
まぁ新幹線に乗る直前に買うんですけど(笑)、
大阪にまつわる手土産自体の
ネーミングがだいたいくだらなくて、
中身のおいしさとか
まったく問われない、というところで…
糸井
うんうん(笑)。
田中
一応、コミュニケーションツールになる。
糸井
なってますよね。
「これはなんだ?」という、
田中さんへの興味が。
 
今だから言える秘密が
僕らの間に1つあって…
お花見問題。
田中
はい。大問題ですね(笑)。
糸井
これは客席に向かって言わないとしゃべりにくいんです。
ご本人のお手柄じみたことを言うんで。
この方がおられた、大阪の関西電通?
田中
はい、電通関西支社。
糸井
この方がおられた部署は、
よく言えば、梁山泊みたいな所なんです。

田中
はぐれものの集りで、
堀井さん(:堀井博次)という親玉が
40年ほど前に現れて、
東京の秋山晶さんとか、
土屋耕一さんが作っている
カッコいい広告に対して、
とにかくカウンターパンチを食らわせようと、
京都や大阪の関西のノリで。
で、どんどん人が集まっていって、
本当に梁山泊みたいな集団になってしまって、
なぜかそこに、糸井さんがつながって(笑)、
久しぶりの再会が
そのお花見だったんですよね。
糸井
関西のチームに会うのは、
僕は生まれて初めてで。
田中
あの30何人の大集団に。
糸井
圧の強い人たちが集まっているわけで(笑)。
田中
はい。
糸井
そこに、若手として存在している田中さんの案内で、
「あ、俺、行く行く」ってなったんです。
その時、田中さんと僕は初対面なんですね。
田中
はい。
糸井
ツイッターで待ち合わせ場所とか交換して、
「やぁやぁやぁ、どうもどうも」と会ったわけですね。
その時も紙袋下げてるわけです(笑)、
複数の。
1つの紙袋は、大きなつづらみたいになってて、
田中
(笑)
糸井
軽くて大きいんです。
後で渡したのかな、僕に。
田中
はい。
糸井
「荷物になりますから、
糸井さんにお渡しするものなんですけれども、
つまらないものですが(笑)、
これはそのまま僕が帰りまで持っています」って。
渡さないっていうのにも
ちょっと知恵を使っているわけです。
 
で、もう1つ、重いものを持っているんです。
それは、一升瓶なんですね。
「あの梁山泊の方々は、
とにかく酒さえあれば機嫌がいいので、
糸井さんからの差し入れということで、
申し訳ないですけど、
勝手に用意させていただいたんで、
お渡しする時だけ持っていただけませんか」と。
何その、歌舞伎のプロンプターみたいな(笑)。

田中
そのお酒っていうのは、
一応大阪のデパートで、
開けるとのしに大きい筆文字で、
「糸井」って書いてあるんですよね。
糸井
もうすでに(笑)。
いいんだけど。
騙されてるような気がする(笑)。
田中
この小賢しさっていうね(笑)。
糸井
その念の入り方があんまりなんで、
もう笑うしかなくて(笑)、
ただその梁山泊のみなさんは、
人を疑うことにかけてもなかなか手練れだし、
言っちゃったほうがいいのか、
言わないほうがいいのか、
その加減もわかんないんです、とにかく。
田中
はい。
糸井
で、まぁここは田中泰延に
任せておこうと思って、
言われた通りに、
僕は芝居ができない人間なんで(笑)
「これ」って渡したら、
案の定湧くんですよ。
田中
すでにちょっと飲んでいる所に
お連れしたんですよね。
「わぁ、糸井さん来た」となって。
僕、事前に糸井さんに、
(小声で)
「ここは糸井さんからって言ってくださいね」
と言ってるから、
糸井さん、すごい小さい声で、
「あのぅ、これ、僕が」って、
すごい小さい声でおっしゃるんですが(笑)。
糸井
ろくろ小さいんですよ(笑)。
田中
なんか後ろめたそうに出すから。
そうしたら、みんなが「ワーッ!」って、
包みの紙をグシャグシャって取ると、
「糸井」って書いてあって、
お酒が出てくるから「ウワァーッ!」って(笑)。

糸井
すごいんだよ。
田中
その喜び方の浅ましさ(笑)。
糸井
ガソリンを焚火に投入したみたいに。
これだったら、
持ってきたほうがいいんだなぁって。
田中
糸井コールが起きるんじゃないかくらいの。
全員一斉に注いで、
一気に飲んでましたね。
糸井
そう。で、そのメンバーは馬鹿じゃないんです。
一同
(笑)
糸井
そこがいやらしいところで(笑)。
田中
なんでしょうね、あの人たちは。
糸井
「なんでしょう」なんですよ。
芝居のようでしたね、あの場所はね。
田中
あれはすごかった。
糸井
田中泰延っていう人が
チームの中でどういう存在なのかが
まったくわからないんですよ。
田中
とりあえず、
呼び方は「ヒロ君」なんですよ。
糸井
ヒロ君なんですよね。
つまり、27歳くらいの呼ばれ方ですよね。
田中
入って以来ずっとヒロ君なんですよね。
ひどかったのがあるとき、
大きい自動車会社の社長とか重役とか、
バーッと20何人並ぶプレゼンがあって、
「では、えぇ、具体的なCMの企画案については、
ヒロ君のほうから」と。
一同
(笑)
田中
向こうはザワザワって、
「ヒロ君って誰だ?」、
社長が秘書に、
「ヒロ君って誰だ?」(笑)。

一同
(笑)
糸井
(笑)
そこで育った「僕」ですが、
嫌じゃなかったんですよね?
田中
いや、もうそれは居心地よすぎて。
糸井
居心地いいね。20何年?
田中
4年、24年。
糸井
相当長いですよね。
田中さんを、何かを書く人という
僕は認識なかったですけど、
東京コピーライターズクラブの
リレーエッセイみたいなページを…
田中
リレーコラム、はい。
糸井
思えば僕もコピーライターで、
コピーライターズクラブの人間だったんで、
「今はこんなことやってるのか」って
読み始めたらおもしろくて、
「誰これ?」と思ったのが、
せいぜい2年くらい前で。
田中
たぶんそうですね。
2015年の4月くらいに書きました、
そのコラムは。
糸井
それまでは田中泰延名義で
何かを書くことはなかったんですか?
田中
一切なかったんです。
キャッチコピー20文字程度とか、
ボディコピー200文字とか…。
それまで一番長かったのが、
大学の卒論で、
原稿用紙200枚くらい…。
人の本の丸写しですから、
書いたうちに入らないですね。
切ったり貼ったりして。
糸井
いわゆる「博覧強記」というジャンルに
入りそうなものを書いたんですね。
田中
まぁ、とんでもない所から
切ったり貼ったりしよう
という意識はあったんですよ。
糸井
あぁ。
田中
芥川龍之介の1行、
「きりぎりすが泣いている」に関しては、
「なんという種類のきりぎりすが
1100年代くらいの京都にはいるか」とか、
まったく無関係なことを
たくさん書いたんですね。
糸井
あぁ。
田中
今もちょっと近いかもしれない。
糸井
それしか書いてないんですか?
田中
それしか書いてない。
糸井
ラブのレターとか?
田中
まったくもう苦手で、
その後、書くと言ったら、
2010年にツイッターに出会ってからですね。
140文字までしか書けないので
広告のコピー書いてる身としては
楽だ、ということで始めたんです。
糸井
ちょうどいいんですよね。
田中
はい。
糸井
じゃあ、広告の仕事をしてる時は、
本当に広告人だったんですか?
田中
もう真面目な、ものすごく真面目な、
これ、録音して伝わるかわかりませんけど。
一同
(笑)
田中
ものすごく真面目な広告人。

糸井
へぇ。
で、コピーライターとして
文字を書く仕事と
プランナーもやってたんですね。
田中
書くと言っても実質20年くらい、
テレビCMの企画ばかり。
だから、ツイッターに文字を打った瞬間、
活字みたいなものになって
人にばらまかれるということに関しては、
「飢えてた」感覚はありました。
糸井
あぁ。
友達同士でのメールのやりとりとか、
そういう遊びもしてないんですか?
田中
あんまりしてなかったですね。
糸井
すごい溜まり方ですね、その。
田中
溜まってましたね。
糸井
性欲の(笑)。
田中
もうすごいんですね。
溜めに溜まった何かが(笑)。

(つづきます)

第2回 誰かに相談したの、それは?