- 糸井
- 電通では、20何年働いたんですか?
- 田中
- 24年ですね。
- 糸井
- 相当長いですよね。で、実際に仕事もたくさんして。
広告の仕事をしている時は、本当に広告人だったんですか?
- 田中
- もう真面目な、ものすごく真面目な、
伝わるかわかりませんけど、ものすごく真面目な広告人。
- 糸井
- (笑)
それは、コピーライターとして
文字を書く仕事とプランナーもやっていたんですね。
- 田中
- はい、テレビコマーシャルを。
- 糸井
- 仕事の配分はどんな感じですか?
- 田中
- 僕がいた電通の関西支社は、
ポスター、新聞、雑誌などの仕事は
そこまで多いわけではなかったんですね。
だから、いわゆる文字を書く、コピーを書くという仕事を
ほとんどしてないんですよね。
実質20年くらい、
テレビCMの企画ばっかりやっていました。
もちろんテレビCMの最後には、
何かコピーっていうものが載りますけど。
- 糸井
- 「来てね」とかね(笑)。
- 田中
- そう、「当たります」とか(笑)。
だから、ツイッターができた時に、
文字を打った瞬間、活字になって、
人にばらまかれるってことに、
僕は飢えていたなと、当時感じました。
- 糸井
- 友達同士でのメールのやりとりとか、
そういう遊びもしてなかったんですか?
- 田中
- してなかったですね。
- 糸井
- ということは、筆下ろしは、
コピーライターズクラブのリレーコラム。
- 田中
- はい。
- 糸井
- 800字くらいで、
そのうちの中身にあたるものはほとんどなくて。
- 田中
- まったくないですね。
- 糸井
- 800字のうち600字くらいは、
どうでもいいことだけが書いてあるっていう文章。
それが、おもしろかったんですよ。
- 田中
- ありがとうございます。
- 糸井
- 僕が田中さんを「書く人」だと認識したのが、
東京コピーライターズクラブのリレーコラム。
誰かがちょっと紹介していたんですよ。
それで、読み始めたらおもしろくて、
「誰これ?」って思ったというのが、2年くらい前かな。
コラムを読んだ当時、僕は、
書いているのが27、8の若い人だと思っていたんです。
こういう子が出てくるんだなぁって(笑)、
- 田中
- (笑)
- 糸井
- 「この子が、もっと書かないかな」と思っていたんですね。
いつ頃だろう、27、8じゃないってわかったのは(笑)。
- 田中
- 46、7のオッサンだったっていう(笑)。
- 糸井
- 20歳の開きがある(笑)。
それまで、田中泰延名義で、
何かを書くことはなかったんですか?
- 田中
- 一切なかったんです。
キャッチコピー20文字程度、ボディコピー200文字とか。
- 糸井
- はいはい。
- 田中
- それまで一番長かったのが、大学の卒論かな。
現行用紙200枚くらい書いたんです。
まあ、人の本の丸写しですから、
書いたうち入らないですけど。
- 糸井
- ちなみに、それは何の研究なんですか?
- 田中
- 芥川龍之介の『羅生門』の小説で
200枚くらい書きました。
- 糸井
- ほぉ。
- 田中
- もういろんな人の、丸写し。
- 糸井
- 切ったり貼ったり?
- 田中
- 切ったり貼ったり、切ったり貼ったりして。
そして、その時に担当教授にそれを見せたら、
「これは、私は評価できません」と。
それで「荒俣宏先生の所にこれを送るから、
おもしろがってもらいなさい。
とりあえず卒業させてあげますけど、私は知りません」
と言われたんです。その時から変だったんでしょうね。
- 糸井
- いわゆる「博覧強記」というジャンルに
入りそうなものを書いたんですね。
- 田中
- そうですね。
その切ったり貼ったりを、
とんでもない所から切ったり貼ったりしようという
意識はあったんですよ。
「ここは、これにこうくっ付く」とか。
小説の中で、「きりぎりすが泣いている」っていう
1行があるんですけど、それに関して
「この1100年代くらいの京都には
なんていう種類のきりぎりすがいるのか」とか、
まったく無関係なことをたくさん書いたんですね。
- 糸井
- あぁ。
- 田中
- だから、今書いているものと、ちょっと近いかもしれない。
- 糸井
- のちに、僕らが
「石田三成研究(:秒速で1億円稼ぐ武将
石田三成 ~すぐわかる石田三成の 生涯~)」
で味わうようなことを、大学の先生が味わったわけですね。
それしか書いてないんですか?
- 田中
- それしか書いてない。
- 糸井
- ラブのレターとか?
- 田中
- まったくもう、苦手で。
その後、なんか書くって言ったら、
2010年にツイッターに出会ってからですね。
でも140文字までしか書けないので、
広告のコピーを書いている身としては、
「これは楽だな」ということで始めたんです。
- 糸井
- ちょうどいいんですよね、ツイッターって。
その次が、映画評みたいなものですか?
- 田中
- はい。
- 糸井
- 西島知宏さんっていう、電通にいた方ですね。
西島さんは、自分のクリエイティブブティック
みたいなものを起こされて。
先輩、後輩で言うと、田中さんが先輩?
- 田中
- はい、7、8年先輩なんです。
- 糸井
- あ、じゃあ、若手の人として付き合ってたんだ。
で、そいつへのはなむけ(贐)というか。
- 田中
- いや、彼も電通に一緒に在籍したのは知ってて、
辞めたのも知ってるんですけど、
なんの付き合いもなかったんですね。
- 糸井
- えっ?そうなんですか。
(つづきます)