- 糸井
- 今日もいつものように、紙袋に手土産が入ってて、
「手土産研究家の田中さん」って僕は認識しています。
どうしてあんなに手土産を?
営業やってらっしゃったんですか?
- 田中
- まったくやったことないですけど、やっぱり貰うと
うれしいっていう経験がすごく大きくて。
自分が持っていくものは、
だいたいつまんないんですけど。
- 糸井
- 田中さんも、「僕が持ってくるものは、だいたい
つまんないものです」って言うから、僕も、
「うん、つまんないね」って言って。
- 一同
- 笑
- 田中
- 「つまんないものです」って渡すのは、
すごく良いコミュニケーションで。
昔、田村正和さんに、ドラマで乗っていた
車のミニカーを、「つまんないものですけど」って
言って渡したら、田村さんがミニカーを見て、
「本当につまらないね」って、あの口調で(笑)。
でも、そう言いながら、鞄にしまってくれた
んですよ。だから、すごくいいなぁと思って。
- 糸井
- 「つまんない」の、ハードルをものすごく下げた
状態で、田中さんは選んでこられますよね。
- 田中
- だいたい、新幹線に乗る直前に買うんですけど(笑)、
大阪のいいところは、「面白い恋人」とか、お土産の
ネーミングがだいたいくだらないっていう。
それでいて、中身のおいしさをまったく問われない
ので、それ自体がコミュニケーションツールにもなる。
- 糸井
- つまんないからって言って点数下げるわけ
じゃないんだけど、「これはなんだ?」っていう、
田中さんへの興味がわきますね。
- 糸井
- 僕が田中さんを最初に知ったのは、コピーライターズ
クラブのリレーエッセイで、読み始めたらおもしろくて、
「誰これ?」って思ったのが、2年くらい前の話。
それまで、田中泰延名義で書くことはなかったんですか?
- 田中
- 一切なかったです。
20文字程度のキャッチコピーとか、ボディコピー
200文字とか、それ以上長いものを書いたとことが、
ないですから‥‥。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- 笑ってます(笑)。
広告の仕事をしてた時は、どんなことをされて
いたんですか?
- 田中
- ほとんどがテレビCMの仕事でした。
だから、ツイッターができた時には、文字を書いた
瞬間、人にばらまかれるっていうことに関しては、
飢えてたっていう感覚はありました。
- 糸井
- 東京コピーライターズクラブの、800字の記事が
最初ですか?800字のうち600字くらいは、どうでも
いいことだけが書いてあるっていう文章。
- 田中
- はい。今でも全然変わってないですね。
- 糸井
- ねぇ。で、おもしろかったんですよ。
- 田中
- ありがとうございます。
- 糸井
- ただ、27、8の若い人だと思っていて。
- 田中
- (笑)
- 糸井
- こういう子が出てくるんだなぁって(笑)、
もっと書かないかな、この子がって思って、
いつ頃だろう、27、8じゃないってわかったのは(笑)。
- 田中
- 46、7のオッサンだったっていう(笑)。
- 糸井
- その次が、映画評みたいなものですか?
- 田中
- はい。
電通の後輩で西島(:西島知宏)という人がいて、
ほとんど話したこともなかったんですが、
2015年の3月に突然大阪を訪ねて来られて。
「なんですか?」って言ったら、大阪のヒルトンホテルで、
すごくいい和食が用意してあって。一口食べたら、
「今、食べましたよね?」
「食べましたよ」
「つきましてはお願いがあります。うちで連載
してください」と。
「分量はどれくらいでいいですか?」って言ったら、
「2、3行でいいです」。
- 糸井
- (笑)
- 田中
- 映画観て、2、3行書くだけでいいって言うから、
次の週に、とりあえず7,000字書いて送りました。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- 2、3行が(笑)。
もし雑誌だったら、急に7,000字って、
まずないですよね。頼んだほうも頼んだほうだし、
メディアもインターネットだったし、本当に
そこの幸運はすごいですねぇ。
- 田中
- 「自由に文字書いて、必ず明日には誰かが見るんだ」
と思うと、うれしくなったんですよね。
- 糸井
- 新鮮ですねぇ。それはうれしいなぁ。
- 田中
- 糸井さんはそれを18年間、毎日
やってらっしゃるわけでしょう?
- 糸井
- うーん‥‥、でも、たとえば、松本人志さんがずっと
お笑いやっているのと同じことだから、
「大変ですね」って言われても、「大変?みんな
大変なんじゃない?」って(笑)。
あえて言えば、休まないって決めたことだけがコツ
なんで、なんでもないことですよね。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
- 田中さんは今その時期だと思うんですよね。
- 田中
- これが大して、食えないんですよ。これからの時代、
コンテンツ(文章)にお金を出して読もうっていう人が
どんどん減っているから、僕は全然儲かってないし、
何を書いても生活の足しにはならないので。
- 糸井
- ならない。
- 田中
- 前は大きい会社の社員で、夜中に仕事終わった後
書いてましたけど、今はそれを書いても生活の足しに
ならないから、じゃあ、どうするんだ?っていう
フェイズに入っています。
- 糸井
- イェーイ(笑)。
- 田中
- ただ、僕の中では、お金ではなく、「おもしろい」とか、
「この結論は納得した」とかっていう声が報酬になって
ますね。家族はたまったもんじゃないでしょうけどね、
それが報酬だと。
<つづきます>