- 糸井
- 今日も手土産を持ってきてくださって。
いつもありがとうございます。
「手土産研究家の田中さん」とぼくは認識しています。
- 田中
- いつそんなことになったんでしょうか(笑)。
- 糸井
- どうしてあんなに手土産を?
営業をしていらしたんですか?
- 田中
- いやいや、まったくしたことないです。
やっぱり、もらうとうれしいっていう経験がすごく大きくて。
自分が持っていくものはだいたいつまらないものですけど。
- 糸井
- うん。
あ、うん、じゃないか(笑)。
- 一同
- (笑)
- 田中
- でも、「つまらないものです」って、
すごくいいコミュニケーションなんですよ。
昔、田村正和さんに、「つまらないものですけど」って
田村さんがテレビドラマの中で乗っていた車の
ミニカーを渡したことがあるんです。
そうしたら田村さんは、
あの口調で「本当につまらないね」って(笑)。
でも、そう言いながら鞄にしまっていたんですよ。
それ、すごくいいなぁと思って。
- 糸井
- 田中さんは、「つまらない」のハードルを
ものすごく下げた状態で、選んでいますよね。
- 田中
- 大阪のお土産のいいところは、
中身のおいしさを問われないところなんですよ。
「面白い恋人」とか、もうネーミングだけで
コミュニケーションツールになるんです。
- 糸井
- でも、この間塩野米松さんとお会いした時は、
揚げ煎餅と揚げ饅頭のセットだったでしょう。
あれで、田中さん像がちょっとずれちゃって。
今までは、「つまらないもの」という低いハードルを
相手に越えさせる流れだったけど、
「これ、うまいじゃん」って(笑)。
- 田中
- あれは本気です。おいしいから。
わざわざ東北から来られている塩野さんに、
お約束のお菓子を渡すのはさすがにちょっと‥‥。
- 糸井
- 微妙に使い分けているんですね。
- 田中
- 小ずるく生きてますから。
- 糸井
- 今までの路線とはっきり違うから、
あれでまた田中さんへの興味がわきましたよ。
そんなところでもコミュニケーションしているんですよね、
ぼくらは。
あと、今だから言える秘密が1つあって。
お花見問題。
- 田中
- はい。大問題ですね。
- 糸井
- あれ、言っていいですかね。
- 田中
- ええ。
- 糸井
- 田中さんのお手柄なんで、
客席(同席している乗組員たち)に向かわないと
ちょっと言いづらいんですけど…。
- 糸井
- 電通関西支社で田中さんがいらっしゃった部署は、
梁山泊みたいなところなんです。
- 田中
- 40年ほど前に、
「東京のカッコいい広告にカウンターパンチを食らわせよう」
と生まれた部署なんです。
どんどんおかしな人が集まって、
本当に梁山泊みたいな集団になってしまって。
そこに糸井さんがいらしゃることに。
- 糸井
- 個人で会うことはあっても、
チームとしてみなさんにお会いするのは初めてで。
圧の強い人たちの集団なわけですよね。
しかもお花見っていうんだから、
お酒があるのもわかっている。
- 田中
- はい、はい。
- 糸井
- そこに、田中さんの案内で参加したんです。
その時が初対面だったんですよね。
京都の駅で待ち合わせて、
「やぁやぁやぁ、どうもどうも」って会ったわけです。
そしたら、その時も紙袋を下げてる。
しかも2つ。
- 田中
- (笑)
- 糸井
- 1つは、
「つまらないものですが、糸井さんにお渡しするものなんです。
ただ、荷物になりますから、ぼくが帰りまで持っています」と。
「渡さない」という知恵を使っているわけです。
もう1つ、重い一升瓶を持っていて。
「梁山泊の方々は、とにかく酒さえあれば機嫌がいいので、
申し訳ないですけど、
これを糸井さんからの差し入れだということにして、
渡す時だけ持っていただけませんか」。
この人は何十年営業畑にいたんだろう、と思ったんですよ。
- 田中
- 開けると、
のしに筆文字で大きく「糸井」って書いてあるんですよね。
- 糸井
- その念の入り方があんまりすごいから、もう笑うしかなくて。
言われた通りに渡したら、やっぱり湧くんですよ。
- 田中
- 糸井さん、「あのぅ、これ、ぼくが‥‥」って、
すごく小さい声で、後ろめたそうにおっしゃるんです(笑)。
特別ゲストだったので、少し遅れてお連れしたんですよね。
みんなもう酔っ払いだから、
「ワーッ!」ってその包みの紙をグシャグシャ取って。
そしたら「糸井」って書いてあって、
しかも大好きなお酒が出てくるもんだから、
さらに「ウワァーッ!」って(笑)。
- 糸井
- すごいんだよ。
ガソリンを焚火に投入したみたいに。
- 田中
- 喜び方の浅ましさ(笑)。
- 糸井
- その時、ああこんなに盛り上がるんだったら、
手土産を持ってきたほうがいいんだなぁ
っていうのを感じたんです。
あれ、大阪から来た人が東京の集いで同じことしたら、
「あぁ、どうも」でおしまいですよね、きっと。
- 田中
- あぁ、そうですね。
それが、瞬時に開けて、
糸井コールが起きるんじゃないかくらいに盛り上がって。
一斉に注いで、一気に飲んでましたからね。
- 糸井
- そう。
で、そのメンバーは馬鹿じゃないんです、
そこがいやらしいところで(笑)。
「馬鹿じゃない」と「馬鹿」が一緒になっているんですよね。
- 田中
- なんでしょうね、あの人たちは。
(つづきます)