- 糸井
- 僕ね、前から言ってますけど、嫌いなんですよ、ものを書くのが。
- 田中
- わかります。僕もすっごく嫌。多分みんな嫌なんですよ、本当に。
- 糸井
- 人って、書き手っていうものに対して、ある種のカリスマ性を要求しますね。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
でも、僕にとってはそんなのどうでもいい。
偉さとか、身分とか。
- 田中
-
わかります。
糸井さんはずっと、その軽やかさをどう維持するかっていう戦いだったと思うんですよね。
- 糸井
- そうですね。でも同時に、その軽さはコンプレックスでもあって。「俺は、逃げちゃいけないと思って勝負してる人たちとは違う生き方をしてるな」って。常に読み手として書いてるから。
- 田中
-
はいはい‥‥。すごくわかる。
僕も別に、世の中をひがむとか、何か政治的主張があるとかはないんですよ、読み手として書いてるから。でも映画評とかを書いていたら、「じゃあ、田中さん、そろそろ小説書きましょうよ」という人がいる。
- 糸井
- いますね。
- 田中
-
まぁそれは、僕が書いた小説を読みたいって思ってくれている人もいるるだろうし、商売になるって思っている人もいるからだと思うんですけど。
だけど、やっぱり別にないんですよ。心の中に「これが言いたくて俺は文章を書く!」っていうのが。
常に、「あ、これいいですね」、「あ、これ木ですか?」、「あぁ、木っちゅうのはですね」っていう(笑)ここから話しがしたいんですよ、いつも。
- 糸井
- お話しがしたいんですね。
- 田中
- そうなんです。

- 糸井
- うーん‥‥、なんだろう、「これいいなぁ業」ですよね。
- 田中
-
そうそう。
あの、「糸井重里bot」っていうのが、あるのご存知ですか?糸井さんの言葉を再読するちゃんとしたbotではなく、糸井さん風に物事に感心するっていう。
- 糸井
- 感心する。
- 田中
- いろんなことに関して、「いいなぁ、僕はこれはいいと思うなぁ」「僕はこれは好きだなぁ」って言うんです(笑)糸井さんが物事に感心するときの口調だけを繰り返している。
- 糸井
-
あぁ。
そればっかりですよ、僕もう。多分、田中さんも本当はそれですよね。
- 田中
-
そうです。「これいいなぁ」ですよ、本当に。
でも、何かに対していいなぁと思ったとき、「これいいなぁ、これ僕好きだなぁ」っていうのを世の中にちょっとだけ伝えたいじゃないですか。
- 糸井
-
そうですね。
「これいいなぁ」は、これ以外の他のものを見ても思わなかったんですよ。
- 田中
- ですよね。
- 糸井
- でも、それを見たときには「いいなぁ」と思ったから、それを選んだ。あ、また選んでいる側にいますね。受け手ですね。
(つづきます)