もくじ
第1回船からしか見えない景色 2017-11-07-Tue
第2回船に流れる時間 2017-11-07-Tue
第3回夜の海の向こうにあるもの 2017-11-07-Tue

編集経験8年。
媒体の主な分野は教育系、旅行系です。

私の好きなもの 船旅(ふなたび)

私の好きなもの 船旅(ふなたび)

担当・朝倉由貴

船旅が好きです。
と言っても、私が乗っている船は、
よく旅番組や雑誌で特集されているような、
きらびやかな豪華客船ではなく、
おもに国内の海を走るフェリーのことです。
私がここでお話しする長距離フェリーの多くは、
目的地によっては半日、あるいは2、3日かけて進む船です。
なので、船のなかでごはんを食べたり、眠ったりします。
船内はまさに生活空間なのですが、
ゆったりと着実に、海の上を走っていきます。

独特なこの乗り物を好きになってからは、
「焼き肉、食べたい」
「カラオケ、行きたい」と似たような感覚で、
「船、乗りたい」という欲がわくようになりました。

しかし、この「好き」という気持ちの正体がなんなのか、
自分でもよくわからないのです。
船旅の魅力について、この機会に少し考えてみたいと思います。

第1回 船からしか見えない景色

中学3年生の夏休みのある日、私は船の甲板にいました。
伊豆七島のひとつ、東京から約180キロ南にある三宅島へ、
地元の小・中学生の団体でキャンプに行った帰りでした。

お昼すぎに三宅島の港を出発した船は、
夕方には東京湾にさしかかっていました。
甲板に出ると、神奈川県・三浦半島の観音埼灯台、
横浜ランドマークタワー、
飛行機が離陸する羽田空港、
品川のコンテナ埠頭など、
さまざまな景色が目に飛び込んできました。

品川には私の実家があり、
横浜は当時通っていた中学校がある街で、
ここは毎日のように電車で往復していた生活圏。
また、観音埼灯台は祖父母の家から近かったので、
小さい頃から何度も行っていた場所です。
だから、陸側からの視点で繰り返し見てきた景色でした。

それを船に乗ったことで、
ちょうど反対側である海側から眺めることになったのです。
おおげさな言い方かもしれませんが、自分にとっては、
まるで月の裏側を初めて見たような気分でした。
見慣れた景色でありながら、なにかが違う。
とにかく新鮮で、東京の竹芝港に着くぎりぎりまで、
ずっとひとりで甲板から景色を眺めていました。

船旅の魅力に気づいた私はそれ以来、
船で行ける場所を旅の行き先に選ぶようになります。

面白いのは沿岸の景色だけではありません。
イルカやクジラに遭遇して大興奮したこともありますが、
意外と驚いたのはトビウオです。
トビウオは、イルカショーのイルカみたいに、
半円を描くように飛び上がるものと思っていました。
実際は、水面ギリギリをブーンと、横一直線に飛ぶのです。
しかも「いつまで飛ぶの?」と驚くほど、滞空時間が長い。
調べてみたら、100~200メートルは飛ぶのだそうです。
何十ものトビウオが、波間に飛んでは消える姿は、
なんだか愉快でした。
そんな光景は、漁師さんにならないと、
なかなか見られないものかもしれません。

今まで船から見てもっとも驚いたのは、「海と海の境目」です。
それは高校1年生の夏休み、東京の高校生約400人が
中国を訪問して交流を行う「東京都青少年洋上セミナー」に
参加したときのことでした。
東京から上海の交通手段は、行きも帰りも船で、
片道4日間かかる長い航海でした。
普通に旅行者として乗ろうとしたら、
かなりお金がかかってしまうような豪華な客船で、
私の船旅歴のなかではかなり特異な経験です。

東京の港を出発して3日目。
本州と九州のあいだの関門海峡を抜け、東シナ海へ出た船は
上海を目指してひたすら西へ進んでいました。
そこで甲板にいた私は、不思議なものを見つけました。
青い海のなかに濁ったようなよどみがあったのです。
「なんだろう?」
しかも、よく周囲を見渡すと海のあちらこちらに
同じよどみがあるのです。
「黄色っぽいけど、こういう赤潮もあるのかな?」
そのときは、ただ不思議に思うだけでした。

上海港に近づいた4日目の朝、窓の外を見て謎が解けました。
「海が黄色い!」
あたり一面が、昨日見たよどみと同じ色をしていました。
中国の川が上流から下流へと運んだ黄砂が海まで流れ着き、
海を黄色に染めているのでしょう。
つまり、私が船から見た黄色いよどみは、
青い海と黄色い海の境目のはじまりだったとわかり、
腑に落ちました。
地図の国境線のように、
青い海と黄色い海がくっきりと分かれているはずはなく、
実際はゆるやかに変化しているものだということを
目のあたりにできたことに驚き、うれしかったのです。

ここまで書いて気づきましたが、
自分は、何かを実際に目で見て確かめたいという
気持ちが強いのかもしれません。

新潟県の佐渡島(さどがしま)へ行ったとき、
あまりに広くて大きくて、「島」に見えませんでした。
すると、どうしても島であることを見て確かめたい。
帰りの船では、出航からずっと甲板に陣取っていました。
しかし、いくら船が佐渡島から離れても、
いっこうに、海に囲まれて独立した島には見えません。
佐渡島が非常に大きいので、どの角度からも対岸の本州と
くっついて見えてしまい、まるで「半島」のようです。

風がびゅーびゅー吹きつける甲板に立ったままで
かなりねばったけれど、
結局日が暮れてしまい、タイムアップ。
「次来ることがあったら、行きの船で確認しようっと」
ひそかに心に決めるのでした。

第2回 船に流れる時間