もくじ
第1回月岡芳年との出会い 2017-11-07-Tue
第2回月日が経っても変わらないもの 2017-11-07-Tue
第3回優しい時間が流れる 2017-11-07-Tue

空の青にも海の青にも染まらず漂っています。
好奇心のおもむくままに、
食べること、音に触れること、美しいものを見ることがすき。
「書く」こと「編集」すること「気持ちを届ける」ことに
ていねいに向き合いたいです。

わたしの好きなもの</br>『月百姿』

わたしの好きなもの
『月百姿』

担当・さとえり

私はいま、下町の雰囲気が漂う町に住んでいます。

高層マンションやビルが無いので、
空気が澄んだ夜の帰り道、少し空を見上げるだけで、
ぽっかりと浮かぶ月がきれいに見えるのです。

もうすぐ日付も変わるような時間、
ひっそりとした暗がりの道路を
電柱の明かりをたどって歩くと、
寝静まった町の中で起きているのが、
私ひとりきりのように思えてくることもありました。

けれども、
アパートからぼんやりと漏れる明かりが見えるとき、
メールを受信したスマホがかすかに振動するとき、
誰かも同じように月を見ているかもしれないと気づいて
なんだかふんわりとした、不思議な気持ちになりました。

わたしの好きなものとして、
書かせていただくのは『月百姿』。
『つきひゃくし』と読むそうです。

これは、今から130年ほど前の浮世絵のタイトルです。
江戸時代の終わりから明治時代にかけて活躍した
「最後の浮世絵師」月岡芳年(つきおかよしとし)が描いた、
月にまつわる連作です。

私がこの作品に出会ったのは、実は今年のこと。
けれども、時間なんて関係なく、
あっという間に好きになってしまったのです。

第1回 月岡芳年との出会い

春風の気持ちよい、よく晴れた日のこと。
私は、すこし遅い昼ごはんを取ろうとしていました。

連休をつかって、友達に会いに行きたい。
できれば、美術館にも寄りたい、と考えながら
スマホに「京都 美術館」と打ち込んで、検索をかけました。
そこでたまたまたどり着いた画面から、
目が離せなくなったのです。

月に照らされて、軽やかに舞う義経。
地面に足をめり込ませ、応じる弁慶。
今にも動き出しそうなワンシーン。

美術館「えき」KYOTOで行われた企画展
『芳年―激動の時代を生きた鬼才浮世絵師』告知チラシより。
『義経記五条橋之図』という作品が使われています。

 
これが、浮世絵師・月岡芳年(つきおかよしとし)との出会いでした。
もしかすると、なにかの機会に彼の絵を見たことがあるしれませんが、
私の頭からはすっぽりと抜け落ちていました。
「芳年」って「ほうねん」って読むのかな、
と考えてしまうくらい。

さっそくスケジュール帳を開いたものの、
すでに週末の予定がちらほらと入っており、
この期間に京都に行くことは難しそうです。
来年東京で行われる、巡回展を待つことを決めました。

それから数か月後。
神保町の書店街を歩いているときに目に留まったのが、
原宿の太田記念美術館で行われる、企画展のポスターです。
『妖怪百物語』・『月百姿』の
2回に分けて開催されるとありました。
今度はその場で、スマホのメモ欄に「芳年」と打ち込みました。

次の週末、炎天下の中をいそいそと出かけた『妖怪百物語』には、
想像していた以上にエネルギッシュな作品が揃っていました。

どこか可愛らしさの残る妖怪が描かれているものもあれば、
よくよく解説を読んでみると、
人の恨みつらみが姿を変えたもの、ということもあります。

計算された構図に、
鮮やかな色彩。

そのどれもがキマッていて、恰好よかったのですが、
憎悪や無念といった感情が渦巻いており、
絵の中に引きずり込まれてしまいそうになりました。

夏の暑さに疲れた私にとっては、
体力や気力を使って観ているように感じられました。
それだけ、作品に惹きつけられたということかもしれません。

(つづきます)

  月岡芳年の展覧会
  『芳年―激動の時代を生きた鬼才浮世絵師』は
  下記の会場でも開催されます。
  ・2018年1月13日(土)〜3月11日(日)  神戸ファッション美術館
  ・2018年3月17日(土)〜5月14日(月)  山梨県立博物館
  ・2018年8月5日(日)〜9月24日(月振休)  練馬区立美術館
第2回 月日が経っても変わらないもの