もくじ
第1回『遥かなる時の彼方へ』 2017-11-07-Tue
第2回スタッフロールの向こうがわ 2017-11-07-Tue
第3回記憶に残る体験をとどけたい 2017-11-07-Tue

こどもの医療機関で広報・PR・Webサイト運営、ファンドレイジング(寄附あつめ)に従事しています。

私の好きなもの</br>クロノ・トリガー

私の好きなもの
クロノ・トリガー

担当・佐藤 徹

僕が小学生のころに出遭ったTVゲームに、
『クロノ・トリガー』という作品がありました。
ゲームのPR予告に使われたキャッチコピーは
「星はかつて夢をみた」
主人公らは時空を超える旅の中で
自分たちが棲む星の運命を知ることになり、
破滅へと向かう未来を救おうと仲間と共に戦う
――というストーリーのRPGです。

10歳のころの僕は、
さほど自己肯定感のある子どもでは
ありませんでした。
泣き虫で、人と話すことが得意ではなく、
どちらかというと読書が好きな子どもでした。
学校生活で周囲の生徒や教師との
コミュニケーションの中で生まれる
小さな擦れ違いの重なりに
少しずつ疲れを感じ、塞ぎがちになっていました。

そんな中で出遭ったのが、
この素晴らしい空想のものがたりでした。
普段、TV番組をまったく見ない人間で
周りの話題についていけないことも多かった自分が、
このゲームを通じて同級生と
話す共通の話題を持てるようにもなりました。

そして、このストーリーやグラフィックだけでなく、
僕はこの作品で流れるBGMに完全に魅了されました。
大人になった今も、
それらの曲たちを変わらずに聴き続けています。

これは、そんな『クロノ・トリガー』を通して変わった
僕の芸術体験についての随筆です。

第1回 『遥かなる時の彼方へ』

ゲーム終了後、スタッフロールで
フルートの主旋律がとても綺麗なこの曲が流れ出すとき。
主人公とヒロインは、自らが持った風船で
宙に浮かび上がって、そのまま夜空を旅するのです。

僕は、このシーンの幻想的な空気感に魅かれました。
何度もゲームをクリアしては、何度も同じシーンを見ました。
もちろん、そのBGMである『遥かなる時の彼方へ』も、
何度も聴きました。

夜空の満月の中にふたりが消えていく映像と共に流れる
スタッフロールには、
TVゲームだけが毎日の楽しみだった
田舎の小学生を夢中にさせた、
空想のものがたりに携わる
一人ひとりの総ての名前がおびただしく流れていました。

「これだけの人が、この作品の中に生きているのだ」
そんな事実は、当時の僕にとっては衝撃でした。

それまでも、何度かそうした
スタッフロールの文字列を自分は見てきたはずです。

しかし、それまでの自分には
視界の上から下へ流れるただの模様でしかなかったのが、
このときは
自分だけに何かを訴えかける、
意味ある何らかの記号のようなものに見えたのです。

そうしてクレジットされている人の名前の
一つひとつに、ふと
「一体どのような職業・立場の人が関わっているんだろう?」
という興味を持ったのです。

その後、あらゆる音楽や文学作品・映像作品と出遭う度に、
そうした「誰が作ったのか?」というところに目を向け、
より一層作品を味わおうという姿勢を
持つようになりました。

僕が、最初に興味を持ったのは、
このゲームのBGMを手掛けたコンポーザーである
光田康典さんでした。

僕は、この人が何を考え、思い、作曲してきたのかを
知りたくなって、
『クロノ・トリガー』のサウンドトラックを買ったのです。

(つづきます)

第2回 スタッフロールの向こうがわ