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第1回笑っていいとも!的な。 2017-11-07-Tue

とや さとる・1989年生まれのデザイナー。テレビ、音楽、インターネットが好きです。

笑っていいとも!的な。

笑っていいとも!的な。

担当・戸谷 慧

言わずと知れた、国民的バラエティ番組
「笑っていいとも!」。
みなさんも、一度は観たことがある番組だと思います。

私は、大学生のころ、
「いいとも!」を毎日録画して観ていて、
最終回の前夜には、
「アルタ前」に写真を撮りに行ったほど、
特別に好きな番組でした。
面白かった回はダビングして残しておき、
番組の終了から3年半経った今でも、
ときどき、観返して楽しんでいます。

どうして、あんなに好きだったんだろう。
なんで、今でも忘れられないんだろう。
「私の好きなもの」を書くという課題をきっかけに
改めて考えてみると、
大好きだった「笑っていいとも!」的な価値観が、
自分のなかに染み付いているように思えました。

2014年3月31日。
私は、この日を忘れることができません。
「笑っていいとも!」の「グランドフィナーレ」が
放送された日です。

翌日に新卒入社の入社式を控えていた私は、
その日、テレビにかじりついていました。
会社の同期は、入社式に向けた決起会をしていましたが、
私は参加せずに自宅でひとり、
ときに爆笑、ときに涙し、
テレビに夢中になっていました。

いつだって自然体なタモリさんを中心に、
予定調和な進行から平気で脱線し、
流れに身を任せて、ひたすら楽しむ。
私は「いいとも!」のそんなところが大好きでした。

グランドフィナーレは、
タモリさんが、
憧れの吉永小百合さんとの中継で
デレデレして進行がそっちのけになったり、
歴代のレギュラーが、
順番に登場するはずの段取りを無視して登場し、
ステージ上が大騒ぎになったりと、
私の好きな「いいとも!」らしさが詰まった回でした。

いつだって圧倒的にデタラメで、
タメになる情報なんてひとつもない。
ただただ笑えるだけの、本当に楽しい時間で、
まさにこれが観たかったんだと、
確信したことを覚えていますし、
いま改めて見返しても、そう思います。

2014年3月30日。
この日は、翌日にグランドフィナーレを控えた日曜日で、
私は友人と、新宿三丁目にある
「どん底」という居酒屋で食事をしました。
若かりし日のタモリさんが通っていたとされる、
歴史ある名店です。

その帰り、いつもなら最寄りの新宿三丁目駅から
電車に乗る私の足は、自然と、駅と反対方向の
アルタ前へと向かっていました。
毎日「いいとも!」の生放送が行われていた
新宿の街は、グランドフィナーレに向けて、
地下道のポスターや、地上への階段の装飾、
アルタのビルのラッピングまで、様々に飾られていました。
その光景は、フィナーレに向けた祝祭のようでもありつつ、
どこか寂しさも感じる、不思議な感覚のあるものでした。
私は、その様子を写真に撮って、帰宅しました。

私が「いいとも!」を一番夢中で観ていたのは、
番組が終わる最後の5年間でした。
その時期に放送されていたコーナーの中でも
特に「いいとも!」らしさが感じられたのが、
「負けず嫌いマッチ」です。

各メンバーが、「自分はこれなら負けない」というお題を
週替わりで持ち込み、勝負をするコーナーで、
「いいとも!」らしさが詰まったものでした。

例えば、猫好きで知られる爆笑問題の田中さんが
持ち込んだ企画の、「おいで おいで!ネコちゃん」。
ステージ中央の猫を、ステージ両端から呼び、
先に抱きかかえた人が勝ち、というシンプルな企画です。
およそ5分の勝負のすえ、
結局ネコは、どちらの手元にも行かず、
勝負として成立しないまま、
時間切れとなってしまいました。

冷静に言ってしまえば、お昼の生放送で、
ネコが大好きなおじさんが、
ネコなで声で、ネコを呼び続けるだけの
時間だったわけです。

しかし、このコーナーのように、
意味なんかなくても、
出演者が自然体で、
心からその場の空気を楽しんでいる。
そんな様子を観ていると、
こちらも自然と笑えたり、
無意識にテレビにツッコミを入れたり、
思わず巻き戻して何度も観てしまったり。
ときには、テレビ画面を写真に撮って
インスタグラムにアップしたり。
テレビの前で観ていた私も一緒になって、
ステージ上で起こっていたことを
流れに身を任せて、楽しんでいました。

「いいとも!」は毎日変わらず、
テレビの中にありました。
タモリさんを中心に、1時間という時間を
力むことなく、ただただ楽しむ。
そういう空間であり、時間でした。

それは、私にとって
近所の公園のようなものだったのかもしれません。
いつもそこにあって、
日常生活から歩いて遊びに行ける場所。
世界観が作り込まれ、大掛かりなアトラクションのある
テーマパークではなく、日常から地続きで、
流れに身を任せて、自分なりに楽しめる遊び場です。

そういう遊び場は、「いいとも!」以外にもありました。
「いいとも!」は曜日ごとに
演出を担当するディレクターが違うのですが、
それぞれのディレクターが担当する別の番組に、
「いいとも!」の空気を感じられると、
とても嬉しくなります。

思い返せば私は、テレビ以外の場所でも、
「いいとも!」的な空気を感じたり、
求めたりすることがあるようです。

例えば、大学生のときに企画したクラブイベントも、
ステージ上のDJの方を向いて盛り上がるのではなく、
DJの掛ける音楽をBGMに、バラバラの方を向いて、
てんでに踊ったり、酒とツマミを楽しんだり、
お喋りに興じたりするようなものでした。
自分が考えたイベントが「いいとも!」的な場に
なれていたことがとても嬉しかった。

その場全体が、自由でいることが許され、
好きなように、自分なりに楽しめる。
「笑っていいとも!」的な空気とは、
そういうものだと思います。

「いいとも!」の放送が終わって、3年半。
番組はもう放送されませんが、
私は、日常の様々なことのなかに、
明日もまた、「笑っていいとも!」的な部分をみて、
楽しんでいくに違いありません。

タモリさんが、グランドフィナーレを
「明日もまた、みてくれるかな?」と、締めくくり、
私は、「いいとも!」と応えたのですから。

(おわります)