ぼくは、今年の5月で出版社を辞めた。
フリーランスの編集者になると周囲に宣言して
会社員という肩書きを外すことになったのだけど、
本当のところは人間関係に疲れて
毎日くたくたになって深夜に帰ってきて
身も心もすり減っていく感覚を
拭い去ることができなかったから。
睡眠時間もろくにとれないまま
朝を迎えて息子を保育園に送る日々。
いつしか、ぼくのペースに合わせない息子に
イライラするようになり、急き立てるように
手を引っ張って、わき目もふらず足早に園に向かった。
頭のなかは10時半から始まる
ミーティングのことで頭がいっぱいで
息子に話しかけることもなく
ひと言も発さず足を運んだこともあった。
息子を抱っこして急いでいるとき
靴が片方落ちても気づかなかったのは
ぼくに気をつかって声を上げなかったからだった。

でも、ぼくが会社を辞め、
朝を過ごす時間に余裕ができてから
少しずつ息子が、親であるぼくが、
そしてふたりをつないでいたものが
変わっていくのを感じた。
マンションを出てゆっくり歩みを進めると
今まで気づくことができなかったことを感じとり、
見えていなかったものが見えてきた。
そして、父と子のふたりの対話が生まれた。

(つづきます)