もくじ
第1回父と子の関係性 2017-11-07-Tue
第2回10月のある晴れた日の朝 2017-11-07-Tue
第3回新しい発見に出合う日々 2017-11-07-Tue

岐阜で生まれ育ち、現在は東京・武蔵野で家族三人、猫一匹と暮らしています。ファッションを中心に編集やライターの仕事をしています。狂おしいほどナッツが好き。最近のおすすめは中国発のスパイシーピーナッツ。

ぼくの好きなもの</br>息子と歩く朝の200メートル

ぼくの好きなもの
息子と歩く朝の200メートル

担当・なちまさと

ぼくは、毎朝200メートルという距離を
人生でいちばんゆっくり歩いている。
時間にして、だいたい20分くらい。
200メートル走の世界記録が19秒19だから、
およそ600倍! フルマラソンで考えたら、
約70時間かかる計算です。
まぁ、三日三晩歩き続ける体力はないのですが、
なんでそんなにスローペースかというと、
となりに2歳の息子が歩いているから。
名前は「ひびた」と言います。

息子の歩きたいテンポで歩かせ、
わき道にそれればいっしょにそれ、
目ざとくバッタを見つければ追いかけ、
雨の日は水たまりでじゃぶじゃぶ足踏みする。

平凡で、人から見たらなんの変哲もない
朝の登園風景かもしれないけれど、
今の自分にとって、その道のりは
まぎれもなく「好き」なもの。

日本のどこにでもあるような
大きすぎず小さすぎない公園と
アメリカザリガニが捕れる小川と、
陽だまりが浮島のように浮かぶ遊歩道を、
手をつないで、ときには抱っこして
てくてくと気のおもむくままに歩く、
ぼくと息子の200メートル。

第1回 父と子の関係性

ぼくは、今年の5月で出版社を辞めた。
フリーランスの編集者になると周囲に宣言して
会社員という肩書きを外すことになったのだけど、
本当のところは人間関係に疲れて
毎日くたくたになって深夜に帰ってきて
身も心もすり減っていく感覚を
拭い去ることができなかったから。

睡眠時間もろくにとれないまま
朝を迎えて息子を保育園に送る日々。
いつしか、ぼくのペースに合わせない息子に
イライラするようになり、急き立てるように
手を引っ張って、わき目もふらず足早に園に向かった。
頭のなかは10時半から始まる
ミーティングのことで頭がいっぱいで
息子に話しかけることもなく
ひと言も発さず足を運んだこともあった。

息子を抱っこして急いでいるとき
靴が片方落ちても気づかなかったのは
ぼくに気をつかって声を上げなかったからだった。

でも、ぼくが会社を辞め、
朝を過ごす時間に余裕ができてから
少しずつ息子が、親であるぼくが、
そしてふたりをつないでいたものが
変わっていくのを感じた。

マンションを出てゆっくり歩みを進めると
今まで気づくことができなかったことを感じとり、
見えていなかったものが見えてきた。
そして、父と子のふたりの対話が生まれた。

(つづきます)

第2回 10月のある晴れた日の朝