ロンドンに住む友人Yから、久しぶりに連絡があった。
年末年始に、一時帰国するかもしれないという。
Yについて考えるとき、
そこにはいつもスターバックスの思い出がついてくる。
白い紙カップで手を温めながら、二人で歩いた真冬の通学路。
もったりと甘いカフェモカの味。半分こで食べたドーナツ。
私たちは17歳だった。
Yは高校の同級生で、
同じチアダンス部のチームメイトだった。
部活を引退した高校3年生の夏から
私たちは同じ予備校に通うことになり、
それをきっかけに、よく一緒にいるようになった。
Yはスターバックスが好きだった。
ある日の学校帰り、予備校に向かう途中で
「スタバ寄っていこうよ」と誘われて、
通学路の途中にあるスターバックスに
初めて2人で一緒に行った。
そこでちょっとした秘密を打ち明けあったのをきっかけに、
私たちは、ものすごく仲良くなった。
それからは、数え切れないくらいスターバックスに行った。
すっかり日が落ちた冬の帰り道、
煌々と明かりが灯るスターバックスに吸い寄せられるように
ふらっと立ち寄ることもあったし、
予備校を抜け出し、自転車に2人乗りで向かうこともあった。
Yはいつも、温かいチャイティーラテを飲んで、
私はいつも、カフェモカを飲んだ。
ときどき、ケーキやドーナツをひとつ買って、半分こにして食べた。
Yは、自分のお金で買ったドーナツでも、
「これおいしいから、食べてみて」と、必ず半分を私にくれた。
私たちは、紙カップで手を温めながら、
いつもいろんな話をした。
学校でも家でも予備校でも話せないことを話すのが
スターバックスだった。
「スタバ、行かない?」というのは
「もう少し話してから帰ろうよ」という意味だし、
「ちょっと相談したいことがある」という意味でもあった。
Yは私にしか話せないことがあり、
私もYにしか話せないことがあった。
