もくじ
第1回 2017-11-07-Tue

30歳を目前に控えたところで、コピーライターに転身しました。
泳げないのに、
「水落」です。
よろしくお願いいたします。

私の好きなもの</br>結婚式

私の好きなもの
結婚式

担当・水落祥

「私の好きなもの」をテーマに何を書けばいいんだろう。
あれでもないこれでもないと、かなり悩みました。

なかなかテーマが決まらないまま悶々と過ぎる日々の中で、
スマホに保存された写真を見返していたあるとき、
ふと気づきました。

“この中には「好きなもの」が凝縮されている”

ぼくは、スマホの容量を確保するために、
不要な写真を定期的にごっそりと削除するのですが、
その習慣から勝ち残った写真たちが、
スマホの中にたくさん残っていたのです。

この中から決めよう。

写真を見た瞬間に、わくわくするもの。
記憶にも記録にも、ずっと残しておきたいもの。
そのときの空気や想いが、ふと蘇ってくるもの。

もう、審査基準は明確でした。

決定したテーマは、
2位の「麻婆豆腐」を大差で破った「結婚式」。

「何を書けばいいのか」ではなくて、
「これについて書きたい」と思えた、唯一のテーマです。

これまでに、ぼくを結婚式に招待してくれた人たちにも
読んでもらえたらいいなという気持ちで書きました。

どうぞよろしくお願いいたします。

ぼくは「結婚式」が好きだ。

とはいっても、好きなのは、
結婚式そのものというより、
「結婚式に出席する」こと。
あの空間で過ごす時間が好きなのだ。

結婚式に招待されるようになったのは、
20代半ばを過ぎたあたりからだった。

友だちを中心とした周りの人たちが、
口裏を合わせたように、同時期に次々と結婚していった。
それはもう、讃美歌を覚えてしまいそうなくらい。
結婚ラッシュって、ほんとうにあるんだなと思った。

結婚式に出席すると、いつもすごく疲れる。

それはもちろん、
席に座っている時間が長いという、身体的な疲れもある。
でも、あの終わった後の、
やわらかい幸福感と、ほどよいぐったり感。

あの心地良い疲れは、短い時間の中で、
泣いたり、笑ったり、驚いたり、
心がたくさん動いた証なのだと思う。

結婚式は、新たな家族をつくるための決意の儀式であり、
新郎新婦とその二人に関わってきた人たちとの、
たのしくてせつない思い出の総集編でもある。

いろんな感情が凝縮されたその数時間は、
自分ではない誰かの人生を全身に浴びているようなものだ。

付き合いの長い親友に意外な生い立ちがあったり、
自分の知らなかった別の友人グループが存在していたり、
いつも厳しそうだったお父さんが泣いていたり。
そんなリアルが、どんどん目の前に飛び込んでくるからこそ、
大の大人たちが、あんなに感極まってしまうんだろう。

そして、結婚式は、同窓会の役目も果たしてくれる。

社会人になると、それぞれ仕事や家庭があったりするので、
なかなかみんなが揃うことはむずかしい。
それでも、結婚式となれば、何とか予定を合わせるので、
普段は会えない人たちとも再会することができる。

出会った頃はお互いに子どもだった仲間たちが、
きちんと正装して、しっかりとした敬語で、
新郎新婦や親族にあいさつをしている。
すでに結婚していたり、親になった人も増えてきた。

一見、みんなすっかり大人になったように思えるけど、
同じテーブルに集まったとたんに、放課後に戻る。
たのしいのは当然だけど、もう戻らない時間を
取り戻そうとしているようにも見えて、
少しのさみしさも入り混じった複雑な感情になる。
あの空間は、年齢を重ねれば重ねるほど、愛しい。

ぼくは、そんな結婚式に出席するたびに
「ぼくらのためのイベントかもしれない」と感じる。

みんなからの祝福を受けてよろこぶ、
新郎新婦のうれしそうな顔。

それを見ているうちに、いつのまにか、
ぼくらのほうが笑顔になっている。

二人の幸せを祝うために集まったのに、
逆に、けっこうな幸せを、ぼくらがもらっている。

華やかな空間に、美味しいお酒と料理。
会いたかった人たちとの、何気ない会話。
大人になるにつれて少なくなっていった、
思いきり泣くこと、笑うこと。

その全部をくれるのが、結婚式だと思う。

ハーゲンダッツの広告に
「幸せだけで、できている」という
キャッチコピーがあるけど、まさにそんな時間だ。

冒頭で書いた、スマホの中にある結婚式の写真。
みんなでたのしそうに笑っているもの、
ブレてるせいでよくわからないもの、
ここではとてもお見せできないようなもの。
その日の写真は、どれもすべて大切にしたくなるから不思議。

そんな結婚式で過ごす時間が、ぼくは好きだ。

「本日は大変お忙しい中、
私たちのためにお越しいただきまして
誠にありがとうございました」と、
どの結婚式でも、主役の二人は挨拶をしていた。

これまで、結婚式に招待してくれたみなさんに、
ぼくからも、いまここで改めて伝えたい。

「こちらこそ、幸せな時間を、ありがとうございました」

(読んでくださったみなさまにも伝えたい)
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。