(ぺちぺちぺち・・・・)
ほほう、パソコンとはこういうものか。
あの人が最近よく使っているのを
見てたけど、こんな風に文字が
浮かび上がってくるのか・・・・。
じゃあ、ちょっと書き始めてみよう。
えーっと。
吾輩は犬である。
名前は、実はある。
ぬふぃーである。
ん?なんかこの名前、知ってる、
と思った方は正解だ。
なぜなら、あの人がこのほぼ日の
塾で「ぬふぃー」という名前を使って
書いているからである。
まったく、ぼくが本家なのに。
とってもまぎらわしい。
まぎらわしいから、ここでは
「ほぼ日の塾生・ぬふぃー」
のことを「あの人」と呼ぶことにした。
いっつも呼んでる名前をここでも使うと、
「ぷらいばしー」とやらに影響しそうだからだ。
ぼくは案外気の利くぬいぐるみである。
あ、そして先に言うと、
犬というと語弊があるかもしれない。
なぜなら、ぼくは犬の形をしたぬいぐるみだ。
もう10年以上も前に、
あの人がぼくを拾った。
あの人はたぶん、7歳くらいだった。

拾われた日のことはよく覚えている。
暗室で何日も過ごしたぼくたちぬいぐるみは、
でっかいゴミ袋に入れられた。
たいていはみんな、捨てられたか、
なくされてしまったぬいぐるみらしい。
ぼくはちがうけど。
ぼくは袋のなかで、チカチカした毛の色の
くまたちにおしつけられながら、
どこかへ進んでいくのを感じた。
袋を持ってる人の靴からくるカツカツという音と、
袋のガサガサの向こう側に、子供たちのにぎやかな
声が聞こえてくる。
どうやらぼくは目的地へと進んでいるらしい。
教室につき、袋から出される。
聞こえるのは「わあー!!」と喜ぶ
こどもたちの声。見回すと、
あの人の顔が視界に入ってくる。
どうやらぼくは目的地に着いたようだ。
教室にいる一人の大人が言う。
「みんなじゃんけんでぬいぐるみを
選ぶ順番を決めるよー!」
「はぁーいっ!」と元気な子供たちの声。
問題は、このカラフルな毛の海から、
どうやって白いぼくを選んでもらうか、だ。
でもそんな心配はいらなかった。
わりとすぐ、あの人はぼくのことを
じっとみてきた。
そして、目が合ったとき、
「あ、あの人はぼくを選ぶな」
と確信した。
そんな心配より、心配すべきは
あの人のおそろしいほどのじゃんけんの
弱さだ。何をしている。負けていたら
他の子供にとられてしまうではないか。
でも、「勝てよ!」という念も通じるはずがなく、
ことごとく負けていく。
あ。手がこっちへとのびてくる。
あの人の手ではない。
目をつむりたいけど、なんせぬいぐるみだ。
目はつむれない。
うわー、もうあきらめるしかないか・・・・
と近づく手を見ながら思っていると、
その手は一瞬ぼくをかすったものの、行き先は
黒い斑がいっぱいのダルメシアンだった。
安堵の息を、ぼくも、あの人もつく。
そして、とうとうあの人がじゃんけんに勝った。
今度ぼくへとのびてくる手は、あの人のものだ。
ぼくを手にもった瞬間、あの人は
にっこりと笑った。ぼくも、必死に笑顔で応えたが、
その気持ちは届いたのだろうか。
(つづきます)