ぼくは今、
広告制作会社のプロデューサーとして働いています。
会社にも仲間にも恵まれて、
充実した毎日を過ごしてしているのですが、
「文章を書くことで生きていきたい」
という気持ちが日増しに強くなってきました。

今年で30歳になり、
一般的な定年までは、あと30年。
もし方向転換するとしたら、
チャンスはあと何年？
実はもう遅い？
「書きたい」という気持ちに
もう後戻りはできないんじゃないか？
そんな考えが毎日、頭のなかでぐるぐるしています。

そんなとき、ふと頭に浮かんだのが
中学3年生のときに国語の授業で扱われた、
『私の個人主義』という、夏目漱石の講演でした。

細かい内容はほとんど覚えていませんでしたが、
夏目漱石による
学習院大学の学生に向けた講演をまとめた、この文章は
「自分の道は自分で考え抜いて決めるんだ！」
「人のマネをして満足してちゃダメなんだ！」
という、シンプルですが
すごく大切なことが書かれていたのです。

15年ぶりに読んでみると、
まさに、悩めるぼくに向けて書かれているような内容で、
言葉のひとつひとつを
すがるような気持ちで胸に刻みました。

本来、『私の個人主義』は、
中学3年生では扱わないそうです。
この教材を取り上げた、
当時の先生と話をしてみたいな、
と、思いました。

母校の国語教師、中村先生は、
僕にとって、恩師といえる存在です。
中高一貫校の6年間のなかで、
担任だったのは中学1年のときだけでしたが、
運動部の部活の顧問とキャプテンという関係で
3年間、まいにち指導を受けていました。

先生が教えてくれた文学作品は
思春期のぼくに大きな影響を与えてくれました。
中３のときに、アコースティックギターを貸してもらい、
音楽の世界を教えてくれたのも中村先生です。
文化祭で一緒にビートルズバンドを組んだこともありました。

そこまでお世話になったにも関わらず、
卒業後、母校から足が遠のいてしまい、
中村先生とも、ずっと連絡を取っていませんでした。

「いまを逃したら、もう連絡を取ることはないかもしれない」
と思い、今回、意を決して、
インタビュー申し込みのメールを送りました。

翌日、すぐに返信がきました。
そこには、
授業のことを覚えてくれていて、とても嬉しいこと。
今年の春から病気で入退院を繰り返していて、
仕事も休んでおり、会って話をするのは難しいこと。
協力したいので、遠隔でのやり取りだったら可能なこと。
が、丁寧に書かれていました。

いまも変わらず教壇に立ち続けていると
勝手に思い込んでいたぼくは、
少なからずショックをうけました。
若々しく部活でいっしょに走り回っていた先生も、
いまでは50歳代後半です。

遠隔でのやり取りは難しいかもしれない‥、
とも思いましたが、
ますます「いまを逃してはいけない」
という気持ちが強くなり、
正式にお願いすることにしました。

そうして今回、入院中にも関わらず、
LINEを使って、1ヶ月以上に及ぶ
対談に応じていただきました。

次回より、
中村先生とのLINE対談を、全4回でお届けします。

(つづきます)