もくじ
第1回『にわかファン』という言葉を聞いて 2017-12-05-Tue
第2回ロッテの応援に魅せられて 2017-12-05-Tue
第3回三振も愛らしい。大好きだ、新井さん。 2017-12-05-Tue
第4回今はなき、近鉄に想いを馳せる 2017-12-05-Tue
第5回ファン同士、伸びしろを埋めていこう 2017-12-05-Tue

大学3年生です。スポーツ新聞を作ったりしています。

プロ野球とプロ野球ファンの『伸びしろ』

プロ野球とプロ野球ファンの『伸びしろ』

担当・くりむらともひろ

ネットで『にわかファン』の人たちに
辛辣な言葉が浴びせられているのを見て以来、
「そもそもにわかファンってなんなんだ」
と考えるようになりました。
なんだか少し、
ファン同士で足を引っ張りあっているような印象を
受けたのです。
そしてその現象は、私が大好きなプロ野球でも
起きているのではないかと考えました。
『ファン』の理想的な共存について、
真剣に考えてみました。

第1回 『にわかファン』という言葉を聞いて

筆者は幼い頃からスポーツ全般が好きだ。
野球、サッカー、陸上、ハンドボール
といったところが主に好きだが、
特にプロ野球に関しては、ファン歴が最も長く、
好きになってかれこれ13年ぐらいになる。
名古屋出身の筆者は、中日ドラゴンズファン一筋。
これまでの人生の半分以上も応援して来たことになるが、
こればっかりはそう簡単にはやめられないだろう。
毎日結果は必ず確認するし、年に数回は
球場まで観戦に行く。東京に移って来たことで、
やや肩身が狭くはなってしまったが、
それでも球場に行くたびに、同士の数が想像以上に
多いことに驚かされる。
もちろん、阪神とか広島に比べたら
少ないかもしれないが、
それでも中日ファンもまあまあ多い方だと思う
(特に東京ドームの巨人戦は結構多い)。

当たり前の話だが、筆者のように、名古屋出身だから
中日ファンになったという人だけが
集まって来るわけではないだろう。

後輩に
「私浅尾選手が大好きで、
だからずっと中日ファンなんです!」
と言っていた女の子がいた。
浅尾選手というのは、
プロ11年目・33歳の浅尾拓也投手のことである。
2011年にはリーグMVPも獲得した実力に、
甘いルックスも相まって絶大な人気を誇った、
日本を代表する投手の一人である
(近年は肩の故障などに悩まされ
以前のような活躍を見せられてはいない)。

彼女の場合、これは中日のファンというより、
浅尾選手のファンだ。
浅尾選手が載っている新聞や雑誌を
スクラップしていたという彼女は、
「私中日が好きというより、浅尾選手がいる
球団が好きなんだと思います。
だから、浅尾選手が移籍したら、
たぶんその移籍先を好きになります」
と言っていた。
さらに地元が横浜だという彼女は
「ベイスターズも割と好きです(笑)」
とも言っていた。もうブレブレである。

でも彼女は間違いなく、
浅尾選手の『ファン』であると同時に、
中日ドラゴンズの『ファン』なのだ。
たとえ「浅尾選手がいなくなったら
他に移る」という気持ちがあったとしても、
これだって、立派な『ファン』であり、
たくさんあるかたちの中の、
一つであるすぎないだろう。

筆者のように、実家の近くにナゴヤドームが
あったからずっと応援し続けて来たという
人もいれば、彼女のように、
特定の選手が好きになったから好きだ、
しかも地元のチームも割と好きだという
人だっていてもおかしくはない。

そういう十人十色の動機を持った一人ひとり、
全てが『ファン』というひとつ屋根の下に
入ることができる、それがプロ野球の
いいところであり、人々が熱狂し続けられる
所以でもあるはずだ。

プロ野球には、本当に千差万別、
多種多様なかたちのファンが存在する、
ということを、筆者は特に上京してから
知ることになった。
それは、各地方から人々が集まってくる
東京だからこそ気づけたことかもしれない。

それ以降、
プロ野球が、一つの文化として根付いている
のは、そうした懐の深さが少なからず
関係しているのではないかと、
考えるようになった。プロ野球の
懐の深さというのはつまり、12球団
一つひとつの懐の深さであると思う。
各球団が様々な取り組みや工夫で
新規のファンを快く迎え入れる仕組みをつくる。
誰もが好きなタイミングで、
どこの、あるいは誰のファンにでもなれる。
一つのチームや選手を極めるも良し、
あっちもこっちもかっこいいといった
具合に、色んなチーム、色んな選手を
好きになるも良し。
極端な話をすれば、
たとえ野球が何人で行われるスポーツか知らなくたって、
どこかの球団のファンにはなれる。
ルールを知っていれば、もちろん競技そのものが
楽しくなることは間違いないが、
知らなくても『ファン』になることが
できる。特にプロ野球は、そのことに関しての
入口が他のプロスポーツに比べても非常に広く、
入りやすくなっているのではないだろうか。

テレビなどでも話題になっている
『カープ女子』はその最たる例だ。

ユニフォームや帽子などの応援グッズを身につけ、
スタンドを真っ赤に染め上げた広島カープファン。
彼らがとても楽しそうに応援する姿を
テレビやSNSで見て、今度は自分が
球場へと足を運ぶ。それが連鎖し、
やがては一つのムーブメントと言える規模まで
巨大化した、それがこの「カープ女子」現象だ。
チームカラーの赤を基調としたユニフォームは
女子からの評価◎。応援も簡単で覚えやすく、
若手からベテランまで、個性豊かな選手が
顔をそろえる。おまけに2年連続リーグ優勝
という強さも兼ね備えていれば、
それまで野球に全く興味のなかった人でも、
球場に行ってみたくなるのも頷けるし、
チケットが入手困難な現状にも納得できる。

しかし、こうした、新参のファン増加が、
大体的に報じられたりするようになり、
一つのワードをよく耳にすることが
多くなった。

『にわかファン』

この『にわかファン』というワードは、
『古参』と対比的に用いられるワードである。
つまり、さっきのカープファンでいうと、
カープが下位に甘んじていた時代から応援し続けて
来た、選手の名前もたくさん知っているような
いわゆるコアなファンが『古参』。
逆に、選手の名前は知らない、でもとりあえず
楽しそうだし、カープのユニフォームを着て
球場で応援したい、野球はよくわからないけど、
という人が『にわかファン』ということになる。

もちろんそのどちらにも属さない人もいるので、
そういう人は中庸というか、
「普通に広島ファンです」
くらいの感覚だろうし、
この中庸な人たちも割と
多数を占めると考えている。
「野球を知らないくせに球場に来るな」
「強くなってから応援し始めるなんて
ファンとは言えない」
「どうせ、ブームが過ぎたら
他の趣味に乗り換えるんだろ」

カープのようなチームの人気が
増え続ける一方で、
そうした、声が後を絶たない。

そうした辛辣な言葉が、
いろんなかたちのファンがいるからこそ
楽しいのに、その芽を摘んでしまうような
本当にもったいない行為に感じてしまうのは、
筆者だけだろうか。
賛否両論はあるにせよ、彼女たち
『にわかファン』も『古参のファン』も
同じ立派な『ファン』ではないだろうか。

そもそも、「にわかファン」という言葉自体は、
ネガティブな意味合いで使用されることが多い
気がする。
「世間で話題になった途端、突然ファンだと
公言する人。
話題になったものだけファンだといい、
ブームが過ぎると同時に飽きてしまう人」
といったような意味があるようだ。
しかし、最近はその意味がより広義なものとなり、
ファンになりたての人や、初心者にも
用いられている印象を受ける。
新規のファンはひっくるめて『にわかファン』
といった風潮が少なからずあるような気が
しなくもない。

では、たとえば、
私が前回述べた浅尾選手好きの
彼女は、どうなるだろうか。

彼女はあくまで浅尾選手、そして浅尾選手が
いるから中日が好きなわけであって、
中日の選手を覚えようとか、
野球そのものをじっくり見て楽しもうとか、
そういう動機があるわけではない。
つまり、野球それ自体に強い興味関心が
あるわけではない。
一番興味があるのは、爽やかイケメンな
浅尾選手が見た目とは似ても似つかぬ豪速球で
強打者を華麗に打ち取るその姿なわけであって、
もしかしたら、他の中日の選手の名前は誰一人
知らないかもしれない。

もしそうだとしたら、いわゆる
コアな中日ファンに比べて
「にわかファン」ということに
なるかもしれない。
そこで筆者が
「そんなの中日ファンとは言えない。
中日ファンだなんて言うのはやめてくれ」
と言っていたら、彼女はどんな気持ちに
なるだろうか?

もうプロ野球なんか、一生観てくれないかも
しれない。
一野球ファンとして、それほど悲しい
ことはない。

新規のファンを見て、全然わかってないと
言いたくなる気持ちはわからなくもない。
だが、全く同じ性格の人間が一人として
存在しないように、人が好きになる理由だとか、
どれくらい好きになるかという深度だとか、
それらは全てバラバラだ。

『にわか』に当てはまる人の範囲を広げすぎて
しまうことは、
もしかしたら、これからもっと好きに
なっていくかもしれない人の可能性を
潰してしまったり、人の価値観を否定することに
なってしまわないだろうか。

「全然知らないんですね」といって突き放す
ようなことを、ファン同士でしてしまうほど
虚しいことはない。チームの発展を願うはずの
ファンが、皮肉にもファンの増加を妨げ、
ひいては発展も妨げるという望ましくない
構図が出来上がってしまう。

プロ野球のためにも、少しでも
こうした風潮はない方がいいと思う
というのが、筆者の確固たる意見だ。

そして、それはプロ野球の人気継続という
点において、絶対に無視せず、
真剣に考えるべき議題の一つである
と思っている。

ファンとして、
プロ野球の人気が低迷するような
世の中にだけはなってほしくないからだ。

確かに、巨人戦の地上波放送は激減したし、
子供たちの将来の夢は「野球選手」
から「サッカー選手」に変わり始めている。

だが、先日広島で行われたカープの
リーグ優勝パレードには、およそ30万人が
訪れたそうだ。
同じく、福岡ソフトバンクホークスの
優勝パレードには約35万人が訪れたと
言われている。
二つのチームが75万もの人を動かした。
そしてその場に居合わせた全ての人たちが
優勝の喜びを分かち合った。
そこには、古参もにわかも関係なく、
ただ一緒に喜ぼう、楽しもうという
空気だけがあったはずだ。

プロ野球はまだまだオワコンじゃない。

ファン同士が、もっと楽しい時間を
創造していけるはずである。

あまり一人で考え過ぎていても
頭がおかしくなりそうなので、
ここらは身近な4人のプロ野球ファンと
考えを共有してみることにしたい。
それぞれ異なるバックグラウンドを
持つ彼らと話をすることで、
もう少し考えをクリアにしていける
かもしれない。

(つづきます)

第2回 ロッテの応援に魅せられて