もくじ
第1回その場をなんとかキープしたい 2017-10-17-Tue
第2回訴えたいことがないと書いちゃだめですか 2017-10-17-Tue
第3回楽しむという選択肢 2017-10-17-Tue
第4回商品と作品のバランス 2017-10-17-Tue
第5回一旦保留にしようぜ 2017-10-17-Tue

エクセルが武器な会社員3年目。
インテリアで家の居心地をよくすることと、仕事帰りに銭湯にいくことが好きです。
銭湯では足りずレンタカーで温泉まで走って行くこともあります。
最近黙々と山に登ることにもハマり始めました。

答えを出さないという選択肢

答えを出さないという選択肢

担当・安藤菜々子

デビュー作の小説「ボクたちはみんな大人になれなかった」が話題沸騰中。
普段は会社員としてテレビ美術製作のお仕事をしている燃え殻さん。

読む人の感情を引き出すその著作はWEB連載当時から人気を集め、
新潮社から出版された本は発行部数7万部を突破。
糸井重里も最初は一ファンとして、ツイッターを通して出会いました。

そんな燃え殻さんはご本人曰く「人気(ひとけ)のない人生を送ってきた」。
しかし絶対解が求められる世の中において、
自分にも他人にもそれを押し付けないその生き方は、
まるで陽だまりに集まる猫のように人が自然に集まりそう。

そんな燃え殻さんと糸井重里の、他人とも自分とも適切な距離を保つ対話。
銀座ロフトでのトークイベントと、
その続きをほぼ日のオフィスでたっぷりと話していただきました。

「かくあるべき」に疲れたあなたへ、白黒つかない状態に疲れるあなたへ。
曖昧さを抱きかかえながら、ちょっと先の前を向きながら生きるという選択肢を。
これも押し付けるでなく、こんなのもあるよ、とそっと教えてもらえます。

ぜひご堪能ください。

プロフィール
燃え殻さんのプロフィール

第1回 その場をなんとかキープしたい

糸井
体は大丈夫ですか?結構たくさん取材受けてるでしょ?
燃え殻
はい、サラリーマンなのに。
6月30日に本が出て、そこからありがたいことに。
糸井
よく頑張ってるよね。
燃え殻
あ、久しぶりに褒められた。
糸井
よく頑張ってるよ。
いいことも悪いこともストレスなんだから。
新婚はストレスらしいからね。
豪華マンションに引っ越したとしても。
燃え殻
あ、いいことでもストレスになる?
糸井
環境が変わったら人体が変わったのと同じだから。
あらゆる変化はストレスなんですよね。
燃え殻
そうか。
それでいえば、ここ2か月ぐらい、
今までの人生にない変化しかしてなくて、
それに少しだけ慣れましたね。
糸井
いや、たいしたものだ。
燃え殻
Facebookの「1年前あなたはこれしてましたよ」
っていう機能で、
糸井さんと一緒に写ってる写真が出てきたんですよ。
糸井
ああ。あのロフトでの対談が1年前…
もしかしてぼくら、まったくの初対面はあの日ですか。
燃え殻
その前に1回‥‥
糸井
ああ、ご飯を食べたね。そうだ、そうだ。
ぼくがご飯をご馳走したい本能がうずいたときですね。
燃え殻
ありがたい本能だ。
糸井
(笑)
燃え殻
ぼく、あのときが人前で話すっていうことが
人生初だったんです。
糸井
‥‥ちょっといいなあ。何だ、何だ、何だ。
燃え殻
初で、さらに糸井重里がいて。
またそうそうたる変わった方々がいらっしゃって。
糸井
(笑)
燃え殻
緊張したー。
その1年前のやつを見たときに、
あ、少し慣れたかもしれないと思ったんですよ。
糸井
いっくらでもやってるじゃない、もう人前で。
燃え殻
ここ2か月ぐらいです。
糸井
あ、それは変化かもしれない。
燃え殻
うん。
糸井
人前っていう意味はつまり、
知らない人が自分の話を聞いてるってことか。
なかなかないよね、そういえば。
燃え殻
ない、ないですよ。
気軽に糸井さん誘いましたけどね、ロフトへ。
すごい人は気軽に誘うんだなと思いました。
糸井
(笑)

燃え殻
ぼく、会田誠さんもそうだったんです。
会田誠さんから飲みに行かないかって言われて、
「行きたいです」って言ったんです。
そしたら人前でした。
糸井
ああ、あ、そうですか。
ぼくは、そこはぼくのしぶといところで、
断られるんじゃないかって今でも絶対思ってるんです。
だから断る権利を与えてたはずですよ、多分。
「よろしかったら、
こういうのに出ていただけませんか」。
燃え殻
ありました、ありました。
それは自分がガッカリしたくないからってことですか。
糸井
じゃなくて、自分もそうだから。
誰が何と言おうがそれは行きたくないとか、
ちょっと今は勘弁してくださいとか、
いろんな理由があるから。
断れるように誘ってほしいなって思ってるので。
燃え殻
ああ、それはいいですね。
糸井
だから、「すぐ来いよ」みたいなことを
言うまでの関係って、まだないかもな、俺。
娘にでもそうだな。
燃え殻
ちゃんと選択肢を。
糸井
うんうん。ノーと言える空き地をつくる。
燃え殻
ああ、ぼくも絶対そうするんですよね。
気が弱いんです。ぼくはですよ。
糸井
損得にする必要はないんだけど、多分それのおかげで、
トータルにものすごく健康でいられる気がする。
燃え殻
ああ‥‥。
糸井
え、じゃあ燃え殻さんも、
人前に出るのも初めてかもしれないけど、
人に「こいつは来るに決まってるな」とかって
言ったことはないんですか。
燃え殻
もう、これは本当にない。
糸井
ていうことは、無駄モテしたりしますね。
せっかくモテてるのに、フックアウトするというか。
燃え殻
(笑)。どうなんだろう。
ぼく、直前で嫌になっちゃうってクセがあるので、
すごいわかるんですよ。
糸井
うんうん。
燃え殻
例えば小学校からの友達と焼肉を食いに行きたい。
何度も行った焼肉屋で味もわかってる。
嫌なことが起きないんです。
糸井
起きない。
燃え殻
なのに、当日行きたくないってことがあったんです。
そのときに、「ごめん、俺、今日行きたくない」って
言えたんですよね。
糸井
そう言えたんだ。
燃え殻
言えたんです。
そしたら、「まあ、そういうこともあるわな」って。
友達だなって思いました。
糸井
それは友達だな。
燃え殻
でも、それはほとんどの場合、
我慢するじゃないですか。
多分それが少なければ少ないほど、
長生きの可能性が高いのかもしれない。
糸井
そうですね。そうですね。
ドタキャンってやつですよね、いわゆる。
燃え殻
そう、ドタキャン。
社会でしちゃいけないってよく言われる。
糸井
ずっとドタキャンする人っていうのが100だとして、
全然ドタキャンしない人は1だとして、自分は?
燃え殻
ほとんどの場合はしないようにしてるんです。
だから、常にストレスが溜まってくる。
8ぐらいドタキャンしたいんで。
糸井
ああ。
ぼく、今、自分のことで考えたら‥‥
ドタキャンしないために最初から断るっていうのが、
どんどんできるようになった。
それはさっきの健康でいられるシリーズ。
燃え殻
どうやって断るんですか。
例えば「じゃ、今度ご飯食べましょう」。
それを断るとそんなに一生食いたくないのか
って話になるので、
「あ、そうですね」
ってまず言わなきゃいけないじゃないですか。
糸井
うん、そこは言う。
あ、言わないときもある。「あぁ」つって。
燃え殻
「あぁ」って。
糸井
そうやって、なんか音だけ出してるっていう。
燃え殻
音を出すというのがあるんですね。
糸井
うん。
友達なんだけど、今ものすごくドタバタしてるから、
ご飯はちょっと、みたいなときがあったとしたら、
それは基本的には「あ、いいね」って言って。
燃え殻
(笑)
糸井
いつだかわかんないけど行く気があるっていうのは
OKのほうに入れてますね。
断らないけどもそこに置きっぱなしにするのが、
「あー」だとすれば、あとは大体OKです。
はっきり断るのは、「いや、おまえ大嫌いだよ」って
言わなきゃなんないとき。
燃え殻
断ることもある?
糸井
うん、5、6年にいっぺんぐらいは
あるんじゃないですか?
「嫌だよ」って。
燃え殻
「嫌だよ」。
糸井
うん。誘う側のときには、
「嫌だよ」を相手が言う可能性はいつも持ってて、
自分が誘われた側のときには、
「嫌だよ」から、「うーん」から、
「おお、いいね!いついつ?」っていうのから。
燃え殻
バリエーションがある。
糸井
1つじゃ、やっぱり無理。心のままにあるとすれば。
燃え殻
ぼく、入口が1つだから苦しいのかな。
糸井
そうかもしれないね。
今聞いてたらね、「はい」しかないもんね。
燃え殻
「ああ、いいねえ」って絶対言っちゃうんです。
例えばうちの若手の食事会みたいのがあって。
多分、若手も本当には来てほしくないんですよ。
糸井
(笑)
燃え殻
ただ、誘ってないとまずいじゃないですか。
糸井
ああ。
燃え殻
だから、多分お知らせのつもりで言うんですけど、
「いいね」しかぼくないんで。
「あいつ、行くらしいぜ」みたいな話に
なってると思うんです。
糸井
面白い。面白いですね、その加減。
燃え殻
そう。だからそうすると、
最終的にドタキャンになるんですよ。
糸井
それって「男を狂わせるガール」みたいだね。
全部に「私はあなたを受け入れる」って言っちゃう。
案外しっかりしてるんだよね、ある意味では。
燃え殻
ああ、そうかなあ。
糸井
燃え殻さんのケースは・・・・。
なんかそうじゃないような気がするね。
その場をなんとかキープしたいっていうか。
燃え殻
そのクセがあるんです。
それで、どんどん追い込んで行っちゃうんですよ。
糸井
仕事もそうやって引き受けちゃうんだ。
燃え殻
はい。
糸井
今日もそれで来たんだ。
燃え殻
違います。
糸井
(笑)。
「違います」の早さ、すごく好感が持てた。
燃え殻
(笑)。
はい、そうです。
第2回 訴えたいことがないと書いちゃだめですか