もくじ
第1回「作品を出す」と「商品を出す」はちがう 2017-10-17-Tue
第2回子どもを捨てないと、大人になれない 2017-10-17-Tue
第3回勝ちも負けも失敗も成功もなく、「楽しめ」 2017-10-17-Tue
第4回遠い悩みをすると、ロマンチストになる 2017-10-17-Tue
第5回「そこにいていい」いうのがうれしくて 2017-10-17-Tue

川崎生まれ、東京とニュージャージー育ち。会社員とフリーランスを毎日いったりきたりしながら、PRと企画と編集とライティングのおしごとをしています。

燃え殻×糸井重里 対談</br>他の人が表現したことも、ぜんぶ自分の物語。

燃え殻×糸井重里 対談
他の人が表現したことも、ぜんぶ自分の物語。

担当・大原絵理香

小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』を出した燃え殻さんと、糸井重里の対談。

1回目と2回目は、銀座ロフトで行われたトークイベント、
3回目から5回目は、その後にほぼ日のオフィスで行われた対談です。

それぞれの様子を、総文字数3万字超えの本稿で、余すことなくお伝えします。

プロフィール
燃え殻さんのプロフィール

第1回 「作品を出す」と「商品を出す」はちがう

燃え殻
昨日あんまり寝れなかったんですよ。
糸井
どうしたんですか。
燃え殻
昨日3時ぐらいに仕事が終わりまして。そのあと、糸井さんの顔がちらついて、寝れなくて。結局会場にすごい早く来て、グルグル回ってました。
糸井
なんかずいぶん早く来てるって噂は入ってきてまして。
燃え殻
あ、本当ですか。
糸井
うん。ぼくはその頃お風呂に入ってて‥‥。1時間ぐらい入ってたんですよ。土日は、お風呂に入ってネット見たり本読んだりしてます。
燃え殻
素晴らしい。いいなあ。
糸井
え、何かそんな悩みがあるんですか。
燃え殻
いえ、ぼく、お風呂で本を読むというのが1番至福だと思ってるので。
糸井
いまは忙しい? けっこうものすごい取材受けてるでしょ?
燃え殻
本が出てから、ありがたいことに何十と。糸井さんには相談させていただいたんですけど、いろいろな方から来る質問が心苦しいんですよ。
糸井
心苦しい(笑)。
燃え殻
心苦しい(笑)。答えてて、ウソをつかなきゃいけない自分が。
糸井
あ、てことは、新聞で読んだ人は、ウソを読んでるわけですね(笑)。
燃え殻
「なんでこの本を書いたんですか」とか言われるじゃないですか。それで、ぼく、糸井さんに聞きたかったんですけど、小説とかって、何か訴えなきゃいけないことがないと書いちゃいけないんですか。
糸井
(笑)。それは、例えば高村光太郎がナマズを彫ったら、「なぜこのナマズを彫ったんですか」って聞くみたいなことですよね?
燃え殻
そうそう。で、「それはすごく社会的に実は意味があることなんだ」みたいな話というのは、高村さんは言えたんでしょうか。
糸井
言えないんじゃないでしょうかね。
燃え殻
でもぼくは答えなきゃいけないので、この本はちょうど90年代から2000年ぐらいのことを書いた本なので、「90年代ぐらいの空気みたいなものを1つの本に閉じ込めたかったんです」というウソを、この1か月ぐらいずっとついてて(笑)。
糸井
的確なウソですよ(笑)。「それが聞きたかったんですよ!」みたいな。
燃え殻
ぼく43歳なんですけど、新聞とか、文芸の記者の方が、40代中盤から後半ぐらいの人多いんです。それで、「いやあ、読みましたよ。ぼくもあなたと近いとこにいたんで、ぼくの話聞いてもらっていいですか」って。
糸井
うんうん。
燃え殻
それで、皆さん学歴のある方たちが多いので、いい形で社会に入って来てるじゃないですか。ぼくは1回もなかったので、「一緒ですね」って言われても、一緒じゃねえよと思いながら「そうですね」って相づちを打ったりして。
糸井
うんうん。
燃え殻
あと、「なんで書いたんですか」っていうのもよく言われるんですよ。その質問は、「バブルが終わって、でも、世の中にはまだバブルが残ってる。そのまだらな世界というのをぼくは1つの本に閉じ込めたかったんです」みたいに言うけど、ウソ、みたいな(笑)。
糸井
(笑)
燃え殻
みんなが求めてることを言わなきゃっていうのがあるから、ウソをずっと言うっていう(笑)。
糸井
ずっと言う(笑)。
燃え殻
そう。でも、その取材の公開される日がけっこう近いんですよ。だから、「おまえ、いつも同じこと言ってくだらねえ」とか、「宣伝男」みたいなこと言われて(笑)。
糸井
(笑)。
燃え殻
ぼくは、会社の行き帰りと、寝る前に書くっていうことがほとんどだったので、この小説の中では2か所ぐらいしか書きたいことがなくて。それは書きたいことというか、訴えたいことじゃないんです。書いてて楽しいみたいな。
糸井
自分がうれしいこと。90年代の空気を残したかったんですよね。
燃え殻
そうですね。本にも書いてあるんですが、ゴールデン街の狭い居酒屋の半畳ぐらいのところに寝てたんですよ。ちゃんとした時間は分からないけど、朝7時くらいに、仕事行かなきゃなって思いながら、ぼくの同僚とママとの何でもない会話を聞きながらボーッとして。そのとき雨が降りつけてるんですよ。でも、お天気雨みたいな感じで、日が差してて。
糸井
あ、いいですね。
燃え殻
はい。これを書いてるときは、気持ちがよかったですね。で、もう1つは安いラブホテルで、今日これからまた仕事なのかって思いながら、「地球とか滅亡すればいいのにねえ」みたいなことを、そこにいた女の子と言ってたんですね。それを書いてるときも楽しかった。

糸井
今日は多分、手帳のイベントなんで「書く」って話になるんじゃないかと思っていたんですが、書くときって、思ったときにすぐ書くとは限らないんだけど、いつかのために覚えとこうと思うだけで、なんかいいですよね。
燃え殻
そう、そうですね。
糸井
で、燃え殻さん、前に話をしたときに、学級新聞みたいな壁新聞を作って毎日書いてたって。書くのがなんなのか、もう少し話してみましょうか。
燃え殻
しましょうか。
糸井
例えばなんですが、「やせ蛙負けるな一茶これにあり」っていう俳句は、「やせ蛙」っていう見方をしたなっていうのがまずうれしいじゃないですか。それでさらに、やせた蛙を見たことを形にしたらうれしくなる。
燃え殻
うん、そうですね。ぼくだけが見てる景色‥‥。
糸井
そうそうそう。
燃え殻
切り取れた喜びみたいなものだったりってありますよね。ぼくは使っていた手帳を、21冊全部取ってるんですよ。
糸井
らしいよね。
燃え殻
はい。それで、ちょっと時間ができたときとかに、読んで、自分の安定剤代わりに使ってる。手帳は日記ではなく、本当に手帳なので、予定が書いてある。予定のほかには、その会った人のことを忘れないために、特徴とか似顔絵がを描いたり、その人の名刺をそのまま貼ってある。
糸井
そういう人いるよね。
燃え殻
あとは、たまたま食べた天丼屋が美味しかったら、その天丼屋の箸袋を貼ってあったりとか。結局、その後は行ってないんですけど、でも、天丼のシミとか付いてて。
糸井
行くかもしれないっていうのが、自分が生きてきた人生にちょっとレリーフされるんだよね。
燃え殻
はいはいはい。
糸井
その感じと、燃え殻さんの文章を書くってことがすごく密接で。
燃え殻
はい。
糸井
例えば、これは俺しか思わないかもしれないって思うことが、みんなに頷かれないでたときって、「悔しい」じゃなくて「うれしい」ですよね。
燃え殻
すごくうれしい。
糸井
だから、ゴールデン街で酒飲んでそのまま寝ちゃって、そのときのお天気なんていうのは、うなずける人は、けっこういると思うんです。でも、発見したのは「俺」なんです。でも、それが通じるっていう。
燃え殻
そうですね。「経験してないけど、わかるよ」っていうところがうれしい。あとは、記憶の断片みたいな話でいうと、あとから振り返ったときに、うれしかった日に、王冠といっしょに「超ラッキー」って描いてたり、逆にいやな人とあったときのことも書いてて。「この人には来週また会わなければいけない。嫌過ぎる。死にたい」とか。でも、今その嫌だった人と普通に飲みに行ったりして。
糸井
いいじゃないですか。
燃え殻
で、その悩みだったり関係性がどんどん変わっていく様だったりとかを見たくて、手帳を読み返すんですよね。
糸井
ちなみに、その手帳に書いてあることに自然に乗っかっちゃうのが音楽でしょう。これのときに、この音楽みたいな。手帳には書いてないけど、流れてますよね。
燃え殻
うん、そうですね。流れてる。で、音楽もさらに共有できることじゃないですか。だから、小説を書いたときに、そのところどころに音楽を挟んでいったんですよ。
糸井
入れてますよね。
燃え殻
それは、自分自身がそこでこの音楽がかかってたらうれしいなっていうのと、ここでこの音楽がかかってたらマヌケだなっていう、その両方で音楽は必要だったんで、読んでくれている人が共鳴してくれたり、共有してくれたり、共感してくれるんじゃないかなって思ったんですよね。
糸井
音楽って、ある種暴力的に流れてくるじゃないですか。で、そこまで含めて思い出だ、みたいなことっていうのは、あとで考えると嬉しいですよね。
燃え殻
そうなんですよ。
糸井
景色みたいなものだね。
燃え殻
そうですね。景色に、風景に一つ重ねていって共感度とか深度が深まるような気がして。この小説でいうと、同僚と最後別れるっていうシーンがあるんですけど、そこってもしかして映画だったりいろいろなドラマだったら、やっぱり悲しい音楽が流れてほしいじゃないですか。でもそこでAKBの新曲が流れるっていうところをぼくは入れたかったんですよ。
糸井
いいミスマッチですよね。
燃え殻
そう。もう俺たち会わないなっていうのはわかる。わかるけど、それは言わないで、「おまえは生きてろ」みたいなことを言う。で、言ってるときに、AKBの新曲がのんきに流れてるって、あるよなって(笑)
糸井
あるある。世の中が、自分の主役の舞台じゃないっていうのを表すのに、外れた音楽を流すというのは、すごくいいですね。燃え殻さんの小説の中にいっぱい出てくるのは、それですよね。俺のためにあるんじゃない町に紛れ込んでみたり(笑)。
燃え殻
そうですね。なんかこう、そこに所在無しみたいなところに、ぼくはずっと生きてるような気が。
糸井
なるほど。ぼく自身は、いま小説をまったく読まないんです。で、スケートしてる人でも、大会に出る人と、出ない人がいる。例えば、イナバウアーの人。
燃え殻
荒川静香さん。
糸井
そう。荒川静香さんは、大会に出ない人じゃないですか。だけど、荒川さんはアイスショーに出てるわけです。あと、浅田真央ちゃんも、やめたからって体型崩したりしないで、アイスショーに出るんです。大会に出る出ないはあるけど、踊ったり滑ったりするのは、同じじゃないですか。だからぼくは多分、大会にまだ出るつもりでいるんだと思う。
燃え殻
ああ。
糸井
それで、ぼくはいま、どうしてもやんなきゃなんないこと先にやっちゃってるんですね。だから、ぼくがいま読むというのは、楽しむために読んでるから、すごく贅沢です。自分の役割じゃない魂で読んでるから。だから、燃え殻さんの小説読んだときは、楽しかったですよね。
燃え殻
ありがとうございます。
糸井
楽しかったのは、燃え殻さんが肘で枕して、「糸井さん、どうですかあ?」みたいに言ってる感じがするんです。それで、「そうねえ」なんつって、「俺と世代が違うから違うんだけどね」なんて言いながら、読みながらしゃべってるわけです。
燃え殻
ああ、一番いい。うれしいです。

糸井
でも俺は「思ったより売れないと思うんだよね」って言ってたの。だから、残念会しようとしてて。そしたらね、売れたの。
燃え殻
本当にありがたいですが、なんで売れたんですかね。
糸井
思ったよりみんな、ああいうものを読みたかったんじゃない?自分ではどう思います?
燃え殻
うーん‥‥なんか半々だと。糸井さんが言ったみたいに、これを発売したらいろんな人たちが買ってくれるんじゃないかっていう気持ちと、まだらですけど、自分の本当にあった事柄が入っているので、自分の人生を、意外と多くの人が買ってくれるなあって気持ちがあって。
糸井
人に影響を与えるってことは量じゃなくて、量かける質になっちゃうけど、絶対量としてあるんだよ。燃え殻さんは、いいなと思ったことは、すぐに書くんですか。それとも、覚えてるんですか。
燃え殻
両方ですけど、最近はすぐに書くようにしてます。いま、ぼくが中学とか高校とかから集めたファイルを展示させていただいてるんですけど。小説にも出てきた、横尾忠則展のチラシとか。
糸井
俺、行ったよ、ラフォーレの横尾さんの展覧会。死んだ友達の絵がバーッとあったりする。あれ、いい展覧会だったね。
燃え殻
それとか、いろんな人のキャッチコピーを切って、それをファイルしたりとか。それこそ、当時は、糸井重里になりたいと思って(笑)。でもそれって、別に課題とかじゃないので、発表することもないし、なんの資料か自分にも分からない。でも、いつか自分に役に立つであろう資料。
糸井
イチローがバッティングセンターに通ってるみたいなもんだ。
燃え殻
そうなんですか?(笑)。あ、でも、そうかもしれない。いつ役に立つかなんてわからないけど、これを集めとかないとって、資料とか映画のチラシとかを集めたりしてて。でも、いまのために集めていたのかもしれない。展示していただけているので。でも、当時はそんなこともなく。
糸井
ただ集めた。
燃え殻
ただ集めてた。で、どこかで、いつか何かになるんじゃないかって淡い気持ちもあって。努力じゃない努力をすごいしてたんですね。
糸井
俺もちょっとしてたな。影響を受けたりして、映画とか小説とかの。例えばぼくは、いま見たらどう思うかわかんないような『小さな恋のメロディ』っていう、かわいい女の子と男の子が小さな恋をする映画があって。それに瓶に入った金魚が紐でぶら下がってるんです。で、瓶に金魚を飼ったね、俺。
燃え殻
それを真似て?
糸井
真似て。でも、他人がやってることとか、よその人が表現したことも、もうすでに自分の物語なんですよね。
燃え殻
そうだと思います。だから、コラージュのようにいろいろなものを集めてて、それはもう自分が考えたことと言ったら失礼ですが、自分の言葉として、友達に言ったりしてましたからね。
糸井
それ、友達にもそういうやついた? そういう話、聞く側になったことある?
燃え殻
あんまりないかな。
糸井
あんまりない? 自分が言う側だったんですか。
燃え殻
そうですね。
糸井
それはもう、表現者としての運命ですかね。
燃え殻
いや、すごいみんないい人だったと思うんです、ぼくの周りが。
糸井
ああ‥‥。聞いてもらうって、人間にとってものすごくうれしいことですよね。クレイジーケンバンドの「俺の話を聞け! 2分だけでもいい」って歌詞も見事だと思っていて。
燃え殻
いいですね、2分だけ(笑)。
糸井
「貸した金の事など」って。貸した金のことなんかもういいから、俺の話を聞けって(笑)。あの歌すごいなって。
燃え殻
聞いてる方としては心地いいのかな。ちょっと自分ともシンクロする部分というのを見つけちゃうというか。
糸井
うん。多分ブルースが生まれた場所での黒人たちなんて生活が大体似たようなものだから、聞いてる方がシンクロする部分を見つけて、「そうそうそうそう」って。
燃え殻
俺のことを歌ってるんだって。
糸井
うん。燃え殻さんのあの小説は、そうですよね。
燃え殻
ああ、そうかもしれない。
糸井
ぼく、この帯に「ずっと長いリズム&ブルースが流れているような気がする」と言ったのは、そんな気持ちからなんです。だから、「ドック・オブ・ベイ」みたいな気がしたの。
燃え殻
なるほど。
糸井
昔は、ジュークボックスというのがあってさ。ジュークボックスって、お金を入れると、音楽がかかるんです。で、ぼくがバイトしてたスナックで誰かが「ドック・オブ・ベイ」をかけてくれるとうれしいんです。自分のお金じゃなくて。
燃え殻
ああ、わかる。
糸井
で、それが流れると、その歌詞のことをちょっと知ってる程度だけど、いいよなあって思いながらピザ運んだりしてたわけ。だから、ぼくにとってものすごく若い自分がこの小説(『ボクたちはみんな大人になれなかった』)を褒めてるつもりなの。
燃え殻
いやー、すごくうれしかったです。このあいだ、『燃え殻』という曲を書いたキリンジの堀込さんとお話をさせていただいて、小説家の方から怒られちゃうかもしれないですけど、小説ってあまり売れないっていう前提のもとにぼくは書いていて。しかも、無名だったので。なので、売れてる小説家さんの真似しても無理だなって思ったので、皆さんがスマホに使っている時間をどうにか僕の小説のほうに使ってほしいっていうのがあったんですね。で、その1つの方法として、さーっと読める言葉を選んだ。
糸井
読者へのサービスだ。
燃え殻
文章には、読んでるときのリズム感みたいなのがすごくあると思ってて。ぼくは、リズム感のためなら書いてあることを変えてもいいと思ったんです。これは本当に小説家の方からしたら、「何言ってんの? おまえ」って話になっちゃうかもしれないですけど。
糸井
でもそれが、楽しかったわけでしょ?
燃え殻
はい、楽しかったですね。
糸井
自分しか読まないものを書いてた学級新聞の時代とかと違うのは、そこなんじゃないでしょうかね。
燃え殻
あ、そうかもしれないですね。
糸井
編集者の人に直されたりっていうのは、あったんですか?
燃え殻
ありました。女性の編集の方だったんで、男としてはアリっていう表現も、「女性は読んだときに嫌悪感があります」っていうものに関しては、バッサリ捨てました。例えば、最初のオープニングのところで、昔泊まったことのあるラブホテルに当時とは違う女の子と泊まって話を、「20年ぐらい経って同じラブホテルに行ってる男、引くんですけど」って編集者に言われて(笑)。
糸井
ああ、なるほど、なるほど。
燃え殻
「ちょっといいとこ行かないんですか」みたいな。それで、六本木のシティホテルみたいなラブホテルに行くって変えたりとか(笑)。あとは、彼女がいるのにスーっていう女の子といい感じになるところがあって。それも「女子は引きます」と言われたから、スーとの直接的なセックスシーンみたいなところは全部切ったんです。
糸井
だから寂しかったのか。
燃え殻
(笑)。切っちゃったんですよねえ。
糸井
作品を出すっていうことと、商品を出すということって違って。女子が引くなら引くで、引けよっていうのが作品じゃないですか(笑)。それで、「きれいにしましょう」って拭くのが商品じゃないですか。だから、丸々否定するわけにはいかないし、バランスの問題だから。
燃え殻
そう、だから、やっぱりその最初に、このゴールデン街の朝だったりとか、ラブホテルのその朝か夜かわからないところだったりの部分ってぼくとしてはすごく気持ちよかったんですよね。いろんな人たちと共有したかったってなった部分だから。

糸井
あのラララ、ラララランド。
燃え殻
なんかスクラッチしちゃいましたけど(笑)。『ラ・ラ・ランド』。
糸井
ララ、『ラ・ラ・ランド』の中で、ヒットソング作れるようになっちゃった黒人の子が出てくるじゃない。
燃え殻
本当に言いづらいんですけど、ぼく、観てないんです‥‥。
糸井
観てないのか。観たらいいよ。『ラ・ラ・ランド』の中で、主人公の男の子は、売れ線の曲ばっか作る知り合いのことを、「あいついやなんだよな」って思ってるんだけど、その人から「俺のバンドに入れよ」って言われて。で、恋人と暮らすにには金も必要だし、生活が安定しないと作品作りどころじゃなくなっちゃうから、その男の子は、そのバンドに入るんだよ。
燃え殻
観ます。
糸井
あれはあれで、大人になれなかった人が大人になっちゃっちゃったみたいな話だから。どこに自分の軸を置くのかっていうのは、やっぱり必要で。世の中の物事は、作品と商品の間を揺れ動くハムレットなんじゃないの? だって結婚は愛じゃないとか言う人っているじゃないですか。
燃え殻
いますね。
糸井
事業だとさ、商品として完成させるか、恋愛のまま突き進んでいって作品が売れなくなって大変な思いをするって人。両方いますよね。
燃え殻
いますねえ。
糸井
だから、この中でも、みんなに伝わるか、自分が気持ちいいかみたいな、商品か作品か、みたいなのは、それぞれあるんじゃないでしょうかね。
燃え殻
ああ、ありますね、絶対。あと難しいですけど、バランスがいいとうれしいな。
糸井
そうですね。でも、バランスをよくする方法を探しちゃうと、バランスは崩れる。
燃え殻
ああ、そうだと思います。
糸井
オートバイ乗ります?
燃え殻
乗らないですね。
糸井
オートバイの練習で、一本道というのがあるんです。その一本道をずーっとオートバイで行って、普通に下りればいいだけなんだけど、脱輪するんですよ。それは何でかというと、脱輪しないように車輪の先を見てる人は必ず脱輪するんです。だから、車輪なんか見ずにまっすぐ前を見ればいいんです。すると、自然にまっすぐ行くの。近くを見てると倒れるというか。
燃え殻
なるほど。ぼくは仕事が受注体質なので、お客さんが思うんだったら、そうしたいな、そういうものを作りたいなって思って、そういうものが作れたんだったら、それでいいじゃないかって思うんですよね。
糸井
はい。
燃え殻
ぼく自身が大好きな小説とか、映画とかってすごい少ないんですよ。でも、その中に共通してることって、やっぱりそのあとに自分語りをしたくなるもので。
糸井
自分語り。
燃え殻
ぼく、糸井さんに初めてあったときに、「糸井さんにはいっぱい代表作もあるし、代表曲もあるし、あるけど、ぼくは『イトイ式』という番組で糸井さんのことが大好きになりました」って言いましたけど、あの『イトイ式』っていう番組がすごかったのは、やっぱり糸井さんが答え出さなかったということですよね。あのときぼく、夜中に1人で見てましたけど、糸井重里はこういったけど、俺、こう思うんだよなとか、番組のあとに自分語りをして。だから、そういう自分語り出来るものが自分としてもできたのならば、とてもうれしいというか。
糸井
できてますよね。
燃え殻
だとうれしいです。
糸井
うん、ぼくがよく言うのは、自分が1番好きなのは、場を作ること。だから、ぼく自身が何か作ったものが褒められるというのは、瞬間的にはうれしいんだけど、それよりは、作った場で出てきた人が褒められてるほうがうれしいんですよね(笑)。
燃え殻
あ、それはすごいわかります。大槻ケンヂさんに会ったときに、「大槻ケンヂさんが小説を書いていたあと、ぼくは小説を書きました」みたいな、「面倒くさいファン」みたいなこと言ったんです。で、大槻ケンヂさんが、「それはうれしいよ。面倒くさいけどうれしい」と言ってくれて、そういう読んだ人に影響を与えられるのが、理想です。
糸井
ぼくは、読者が集まって何かをするって場を作るというのが、ものすごく大好きで。例えば、80年代のはじめぐらいにやってた連載で「ヘンタイよいこ新聞」というのがあって、その中の「かわいいものとは何か」ってお題に対して、「お父さんが股引で家の中を歩いてるのは妖精のようでかわいいと思います」というのがあって。お父さんの股引に「かわいい」を持ってくる人がいたってだけで、ちょっとジーンと来ました。
燃え殻
その場だから、生まれたっていう。
糸井
うん。で、いまの若い子はなんでも「かわいい」で済ませちゃってるっていう批判があったときに、この股引きの話を覚えてたから、「かわいい」で表現する人たちに対してものすごくぼくは温かいんです。
燃え殻
寛大な気持ちになれる(笑)。
糸井
「十円玉の真ん中にあるリボンがかわいいと思います」とか。
燃え殻
え、リボンありました?
糸井
こういうのなんです。「かわいい」という言葉は、ぼくがそれを拾って出すことで、世の中の「かわいい」の許容量が変わるじゃないですか。「3秒ルール」の発明とかもね。
燃え殻
はいはいはい。
糸井
あれも、なんとか拾う側の弁護人になりたかったからですよね。ああいう人間をぼくは、増やしていきたい(笑)。
燃え殻
(笑)
糸井
日本寛容党。

燃え殻
(笑)。糸井さん、今日、何の話でしたっけ。大丈夫ですか。やっぱり打ち合わせしたほうがよかったかな(笑)。
糸井
寛容になりたまえ。
燃え殻
はい(笑)。
糸井
大もとは、手帳の話だから。手帳が見えてる中でしゃべってるわけだから、なに話しても「あ、なんか手帳の話聞いたな」っていう。
燃え殻
サブリミナル的に(笑)。
糸井
なると思いますよ。
燃え殻
ならないんじゃないかなあ(笑)。
第2回 子どもを捨てないと、大人になれない