もくじ
第1回書きたい理由なんて、ほぼなかった。 2017-10-17-Tue
第2回ぼくだけが見た景色。 2017-10-17-Tue
第3回俺の話を聴け。 2017-10-17-Tue
第4回答えを出さないこと。慰めること。 2017-10-17-Tue

1994年生まれ。学生です。
水泳、空手、チェロ、生徒会活動、
シンガーソングライター、広告会社のインターン。
今日まで色々なことに挑戦してきました。
今度は「書くこと」に挑戦します。
よろしくお願いします。

なんでボクたちは書きたいのだろう?

なんでボクたちは書きたいのだろう?

担当・川西

2017年9月2日。
銀座ロフトで「ほぼ日手帳2018」の
発売記念イベントが開催。
そのイベントのなかで
今年も糸井重里とゲストの
トークライブが行われました。

今年、糸井が話をしたいと思った相手。
それは「燃え殻さん」でした。

燃え殻さんが
小説「ボクたちはみんな大人になれなかった」を
発売してから少し経った、この日。
燃え殻さんは糸井重里に聞きたかったことがありました。
その質問からはじまり、
対談はゆっくりと進んでいきます。

日々、どこかで言葉を書いている2人。

そんな2人が語る
「書くこと」とそのまわりにある
「思うこと」や「気持ち」のはなし。
燃え殻さんはいつもより、
いっぱい喋ってくれているようです。

全4回。
それでは、はじめましょう。

プロフィール
燃え殻さんのプロフィール

第1回 書きたい理由なんて、ほぼなかった。

糸井
じゃあ、始めましょう。
燃え殻
やりましょう。昨日あんまり寝れなかったんですよ。
糸井さんの顔がちらついて。
糸井
それはオレが好きで?(笑)。
燃え殻
あ、好きで(笑)。

糸井
(笑)。
ところで本の取材、たくさん受けてるでしょ?
燃え殻
はい、サラリーマンなのに(笑)。
糸井
サラリーマンなのにね。
燃え殻
はい。ありがたいことに。
6月30日に本が出てから何十件と。
糸井
はぁー。何十件と。
燃え殻
はい。
糸井さんには相談させていただいたんですけど、
いろいろな方から来る質問が心苦しいんです。
糸井
心苦しい(笑)。
燃え殻
ウソをつかなきゃいけない自分が心苦しい。
「なぜこの本を書いたんですか」
って言われるじゃないですか?
正直、本を書いた意味ってほぼないんですよ。
糸井
うん。
燃え殻
それで今日、糸井さんに聞きたかったんですけど、
小説とかって、何か訴えたいことがないと
書いちゃいけないんですか?
糸井
(笑)。例えば、ナマズを彫った高村光太郎に
「高村光太郎さん、なぜナマズを彫ったんですか。」
って、聞くみたいなことですよね。
燃え殻
そうそう。
その質問に「それは社会的にこんな意味がある」って、
高村さんは言えたんでしょうか。
糸井
言えないんじゃないでしょうかね。
燃え殻
そうですよね?
でも、ぼくは答えなきゃいけないので。
だから、この本はちょうど90年代から
2000年ぐらいのことを書いたので、
「90年代ぐらいの空気みたいなものを
ぼくは一つの本に閉じ込めたかったんです。」
みたいなウソを(笑)。
観客
(笑)。

燃え殻
ここ1か月ぐらいずっと、このウソをついてて(笑)。
もうウソがすらすらと口から流れ出るようになって。
糸井
的確なウソですよ(笑)。
燃え殻
質問した方は「あ、なるほど」みたいな。
糸井
でも、それでもいいやっていうウソですよね。
燃え殻
多分それがいいんだっていう。
糸井
うんうん。「それが聞きたかったんですよ!」みたいな。
燃え殻
そう。取材を受けていくうちに、
こういうこと言っとかないといけないんだって。
その場所にいろんな人たちがいて、
その人たちが頷いてないと怖いじゃないですか。
これを言うと、少し場が温まる。
温まりたいから、それをずっと言ってしまう(笑)
観客
(笑)。
糸井
はいはいはい。
燃え殻
それで、その色々な方々に取材してもらった記事が
アップされる日が大体、同じ日なんですよ。
多少、前後する程度で。
だから、「おまえ、いつも同じこと言ってくだらねえ」
ってネットとかで言われるんです。
全然関係ない人から、
「宣伝男」みたいなこと言われて(笑)。
糸井
(笑)。
燃え殻
たぶん、この小説の中で書きたいことは
2箇所ぐらいしかないんです。
それは会社の行き帰りと寝る前や
寝てる途中で起き上がって書いてたんですけど。
糸井
ほう。

燃え殻
でも、それは訴えたいことじゃないんです。
書いてて楽しいみたいな。
糸井
自分が嬉しいこと。うんうん。
燃え殻
それが2箇所ぐらいあって。
会場には読まれてない方々が
いっぱいいると思うんですけど(笑)。
糸井
じゃあ読んでも、買ってもいない人用にしゃべります!
ようは90年代の空気を残したかったんです(笑)。
観客
(笑)。
燃え殻
あ、もう、なんか一番嫌な感じになってる(笑)。
糸井
(笑)。
燃え殻
まず1箇所目なんですけど、
ぼくが朝、ゴールデン街で寝てたときのことなんですよ。
糸井
ゴールデン街の外で寝てたわけじゃないでしょう?
燃え殻
外で寝てたんじゃなくて、ゴールデン街の狭い居酒屋。
まあ、居酒屋しかないんですけど(笑)。
糸井
そうだね(笑)。
燃え殻
居酒屋の半畳ぐらいの畳に寝てたんですよ。
そうしたら、ママ、パパ、ママみたいな人と‥‥
糸井
ママ的なパパ。
燃え殻
ママ的なパパ!そのママ的なパパと
一緒にいたぼくの同僚が朝ごはんを作っている。
ほうじ茶を煮出してて、
ご飯の匂いがするんですね。
糸井
うん。
燃え殻
網戸をパーッと開けると、
外は雨が降りつけてるんですよ。
でも、お天気雨みたいな感じで
日が差してるんですよね。
多分、「7時前ぐらいかな?」っていう時間。
けっこう頭が痛いんだけど、
「今日、仕事に行かなきゃな~。」と思う。
糸井
うん。
燃え殻
そんなこと思いながら、
ぼくの同僚とママ的なパパのなんでもない会話を
聞きながらボーッとしている。
もう一度、寝てしまいそうなんだけど、
寝落ちはしない。
糸井
うんうん。
燃え殻
昨日嫌なことがなかったから、
「ああ、昨日嫌だったなあ・・」
みたいなこともない。
今日も嫌なスケジュールは入っていなくて。
それで、ありがたいことに
内臓あたりに痛いところもない。
 
という1日を書いてるときは、
気持ちがよかった。
糸井
あ、よいですね。

燃え殻
もう1箇所がラブホテルにいたときのこと。
このロフトで言うのも、なんですけど。
 
朝、真っ暗で、今が朝なのか夜なのかもわからない。
乾燥していて、喉がカラカラだから、
「ポカリスエットなかったっけ?」って探す。
糸井
うん。
燃え殻
その後、お風呂を入れなきゃいけないなと思って、
風呂場に行ったら、床のタイルがすげえ冷たくて。
まあ、安いラブホテルなんで、
お湯の温度が定まらないんですよ。
糸井
うんうん。
燃え殻
「アツッ! さむ!」みたいな(笑)。
糸井
うんうん(笑)
燃え殻
そのときに、
「ああ、今日これからまた仕事なのかって」思いながら、
「地球とか滅亡すればいいのにねえ」みたいなことを
ああだこうだとそこにいた女の子と言ってるんですね。
その女の子もまた適当な子で、全然働く気がない。
 
っていう朝のことを書いてるときが楽しかった。
ただ、これを新聞社の取材で話したら、
「ふざけんな」って言われるじゃないですか。
糸井
はいはい。
燃え殻
でも、これを書きたかったんですよね。
糸井
ああ・・・・。今日は手帳のイベントなので、
たぶん、「書く」って話になるんじゃないかと
思っていたんです。
いずれ、そういう話をしようと思ったんだけど
今まさしくその話になって。
燃え殻
はい。
糸井
なにかを思って終わりにするのは
ちょっともったいないような気がして。
それで、「書く」っていうところに
行くじゃないですか。
燃え殻
うん。
糸井
思ったときにすぐ書くとは限らないんだけど、
覚えておこうと思うだけで、なんかいいですよね。
燃え殻
そう、そうですね。
糸井
燃え殻さん、前に話をしたときに若い頃、
学級新聞みたいな壁新聞を作って毎日、書いてた。
燃え殻
はい。
糸井
その「思うだけじゃなくて書きたい」っていうのは
何なんだろうねって話をもう、してみましょうか(笑)。
燃え殻
しましょうか。

(つづきます。)

第2回 ぼくだけが見た景色。